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ぼくりりの「レストラン理論」から読み解く、売れるコンテンツの作り方

2017年5月、「VALU」というサービスがローンチされ、時代の先端を走るインフルエンサーの人たちが軒並み参加しました。
(VALUの説明は割愛させていただきます)

私も遅れるまいと試しながら、多くの人のVALUをゲットしていきました。その中で、アーティストとして初めて(だったと思う)「ぼくのりりっくのぼうよみ」がVALUを利用し始めたので、すぐに飛びついたのです。

彼の「BlackBird」という曲がとても好きだったのですが、その時は「いい曲つくる若そうな人だよなあ」程度のことしか知りませんでした。

ぼくりりの「メルマガ」が届いた

すると、しばらくして優待としてぼくりりからメルマガが配信されました。(文書ファイルで提供されました)

その内容がとても濃くて、非常に驚きました。私も本を書いていますが、同じコンテンツビジネスに携わる身として考えさせられることがたくさんあったのです。

全部公開するのは色々と問題だと思うので、ここではほんの一部だけを抜粋しつつ、私なりに補足の解説をしてみようと思います。

メルマガの中に書かれていた文の一節がこちら。

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※メルマガ第2号より抜粋

アーティストをレストランに例えていますが、これを仮に“コンテンツの「レストラン理論」”と呼びましょう。

私も本というコンテンツビジネスのことをメタファーとしてレストランで表現することが何度かあったので、「そうそう!」と強く膝を打ちました。

では、上から1つずつ整理しながら解説してみましょう。

“得意なあるいは好きなジャンルの音楽をまず把握し、客が欲しがっているものを調べ、需要がある層に届けます。”

この一文はまだ本題に入る前のものですが、これはマーケティングの3Cにおける2つのC、つまり「Company(自社が何を提供できるか)Customer(顧客が何を求めているか)を押さえておく」ということだと読み取れます。

この一文から、ぼくりりは実は「作りたいものを作る」というプロダクトアウト型ではなく、「皆が欲しいものを作る」というマーケットイン型で作っていることが伺えます。

もちろん音楽活動というのはクリエイティブなものなので自分がやりたい音楽でもあるのでしょうが、それだけではなく顧客ニーズターゲティングもしっかりと意識していることが伺えます。

※このメルマガを書いているのは2017年10月なので、ぼくりりは当時19歳。10代の若者が音楽を作る時にそこまで考えている、というのは純粋に「すげえな」という印象ですよね


さて、レストラン理論はここからです。

レストラン(=クリエイティブの展開)で大事なことは何か、ということが続けて書いてあります。キーワードを抜粋して解説してみましょう。

◆“味だけじゃない”

レストランにおける「味」というのは、まさに料理そのものですから「プロダクト」を指すでしょう。

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本を書く人であれば、その本のクオリティはどうなのか。
音楽を作る人であれば、その音楽のクオリティはどうなのか。
イラストを書く人であれば、イラストのクオリティはどうなのか。
これらが料理の味を指すでしょう。

しかし、ぼくりりは「レストランは味だけじゃない」と指摘します。
つまり、「プロダクトが良ければそれでいい、というわけではない」ということです。

◆“内装がどうか”

では何が必要かということで続けて「レストランの内装がどうか」と書いています。これは単にレストランの壁紙だけを指しているだけではなく、お店全体の雰囲気つまり「ブランド」と解釈できるでしょう。

そのサービスの醸し出す全体の雰囲気は顧客にどう伝わっているのでしょうか。たとえば本であれば、装丁をはじめとするブックデザインも含まれるでしょう。著者自身の名前や著者の服装や佇まいも見られているはずです。

音楽を作る人も同様です。グループであればそのグループの雰囲気をひと言で表すと何なのでしょうか。グループ名やビジュアルなど、各要素全体でどのような「世界観」を構築しているのでしょうか。 

その本や音楽や作品を「好きだ」ということ自体、ある種の優越感をもたらす。それがブランドパワーとも言えます。

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ぼくりりの(現段階での)主戦場である音楽の場合には、「空間の演出」というのも大きな鍵になってくると考えます。なぜかといえば、「ライブ」があるからです。

「内装がどうか」というのは、ライブ空間での演出も当てはまるでしょう。ライブでのパフォーマンスはどのような演出にするのかMCでは何を語るべきなのか、しっかりと世界観を設計しなければなりません。

その世界観に浸りたいが故に、観客はお金を落としていきます。もはや音楽パッケージだけではマネタイズできない時代です。実はぼくりりのメルマガ第1号でも「CDが完全に終わった理由→その先にある未来は?」というタイトルで音楽パッケージが売れない時代になってきたことをビッシリと考察していました。(なんという若者でしょうか…)

いずれにしても、これからの時代はいかにライブを含む「レストランの雰囲気」を大事にするかがキモになるでしょう。

◆“接客がどうか”

レストランにおける接客も、レストランの善し悪しを決める重要なポイントであることは間違いありません。せっかく料理が美味しいお店でも、接客がひどければその飲食体験が台無しになることは誰しも経験があるでしょう。

コンテンツビジネスもそれと同様で、接客つまり「エンゲージメント」が重要と言えるでしょう。エンゲージメントというのは“日頃からのファンとの関わり”です。

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いま人気のYoutuberは、日々のファンとの交流をTwitter上で行っています。何百万人のフォロワーがいても、可能な限りメンションにレスを書いたり、メンションされずともファンの投稿をリツイートしまくったりしているわけです。

そうやって接触を繰り返すことで、ファンの中でのマインドシェアが高まっていきます。これだけ情報量の多い時代になりましたから、ファンのマインドシェアをいかに高めるかというのは死活問題とも言えるでしょう。

人気Youtuberなどはその辺りが非常に長けているというか「マメ」だと言えます。そうやってファンからの好感度も高めながらファン数をじわじわと増やしているわけです。

実際、どれだけ良い本を書く人でも、会ってみたら対応が冷たかった、ということもありますし、どれだけ良い曲を書くアーティストでも、何を言っても無視する人だった、ということもあるでしょう。そうすれば徐々にファンが離れていくというのは必然だと言えます。

SNS時代だからこそリアルな接客態度、つまりファンへの対応というのも重要なファクターになってくるのです。

◆“周囲の客がどうか”

そのレストランに入った時、周囲のお客さんの「質」はどうなのでしょうか。質というと何とも直接的な表現ではありますが、要はどのような属性のファンで、どのような振る舞いをするファンに囲まれているのかということです。

SNSで人々の意識が分断されている時代、ファンのいる場所が良質なコミュニティであることも重要です。「それのファン」になることで空気感として居心地が良くなければ、ファンは自然と離れていってしまいます。

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極端な話、オシャレで高級なレストランだと思って入ったお店なのに、新橋のガード下にいるようなサラリーマンがあちこちの席で愚痴を吐いていたら「何だか居心地が悪いな…」と思われてしまいます。

そうならないためには、「このお店はどのようなお客様に来てもらうべきか」というターゲティング設定を明確にしなければなりません。

冒頭の一文でもぼくりりは「需要がある層」という表現をしていましたが、そのがまさにターゲットです。そこがブレてしまったり、「とにかく多くの人に届けたい!」などとしてしまうと、結局誰にも来てもらえないことになりますし、逆に色んな客層が来てしまっても各々が「居心地悪いな…」と感じてしまうわけです。

そう考えると、最近ぼくりりの発言で話題になった「説教ババア軍団うざすぎワロタ」というツイートも理解ができます。(表現はさておき)

「ぼくりり」というレストランが当初想定していたターゲット設定と異なるお客様がやってくるようになり、「この料理はこうしたほうがいい」とか「このレストランはこうあるべき」とか口を出すわけです。そりゃ、レストランのオーナーとしては困ってしまいますよね。

ですから、「どのようなお客様に来てもらうべきか」を最初に設計したり、常に修正を図ることはレストラン運営においてとても重要なのです。

◆”どれだけ美味しい料理を出すお店でも、ウェイターがメニューを30分持ってこなかったら嫌じゃないですか”

この一文は、前述の「“接客”が悪い」ということも指すでしょうが、「タイミング」という観点でも解釈ができます。

それがどれだけ良いコンテンツだったとしても、お客様が欲しがっているタイミングで提供されなければならない、ということです。

音楽でいえば、その昔「イカ天ブーム」というのがありました。「イカすバンド天国」という番組を機に、デビューしていったバンドは数知れません。
最近では「フリースタイルダンジョン」という番組を機に有名になるラッパーも増えてきましたよね。

このように、時代の波というか世の中の空気感というのも大事な要素だということです。お客さんが欲しがっているタイミングで欲しがっているであろうコンテンツを投下する。それがヒットの要素でもある、と。

有名な5W1Hのフレームワークに当てはめると、コンテンツが「What」で、ブランドパワーが「Who」ターゲットが「Where」だとしたら、時代性が「When」です。

何を提供するのか。誰が提供するのか。どこに(どの層に)提供するのか。
そして、いつそれをマーケットに投下すべきなのか。時代感をよく見定めるべきでしょう。

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他にもレストランのメタファーとして言えることがあると思うので、私なりに追記をさせていただきます。


<誰がそのお店を推薦しているのか>

レストランではよくテレビで取りあげられたとか、タレントの誰々さんが推薦しているなどといって行列ができたりします。
つまり「レコメンド」ですね。

書籍では帯に「〇〇さん推薦!」などといった文字が踊り、それによってコンテンツの信用が担保されるわけですが、あなたのコンテンツは誰に推薦されているでしょうか。また、それをしっかりと伝えられているでしょうか。

ただ、注意しなければならないのは、これもコンテンツパワーがあってこそです。誰が推薦していようと、良くないものは良くないです。ハリボテはすぐにバレてしまう時代ですから、まずは良いプロダクトを作りこむというのが前提になる、ということは押さえておかなければならないでしょう。

<どれだけ知ってもらう努力をしているか>

どれだけ良いお店でも、知ってもらう努力は必要です。
あなたのプロダクトは、あなた自身は、どれだけ発信できているでしょうか。

今は、書籍における出版社や、音楽におけるレコード会社など、組織の発信力よりも「個人の発信力」のほうが影響が大きくなりました。逆に言えば「プロダクトを作っているのに発信しないなんてもったいない!」ということです。

もはや、個人の発信そのものもコンテンツです。どんな発信をすれば顧客に響くのか、影響が大きくなるのかを意識しながら高い頻度で発信し続けるべきでしょう。


ということで、ぼくりりのメルマガの一部から考察を広げていきました。何かの参考になっていれば幸いです。

ちなみに、VALUは過疎っているのでメルマガも止まってしまっているのが現状です。またどこかで、ぼくりりのコンテンツへの思考を伺ってみたいものです。天才を辞したとしても。


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