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インタビューは「日常」であり「魔法」である

インタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」(https://the-interview.jp)の講師 、宮本恵理子がゲストを招き、そのインタビューの哲学や技法について質問する公開勉強会「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」。

第14回目のゲストは、東洋経済オンライン編集長、NewsPicks編集長を経てコンテンツプロデュースの新会社を起業準備中の佐々木紀彦さん。「佐々木さんにとってインタビューとは何か」と尋ねたところ「日常であり魔法である」との答えが返ってきた。佐々木さんのインタビューへの熱い想いが語られる。

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佐々木紀彦(ささき・のりひこ)
1979年福岡生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界を担当後、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年、NewsPicksに移籍し、初代編集長に。2018年、映像コンテンツのプロデュースを手掛けるNewsPicks Studiosを設立。現在、起業準備中。最新著書に『編集思考』。他に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げる』『日本3.0』がある。

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宮本 恵理子(みやもと・えりこ)
1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」や新雑誌開発などを担当。2009年末にフリーランスとして独立。主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。一般のビジネスパーソン、文化人、経営者、女優・アーティストなど、18年間で1万人超を取材。ブックライティング実績は年間10冊以上。経営者の社内外向け執筆のサポートも行う。主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』『新しい子育て』など。担当するインタビューシリーズに、「僕らの子育て」(日経ビジネス)、「夫婦ふたり道」(日経ARIA)、「ミライノツクリテ」(Business Insider)、「シゴテツ(仕事の哲人)」(NewsPicks)など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

インタビューは「日常」

宮本:佐々木さんは企業に向けて準備中で、実は私もそのチームメンバーとして参加しています。最近、佐々木さんとは週一回は会議をしています。会議でのやりとりを聞いていても、本当に佐々木さんは名インタビュアーだなと思います。

佐々木:私にとって日常が全てインタビューなのですよ。後で聞かれるのかもしれませんが、結論は「インタビューとは日常である」。

宮本:いきなり結論出てしまいましたね(笑)。では、このままズバリ聞いてしまいますが、インタビューで大切にしていることはなんですか。

佐々木:「その場を明るくして楽しむ」ことですね。

インタビューには2種類あります。一つは尋問的なもの。社会部の新聞記者や検事がするような質問です。もう一つが、相手の良いところを引き出していくもの。

「ジャーナリスト的インタビュー」と「コンテンツ的インタビュー」と言い換えてもいいです。

後者の「コンテンツ的インタビュー」こそ、あらゆるビジネスパーソンにとって、人生全てにおいて大事なスキル。

相手の良いところや意見を引き出す「コンテンツ的インタビュー」をみんなができるようになれば、日本はもっと対話があふれる素敵な国になると思うのです。

けれど、残念ながら学ばないですよね。学校でも。

宮本:学ばないですよね。佐々木さんはどこで学んだのですか。

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佐々木:育った家庭です。子供のころ母親と姉と一緒にいることが多かったのですが、2人が本当に話好きで、ずっとしゃべっているわけですよ。

すると私も「こうしたらもっと面白いな」と、いろいろ質問を試しているうちに自然と身についた。家庭で育まれるものかなと思います。


宮本:生まれながらにインタビュアーをしていた。

佐々木:そうかもしれませんね。基礎を身につけたのは家庭での対話でした。

宮本:「楽しむ」ために意識していることはありますか。

佐々木:「楽しむ」対象は3つ。まずは、インタビューをされるインタビュイー(語り手)。そして、インタビューをするインタビュアー(聴き手)。もう一つが、記事の場合は読者、イベントであれば聴衆、番組であれば、視聴者。この三者の楽しさを噛み合わせるところを意識しています。

宮本:3番目の読者、あるいは視聴者はリアルタイムで見える場合と見えない場合がありますよね。やっぱり見えない場合のインタビューの方が難しいですか。

佐々木:見えない方が難しいですね。「今、笑って聞いているな」とか視聴者の反応がリアルタイムで確認できると、やっている自分も気分が乗りやすいじゃないですか。

NewsPicksの番組でも視聴者が見えない分、スタジオにお客さんを入れていました。

宮本:お客さんの反応を見ながら質問を変えることもある?

佐々木:もちろんあります。「この話題、お客さんがノっていないな」と感じたらスパッと切って次の話題に行ったりしていますね。

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宮本:記事の場合、お客さんが取材の場に同席できないことが多いと思います。

佐々木:紙媒体の時代はそうでしたよね。私はファーストキャリアが『週刊東洋経済』でした。当時22歳で記事を書いていたのですが、読者の中心は50代の方。

読者の気持ちが全くわからず、完全にブラックボックス状態でしたね。そうなると独りよがりなものになりやすい。

今はweb媒体を制作することがメインになり、すぐに反応が見えるようになりました。半面、反応に左右され過ぎて今のインタビュアーは自分を練り込む時間がなくなってしまいがちかも。

反射神経は鍛えられるけれど、深い筋肉が鍛えられない。一見面白いけれど、コンテンツとして何も残らないようなインタビューになってしまいやすい時代なのかもしれません。

インタビューは「生きるための技法」

宮本:佐々木さんが「インタビューを極めよう」、「この道でキャリアを積んでいこう」と思ったきっかけは何かあるのですか。

佐々木:インタビューを極めようと思ったことは全くないですね。冒頭にお話ししたように、私にとってインタビューは日常なので、日常の延長が仕事になっている感覚です。

宮本:日常という意味では、今の時代に「聴く力」が盛り上がっていると感じています。
佐々木さんはどう感じますか。

佐々木:盛り上がっていますよね。

宮本:なぜだと思いますか。

佐々木:昔は「正解」がある程度いろんな世界であったじゃないですか。だからその「正解」を自分の中にインプットして、実践していけばよかった。

ところが今は「正解」がないか、複数あるか、もしくは日々変わっていく時代だといわれています。「正解」、あるいは「正解らしきもの」を見つけるために必要なのは、やっぱりインタビューであり対話なのです。

宮本:常に移り変わるし、新しい価値観が生み出される時代だからこそ、インタビューをしたくなるのは、本能的な行動なのかもしれないですね。誰かと繋がらないと生きていけない人間の。

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佐々木:人の知恵を借りるのが一番大事じゃないですか、こういう不確実な時代において。

人の知恵を借りる手法には、まず本があります。普遍的なこと、基礎的なことを深く知るには本が最適なのですが、最先端のことを知るには少しタイムラグがある。

Webの記事や動画でも学べますが、結局、最新のもの、一番優れたものは“人”が持っている。

だから、人から引き出すインタビュースキルがあるかどうかでその人の知的なパワーやアイデアを生み出す力が全部決まってしまう。

インタビュースキルは、今の時代に生きていくために一番重要な技法の一つになっているのかもしれないですね。

宮本:生きるための技法に近い。

佐々木:「インタビュー」には人の良さを引き出す“プロデュース”の側面もあります。

インタビューしながらその人の良いところ、今まで考えもつかなかったアイデアを引き出してあげることがプロデュースにつながる。

だから最近は自分をプロデューサーと名乗ることも増えてきたのですが、その基盤になっているのはやっぱりインタビューですね。

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宮本:名言ですね。

佐々木:昨年話題になったNiziUのプロデューサーであるJ.Y.Parkさんもインタビューが上手い。質問で相手の良いところに光を当て、引き出すのが上手いなと感心しています。

宮本:そんなインタビューを受けたら相手は楽しいでしょうね。

佐々木:インタビューをしている私も、話を聞いていて面白い。そして、話し手であるインタビュィーも楽しんでいる。そんなときに、相手の良いところが一番出てきやすいです。

宮本:先ほどの「楽しむ主体は3つある」の話につながりますね。

佐々木:著書の「編集思考」にも書いたように、人間はみんな、自意識の塊みたいなものですから。自分の話をゆっくり聞いてもらえるだけで、自己承認欲求が満たされる面もあります。

宮本:誰が聞き手になってくれるかにもよると思います。佐々木さんは相手をダダ洩れにさせてしまうインタビュアーかな。何が効いていると思いますか、ご自身の質問力で。

佐々木:意識していることは、3つあると思います。まずは王道として正鵠を射た質問をする。自分の専門分野で、「本当にこの人理解しているな」と思える質問をしてもらうとやっぱり嬉しいですよね。

2つ目は、今まで思いもよらなかった質問をすること。「こんなこと聞かれたことないな」と思う質問をされると良い意味の驚きを得られて、楽しいと思います。

そして、もう一つ。新しい視点で何か提案してあげること。

「これってこう思うのですけど、どうですか」という「提案+質問」で、単に質問をするのではなく、相手に何かアイデアを差し上げる。そうすると価値が出てきますよね。

宮本:まさにプロデュースの時間。

佐々木:だから相手をよく観察する。インタビューの「ビュー」は「観る」という意味。

観察してその人に興味を持ち、「あなたってこういう良さがあると思う」、「こうしたらもっと良くなる」とか。そんな自分なりの提案を少し質問につけてあげるだけでも、的外れだったとしても悪い気はしないと思うんです。

宮本:嬉しいですね。関心を、そんなふうに持ってもらえること自体が、現代において非常に貴重ですものね。

インタビューは「メインディッシュから先に」

宮本:私は、インタビューの一つの型として「現在→過去→未来」という順番を使うことがあります。

まず「あなたが今夢中になっている活動は何か」を聞く。現在の話は、時間軸として目の前にあることなので、具体的に話しやすい。

その上で、「夢中になっている今に紐づく原体験は何ですか」と過去を聞く。

そして、最後に「これからしたいことは何ですか」。この流れで聞くと、人は話しやすいし、その話はわかりやすくなるんです。

佐々木さんにも何かインタビューの型はありますか。

佐々木:良い質問ですね。何を聞くことが多いかな。

私は、直感型なのかもしれません。インタビューのテーマからいきなり入っていったりしますね。

宮本さんが今おっしゃった「現在→過去→未来」の型は良いですね。私は自分の興味があることから聞いていく。そればっかりですね。

宮本:興味があることから投げかけて、相手のリアクションに次の興味ポイントを見つけて掘り出していく感じなのかな。

佐々木:リアクション芸なのでしょうね。アドリブ芸というか。

自分がとにかく聞きたいことを、まず一番最初からドカンと聞く。それを聞いたら、いろんな意見が出てきて、さらに派生して質問が自然と出てくるので、その派生の質問をしまくってインタビューが終わる感じ。

コース料理でたとえると、最初から一番おいしい料理を食べるみたいな感じです。「メインディッシュから先に」が、私の方法論かもしれない。

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宮本:メインディッシュから食べると、シェフが裏から「実はこれも作ったんだよ」とさらにすごい料理を出してきたり。

佐々木:そうです。メインディッシュから食べると、メインディッシュよりすごい料理が出てくるかもしれない。

特に、時間のない方、インタビュー慣れしている方が相手の場合、「早く結論近いところから言ってくれよ」と思っている人が多いと思います。

そういう方が相手のときは、最初からドカンと聞いた方がその議論を膨らますことができ、他のインタビューより深いインタビューになり差別化できる。

だから、メインディッシュから先に食べた方が良いのかもしれない。

インタビューは「魔法」

宮本:では、ゲストの方に毎回聞いているラストクエスチョンです。「佐々木さんにとって、インタビューとは何でしょうか?」

佐々木:インタビューとは「日常です」と言ったら、最初の話と同じで面白くないので、「インタビューとは魔法」ですね。

宮本:魔法ですか。

佐々木:はい、魔法だと思います。

インタビューは、われわれが思っている以上に力がある魔法なのだと思うのです。

三つの意味で魔法になりうると思っています。

まず、インタビュアーとしては、インタビューすることほど人から知識や経験を引き出せるものはない。

私もインタビューに育ててもらった。

インタビューが上手くなればなるほど、知的好奇心を満たすことができて、いろんな方から良い「知」をいただくことができる。インタビューは、人生を知的に楽しむための魔法です。

インタビューされる相手にとっても魔法です。良いインタビュアーからインタビューされることにより、その人が思いもよらなかった化学反応が起き、新たな発見がある。

インタビューは人から「知」を貰うだけではなく、相手に「発見」を与えることもできる。その意味で、相手に対する魔法。

最後に、日本をこれから良くするための魔法です。

日本人は真面目な方が多く、真面目すぎるゆえに画一的な近代的な教育に染まりすぎています。明治維新以降の形から逃れられていない。

そこから新しいステージに進むために大事なのが、インタビューと対話です。

対話を本当にできるようになり、「あいつが好きか嫌いか」といった感情、「昔、習ったから」とか「慣習だから」といった固定概念から自由になる。

新しい時代を、常に進化しながら生きていくために、インタビューという技法をみなさんが身につけてくれたら、それは日本にとっての魔法にもなるのではないでしょうか。

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宮本:「日常であり、魔法である」って良いなと思いました。

インタビュアーにとっての魔法でもあり、インタビュイーにとっての魔法でもあり、これからの日本を前に進めるための魔法であるという。

美しい言葉でまとめていただき、ありがとうございます。

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佐々木:今日は楽しくて話し過ぎました。宮本さんが良いインタビュアーだったとあらためてわかりました。ありがとうございました。
(取材:宮本恵理子、構成・文:関戸大)

*当インタビューを企画しているインタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の詳細はこちら。
https://the-interview.jp/

*毎回豪華ゲストを招いて、インタビューのコツをインタビューするオンライン勉強会「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」はこちら。
https://the-interview.peatix.com/ 

*次回の「INTERVIEW ABOUT INTERVIEW」はこちら。第15回ゲストとしてお迎えするのは、編集者の干場弓子さんです。https://peatix.com/event/1994515


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