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Écriture No.1 「音程」

これより、長期連載として、エクリチュールをとにかく語っていこうと思います。記事掲載直後は無料で全文公開するつもりです。

さて、クラシック音楽の理論でもっとも根幹をなす要素、もちろんこれはたくさんあるでしょうが、一つは音程だと思っています。音程はとても重要な要素で、それ自体に修辞学的な意味を持たせることもしばしばです。

今回の記事では、和音、つまり同時に鳴るときとしての音程について、それぞれ述べていきます。

和声学用語を説明なしに使うこともありますが、飛ばして読んでいただいても構わないように書いているつもりです。もしご質問があれば、個別に
e.chamo@hotmail.co.jp
までどうぞ。

一度

一度は「完全一度(0半音)」「増一度(1半音)」「重増一度(二半音)」の三つが良く使われます。それぞれ非常に特徴的な音です。

完全一度はピアノでは演奏が実質不可能ですが、曲中にはよく出てきます。音楽の流れで演奏が実質不可能でもそのように聞こえる、ということはよくありますね。これは音楽理論の一つの価値だと思います。

完全一度はユニゾンなどとも言い、オーケストラでは旋律を強調させる役割を持ちます。力強さや「完全」というイメージから、宗教的な神のイメージを持つこともありますし、軍隊的な力強さのイメージを持つこともあります。

増一度は意識しないと発見することができませんが、和声音と刺繡音がつくる増一度はよく見かけます。和声として増一度を見かけるのは次のような形だと思います。

重増一度は減七和音の第九音と導音の下方刺繡音としてしばしば現れます。モーツァルトは導音の下方刺繡音を長二度でとり、第九音と増一度で衝突させることがありますが、下方刺繡音を短二度でとると、衝突がやわらかくなります。

二度

二度は減二度(0半音)、短二度(1半音)、長二度(2半音)、増二度(3半音)をよくみかけます。

減二度は平均律では結局同じ音なので異名同音とも呼ばれます。調の切り替えのときに見ることが多いです。

短二度は長七和音の第三転回形や、倚音としてみることが多いのではないかと思います。音が衝突する感じが強く、「苦痛」などイメージを持ちます。緊張感が強い和音なので、積極的に用いると音楽が豊かになります。バッハの短二度の例は挙げたい例がいくらでもありますね。

長二度は属七の第三転回形としてみることが一番多いかもしれません。短二度にくらべて不協和な感じが緩和されているので、自然に用いることができますが、一方で緊張感は短二度ほどは得られません。

増二度は、減七の和音の転回として出てくることが多いと思います。平均律では短三度と同じ音程なので、衝突している感じはほとんどしません。ただし、増音程特有の不協和な感じがあり、和声を豊かにしてくれます。

三度

三度は減三度(2半音)、短三度(3半音)、長三度(4半音)をよくみかけます。増三度は見かけないことはありませんが、調性音楽の和声として用いられていることはほとんどないのではないか、と思います。異名同音として、あるいは刺繡音として用いられることは多いです。

減三度はこの名前を冠する減三の和音に登場することが多いでしょう。ただし、複音程の減十度として用いられることのほうが多いとは思います。独特の緊張感を持ち、和声的な指向力が強い音です。ベートーヴェンの頃からよく見られますが、特に減三度の響きを開発した作曲家はセザール・フランクではないかと思います。

短三度は三和音を作る非常によく用いられる音程で、たくさんの使われ方をされていますから、特筆すべきことはありません。これからの記事で様々な短三度を紹介したいと思います。

長三度も短三度と同じですが、純正律では周波数比が4:5ということもあって、協和感が非常に強いです。平均律では純正律よりも14セントほど広いということもあって、より明るい響きになります。これは平均律の利点としても考えられます。

四度

良く用いられるのは、完全四度(5半音)と増四度(6半音)です。減四度はしばしば見かけますが、これは増五度の転回音程として後に説明することにします。

完全四度は和声学的には複雑な立場にあって「バス(最低音)と作る完全四度は不協和音程だが、そうでない完全四度は協和音程である」とされます。中世の音楽では完全四度は協和音程とされました。この歴史もあり、完全四度を単独で鳴らすと、古代や中世を想起させることがあります。近代和声では中国のイメージでもよく使いますね。

増四度は同じ意味ですが「トリトン」「三全音」などとも呼ばれます。平均律では周波数比が1:√2になるということで、人間に耳にはオクターヴのちょうど真ん中の音に聞こえます。オクターヴのちょうど真ん中にあるにもかかわらず、耳には非常に不協和です。また、減五度との区別がつきませんので、この音を利用した転調はよくみられます。衝突しない不協和音として「悪魔の音程」と言われ教会音楽では避けなければいけなかった時代もあったほど特殊な音程です。それだけ人を魅了してきた音程ともいえるでしょう。
二つの減五度からなる異常な効果としての減七の和音の例として、マタイ受難曲から「バラバ!」

五度

五度は減五度(6半音)、完全五度(7半音)、増五度(8半音)をよく見ると思います。

減五度は増四度で説明した通りです。

完全五度は純正律で周波数比が2:3であり、平均律でも純正律から2セントしかずれないということもあって、非常に協和度が高い音程です。協和音といったら完全五度、といえるほどです。どっしりとしたゆるぎない感じをもち「堂々とした」印象を与える音程です。

増五度はその名を冠する増三和音(増五度を用いた三和音という意味)としてみることが多いと思います。指向性が強く、また柔らかい不協和音で、ぐっと和声が豊かになります。

六度

六度は短六度(8半音)、長六度(9半音)、増六度(10半音)で使われることが多いです。

旋律的な短六度と長六度は重大な違いがあり、覚えておく必要があります。ルネッサンス~バロック前期までは、短六度は旋律として許される音程でしたが、長六度は歌いづらい音程として避けるべき旋律でした。(例外は多く見られます)実際長六度は取りづらい音程で、かなり広いです。短六度と長六度の区別は和声初学者はつけづらいのですが、その響きの違いをよく知ることはとても大切です。

七度

七度は、減七度(9半音)、短七度(10半音)、長七度(11半音)、増七度(12半音)をよくみかけますが、増七度はオクターヴの異名同音ですね。

減七度はこれまでにもたくさん登場した減七の和音を作る音程です。緊張感が強く和声的な指向力も強いですが、同時に転調に便利な音程でもあります。古くから様々な使われ方をしてきた音程です。

短七度は、属七の和音に登場する音程であって、最もよく見る不協和音程かもしれません。もちろん、属七以外にも様々な使われ方があります。

長七度は、不協和感が非常に強いのですが、短二度と違い音程が広いので短二度よりはやわらかい響きとなります。短二度にあるような「苦痛」のイメージはむしろ少なくなって、情感がある音程です。

八度

八度は重減八度(10半音)、減八度(11半音)、完全八度(12半音)、増八度(13半音)、重増八度(14半音)などをよくみますが、最も見るのはなんといっても完全八度です。これはオクターヴと名前がついています。ラテン語の8を表す「octo」から取られた言葉です。周波数比が1:2になることをオクターヴというようになり、物理の世界で光の周波数に関してもオクターヴという語が用いられることがあります。音楽家としてはなんとなく誇らしいですね。

九度

九度は二度の複音程ですが、他の複音程と違って、短二度と短九度、長二度と長九度は和声の機能的にも、響き的にも全く異なっているので、複音程としてかんがえるよりむしろ九度という一つの音程と考えることが多いです。これについてはまた別の記事で話すことにしましょう。

複音程

ある音程に7、15、22、・・・を足した音程を複音程といいます。

短二度の複音程は短九度、短十六度、短二十三度、となります。

短や、長などは守られることに気を付けてください。複音程にしてもオクターヴの違いだけで、音は変わらないのがポイントです。

転回音程

下の音と上の音を入れ替えた音程を転回音程といいます。2度から7度の各音程に対し、9から度数を引き、
長↔短
増↔減
重増↔重減
という変換をします。たとえば、短三度なら、長六度となります。これも音名はかわりません。

協和音程

長短3度(3半音と4半音)
長短6度(8半音と9半音)
完全1度(0半音)
完全5度(7半音)
完全8度(12半音)
のことを協和音程と言います。完全四度(5半音)はバスと作る音程でなければ協和音程と言います。(が不協和音程と思っておいたほうがいろいろ便利です)

不協和音程

協和音程でない音程を不協和音程と言います。例えば
長短2度(1半音と2半音)
長短7度(10半音と11半音)
完全4度(5半音)
トリトン(6半音)
全ての増音程、減音程、重増音程、重減音程

たとえば、3半音でも、短三度なら協和音程ですが、増2度なら不協和音程です。なによりも、音程の度数が大事です。

セント

オクターヴを12分割したのが「半音」という単位ですが、1200分割した「セント」という単位があります。半音というと音律によって微妙に音程が異なってしまいますが、セントというと厳密です。

周波数比からセントに直したいときは次のような式に従います。

周波数比がa:bのときセント数は

という式で表せます。また、セント数がcのとき、周波数比は

で表せます。これらの事は一応気に留めておくと、和声のより深い理解につながるかもしれません。

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