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地域包括ケアシステムを少子高齢化の柱に

<少子化は加速>

厚労省は2023/6/2、1人の女性が生涯に生む子供の数を示す合計特殊出生率が2022年は過去最低の1.26だったと発表しました。低下は7年連続で、コロナ禍での婚姻数の低迷などが影響しました。日本人の出生数は77万747人と前年比で5%減りました。外国人を除く出生数が80万人を下回るのは1899年の統計開始以来初めてです。
政府が2015年に数値目標に掲げた「希望出生率1.8」とは差があります。人口を維持するためには2.06が必要とされます。フランスの1.8やアメリカの1.66と比べても低いです。
少子化のスピードは加速しています。日本人の出生数は2015年まで100万人を超えていましたが、そこから7年で2割以上減りました。2022年の人口の自然減の減少幅は過去最大の79.8万人となりました。自然減は16年連続となります。
国立社会保障・人口問題研究所が2017年に示した将来推計人口では、中位推計で2022年の出生率を1.42、出生数を85.4万人と見積もっていました。
婚姻数は3年ぶりに増加に転じて50.4万組となりましたが、コロナ前の60万組との開きは大きいです。2023年1月から3月では13.5万組と前年同期比で15%減っています。

<高齢化も加速>

社会保障給付費は2023年度予算ベースで134兆円に増加し、この20年で1.6倍となりました。健康保険組合連合会が2022年にまとめた推計では、健康組合の加入者1人当たりの保険料が2040年度に45万円前後と、2019年度の25万円から8割以上増える計算です。
 
<女性活躍は進まない>

内閣府は2023/3/14、男女共同参画社会に関する世論調査の結果を発表しました。調査は2022年11月から2023年1月上旬に、5000人を対象に実施しました。女性活躍が進まない理由として『育児などに多くの時間を費やす』が84%に上りました。男性が育児や家事に積極的に参加するために必要なことは、『職場における理解を進める』が67%と最多でした。育児での配偶者との役割分担で、『保育所や家事代行などの外部サービスを利用しながら家事をしたい』が74%で、前回調査より40.6ポイント上昇しました。

<ジェンダークオータ制の導入>

政府は東証プライム市場に上場する企業に、2025年をメドに女性役員を少なくとも1人登用するよう促す目標を設ける調整に入りました。罰則のない努力義務とする想定です。東証には上場規則への明記などを提案します。また、プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上とする目標を掲げました。政府は6月にまとめた女性活躍、男女共同参画の重点方針『女性版骨太の方針』に盛り込みました。

▼女性版骨太の方針2023▼
https://www.gender.go.jp/kaigi/danjo_kaigi/siryo/pdf/ka70-s-1.pdf

内閣府によると、プライム上場で取締役、監査役、執行役に女性がいない企業は、2022年7月末時点で18.7%、30%を超える企業は2.2%にとどまっています。政府は2022年までに東証一部上場企業の役員の女性割合を12%とする目標を定めていましたが、2022年7月時点でプライム上場企業の女性役員比率は11.4%です。

日本は欧米と比べて女性役員の割合が低いです。優良上場企業を対象にした調査で、2022年時点でフランスは 45%、イギリス41%、ドイツ37%、アメリカ 31%でした。
ジェンダークオータ制度を導入している国もあります。イギリスは取締役会メンバーの最低40%を女性とするよう求める上場ルールがあります。 

<IT業界では女性の活躍が進む>

IT業界では女性の活躍が進んでいます。男女の賃金格差が小さいこと、テレワークが主流なことが要因として考えられます。
情報サービス産業協会によると、日本のIT技術者に占める女性比率は2021年に22%と、2011年比で7ポイント高まり、アメリカ22%、EU19%と同水準になりました。IT技術者にはプログラマーやシステムエンジニアなどが含まれ、日本には2020年に男女合わせて125万人がいます。
リクルートによると、異業種からIT技術者への転職者数も2013年から2022年にかけて11倍に増えました。
厚労省の2022年の調査によると、男性の一般社員の給与を1とした時IT産業の女性は0.83で、金融保険0.71や 製造業0.79より差が小さく、管理職では女性の方が高い状況です。
国交省によると、テレワークの実施率は2022年度にIT業界が74%と主要産業で最も高かったです。
ヒューマンリソシアの2022年の調査によると、ITを専攻した大卒者に占める女性の割合は日本が9%で、韓国の28%や欧米と比べ低水準です。 
スイスのビジネススクールIMDによると、2022年の日本のデジタル競争力は63カ国のうち29位でした。低迷する要因の1つがIT技術者の不足です。

<政府の骨太の方針2023> 

政府は2023/6/13、少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」を決定し、2023年度骨太の方針に反映させました。児童手当を高校生まで延長する等主に子育て世代への金銭支援がメインとなりますが、 安定財源は確保できていません。 

▼骨太の方針2023サマリー▼
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/summary_ja.pdf

<過去のドイツも同様の施策で低迷>

ドイツは1990年代まで手当給付を中心とした家族政策を実施していましたが、出生率は回復せず1.2台まで落ち、EU の中でも深刻な少子化に陥りました。

<お金だけでは子供は産まない>

政府の「こども未来戦略方針」「骨太の方針2023」で示されているのが主に金銭的支援となりますが、これでは失敗するのは過去のドイツで立証されています。以下のnoteでも記載しましたが、少子化対策はハード面ではなくソフト面に焦点を当てる必要があると考えます。

▼少子化対策はソフト面へのケアを▼
https://note.com/masanori1980/n/naabd5361bd32

一方、実はドイツの出生率は2021年に1.58まで持ち直しています。このV字回復をPPP(パクってパクってパクリまくる)すべきと考え、今回はドイツをPPPします。

<PPPするのはドイツ>

ドイツは2000年代、家族政策として「金銭的支援」に加え「保育所などのインフラ整備」「時間の確保」の3つの柱を打ち出し、党派を超えて共有しました。中でも注目すべきなのは家族で過ごす時間を確保できるようにする時間政策です。時間にゆとりが持てなければ子育ての先行きを見通せず子供は増やしにくいです。ドイツのアレンスバッハ世論調査研究所の報告書によると、ドイツではこの30年で両親共に子供と過ごす時間が増えました。1993年には父親の場合平日1.9時間でしたが、2019年には3時間に増え、母親も3.4時間から5.9時間に増加しました。
政策を具体化する仕組みの一つが「家族のための地域同盟」です。家族に優しい地域を目指し、行政や地元企業、教会など各機関の代表が同じテーブルに着いて話し合います。政府や企業など参加団体が活動資金を出して、父子向けの余暇活動や職場復帰支援など多様なサービスを提供します。地域主導で家族支援の方針を決め、実際に問題解決につなげます。 

<まずは各家庭から時間を確保する>
 
私はドイツが取り組んだ「保育所などのインフラ整備」「時間の確保」は必須だと考えます。中でも「時間の確保」という観点は日本に欠落していると考えます。
以下のnoteで記載しましたが、ジェンダー平等、生産性向上を測ることにより出生率向上が見込めます。まずは各家庭で家事・育児・仕事のジェンダー平等を作り、夫婦共に正社員としてフルタイム働くことにより各家庭における時間の確保を設けます。 

▼ジェンダー平等、生産性向上が出生率向上への道▼
https://note.com/masanori1980/n/n2ffd1ee0e62c

<地域包括ケアシステムを少子高齢化の柱に>
 
政府と地方自治体は主に「金銭的支援」と「保育所などのインフラ整備」を担当します。実はドイツの「家族のための地域同盟」とほぼ同じものが日本にも存在します。厚労省が提言している「地域包括ケアシステム」です。

▼地域包括ケアシステム▼
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
 
地域包括ケアシステムは厚労省が主管となっているため、主に高齢化と医療の部分に焦点が当たっていますが、ドイツの「家族のための地域同盟」を考えた時に「少子化」も含めて考えてしまえばいいのではないかと考えました。

私が岸田首相であれば、「骨太の方針2023」の少子高齢化の柱には「地域包括ケアシステム」を位置づけます。具体的には政府がこの地域包括ケアシステムの活動資金を出します。地方自治体を含め、産学官連携で地域包括システムで『少子高齢化』に耐えうる『スマートシティ』の構築を競わせます。全国一律ではなく、より良いサービスを提供できるように知恵を絞らせます。政府はサービスの内容が比較できるサイトを運営し、国民に見てもらえるように広告、周知させます。
住民がそのサービスを評価した結果として、サービスの良い地域は人口が増加し、サービスの悪い地域は人口が減少します。人口が減少した地域の担当者は1年に一度、人口が増加した地域に実地見聞及び担当者にヒアリングをして、改善計画を提出し、翌年までのアクションプランを作成し、実行に移します。

各家庭と企業、地方自治体、政府がまさに産学官一体となって、少子高齢化に取り組む仕組みを構築するのです。ドイツの「家族のための地域同盟」と同じことができれば、日本の出生率も30年後には1.5まで回復する可能性が高いです。歴史や他国に学んだ実効性の高い政策が2024年度予算に組み込まれることを希望します。


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