雨ノ翼…

 朝
 
 翼をひろげたままの鳥が
 地べたに凍りついていました
 
 わたしは男ではありません
 けれど女でもないのです
 
 真冬
 吐く息は白い
 
 息は白くても
 この地上でわたしは他のもの
 
 はばたくことができなくて
 空から落ちた他のものです…
 
 暖房でくぐもった窓ガラス
 指先でなぞって空を仰いでいます
 
 額をこすりつけ見上げていると
 ふたたび白く曇るガラス
 
 部屋はこんなに温もっているのに
 窓ガラス一枚
 外は凍えるほどの寒さ
 
 時の格子に囚われているのは
 この地上で何者でもない他のもの
 
 選ばれたわけでもなく
 男でも女でもないわたし…
 
 あなたは
 はばたいているのでしょうね
 きっと
 
 あたかも
 あの空の主役であるかのように
 
 あなたは
 囚われの身となることなく
 はばたいているのでしょう
 
 かつて同じ空に
 はばたいていたわたしに
 
 遥か高みから一瞥を投げ
 風に乗り風を切って…
 
 男でも女でもないわたし
 
 男の人と関係するときは
 ひとりの女であったり
 男同士であったり
 
 女の人と関係するときは
 ひとりの男であったり
 女同士であったり
 
 空腹を満たすように
 からだを重ね合わせ
 欲望を満たすだけ
 
 嫉妬もなければ
 束縛もない
 
 わたしたちの関係は
 いたってクール
 そしてドライです…
 
 朝
 
 翼をひろげたままの鳥が
 地べたに凍りついていました
 
 たとえ
 雪が雨に変わっても
 
 わたしは女ではありません
 けれど男でもないのです
 
 ワタシハ雨ノ翼デス…
 
 
                          © 伊武トーマ

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