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乃木坂46にみる「ブランド戦略」2

「AKB48が、そしてアイドルが好きでした。アイドルを好きになってしまった自分を恨み、親の反対を押し切ってアイドルになった自分も恨みました。NGT48にならなかったら。こんな思いをしなかったのではないかとも思いました。でも今はNGT48になって良かったと思っています。」

 先日、NGT48の卒業を発表した山口真帆さんのツイートです。
 この問題に関しては何やら様々な情報が飛び交っているし、未だに解決も見えていないのでここではとやかく言いません。が、後引くだろうなあとは想像しています。

 さて以前、と言っても3年も前になりますが乃木坂46についての文章を書いたことがあります( https://note.mu/masashi3122/n/nc7399a60c585)
 その中で乃木坂46が「ブランドイメージ」を確実に積み上げていることを論じました。

 それから。
 乃木坂はレコード大賞を2年連続で受賞し、出す写真集は次々に記録を樹立、今や高い知名度を持つグループへと成長しました。

 先日「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」(ソニーミュージック六本木ミュージアム)に行ってきました。そこで展示されているのは乃木坂46が積み上げてきたブランドイメージを下支えする数々のデザインでした。
 ボツになった大量のCDジャケット写真やシングル曲のタイトルロゴ案、そして使用されてきた大量の歌衣装。PVで使用された小道具など。
 これらに驚く程の手間と労力、そして費用がかけられている。

 そこまでのこだわりを経て作り上げられてきた「乃木坂46」のイメージ。それらが世間から好評を得ているのだと思います。

 驚いたのは入場者の多くが女性だったり、ご年配の方もいたこと(平日に行きました)。乃木坂の支持層の広さも実感しました。

 これらのような評価に反して、よく乃木坂には「ヒット曲がない」と言われます。AKBで言うところのヘビーローテーションやフォーチュンクッキーのような。
 
 ただヘビーローテーションは2011年、フォーチュンクッキーは2014年の曲。
 これらの曲がヒットしてから、音楽のマーケットは大きく変化しました。
 音楽の視聴方法がCDからダウンロード配信になったのはもちろんのこと、今はサブスクリプション配信も多く利用されるようになり、それによって音楽番組もCD売上を単純に集計したオリコンチャートより、YouTubeやツイッターでの発言なども含めて総合的に集計したビルボードチャートなどを活用するようになってきました(そうしないと年末のヒット曲ランキングが全てAKBやジャニーズばかりになってしまう)。
 この僅か数年だけでも、音楽の楽しみ方は大きく変わっている。

 それを鑑みれば、乃木坂に「ヒット曲」が無いことは別段重要なことではないのではと思っています。

 一方、AKBは一時期ほどメディアでの露出がありませんが、実は今でも圧倒的な売上を誇っています(昨年2018年に発売した52枚目のシングル『Teacher Teacher』は日本音楽史上3枚目の300万枚(!)突破シングルとなった)。

 しかし今、AKBよりも乃木坂が注目されている。それは何故でしょうか?

 乃木坂に対してよく言われる「清楚」「王道アイドル」とかいう評価も、ある面では間違っていないと思いますが、ただあまりに印象論的。

 今回、私が注目したのは両者の「在籍率」の違いです。

 乃木坂46は、2011年9月の発足時に在籍していた一期生は34名(合格時点では36名だったがお披露目時に2名辞退)で、翌2012年5月デビューしました。その後2013年5月二期生お披露目されます。

 そして昨2018年3月からの一年間で一期生大量9名が卒業(卒業予定の斎藤優里を含め)し、2019年5月現在一期生の在籍は12名で35.3%となっています。
 因みにこの一年間で一気に卒業した上記9名を含めると一期生の在籍率は61.8%なので、デビューから7年を経ても一期生のじつに半数以上が残っていたことになります。

 対してAKB48は。
 2005年12月AKB48は一期生20名、直後に合流した1.5期篠田麻里子さんを含めると21名でスタートしました。
 それから今14年を経て、残る一期生は峯岸みなみさん1名のみ。
 乃木坂と同じようにデビュー8年後の基準である2013年12月で見てみると、その段階では他に小嶋陽菜さんと高橋みなみさんの3名が在籍しており、14.3%

 35%と14%。両者の在籍率は大きく水を開けられた形になりました(7年後の2012年12月時点だと板野友美さん・篠田麻里子さんが在籍していたので5名23.8%。同時期の乃木坂61.8%とは更に差が大きくなる)。

 「ヒットするまでの時間が長いと、諦めて辞めてしまうのでは?」と思う人も多いと思います。
 その一つの目安として「売上50万枚を超えた時点」を考えると、
 乃木坂は7枚目『バレッタ』で到達(2013年11月)。
 AKBは16枚目『ポニーテールとシュシュ』(2010年5月)。
 デビューからの期間で計算すると、乃木坂はヒットまで1年6ヶ月、対してAKBは4年5ヶ月

このジャケットの差からも方向性の違いが見えるなあ

 確かに売れてない時期はAKBのほうが長い。その間に見限ってしまったメンバーは多いのかもしれません。他方、乃木坂は一気にスターダムを駆け上がった感があります。

 しかし、AKBはすぐ翌年の2011年に『フライングゲット』でレコード大賞を受賞したのに対し、乃木坂は『インフルエンサー』(2017年)で受賞するまで、それから4年もの月日を必要としている。
 同様にNHK紅白歌合戦への出場も、AKBはデビュー後2年の2007年から。乃木坂は2015年(デビュー後4年)からです。

 AKBはヒットまで時間がかかったが、それからメジャーになるまでは早い。対して乃木坂はすぐにヒットしたが、メジャーになるまでが長かった、と言えます。

 さて「在籍率」の比較によって、乃木坂の方が圧倒的に所属している期間が長いということが見えてきました。

「乃木坂は居心地がよくて、本当に大好きな場所でした」(深川麻衣)。

 乃木坂元メンバーで、現在は女優として活躍している深川麻衣さんの言葉です。
 他の乃木坂メンバーの言葉や一緒に仕事をした人からも、彼女たちの「仲の良さ」が漏れ聞こえてきます。
 その一つの証左が写真集『乃木撮』(講談社刊)で、彼女たちにカメラを渡し、互いに撮りあっただけの写真集が32万部を超える大ヒットとなりました。

 アドラーは人の悩みは全て人間関係である、と述べているそうですが、この「仲の良さ」が在籍期間の長さにも繋がり、ひいてはその仕事ぶり、そしてブランドイメージにもなっているのかなあ、と雑感したりします(AKB は仲が悪い、とは言ってませんよ笑)。

 それを補完する事例の一つが、入ってくる三期生や四期生に「乃木坂になりたい」という希望があることです。
 三期生向井葉月さんは「大好きな先輩が卒業してしまうのが寂しい」と涙しているところを白石麻衣さんに慰められていましたし(今年1月11日発売号フライデー)、同じく三期生久保史緒里さんも加入以前から大ファンで、46時間テレビにて自分のお気に入りのPVシーンについて熱く語っていました。
 また四期生の矢久保美緒さんも番組で乃木坂ライブでのコールを披露するほど。

 彼女たちは「芸能人になりたい」「アイドルになりたい」という以前に「乃木坂になりたい」。

 こういう思いは例えば「会社員になりたい」とか「自動車会社で働きたい」のではなく「トヨタで働きたい」という気持ちと同じ、とは言えないでしょうか。

 つまりトヨタというブランドのイメージが人の心を惹きつけ、自分もその一員になりたいと願わせることがあるように「乃木坂46」というアイドルグループにも、そういうブランドイメージが発足後8年を経て生まれてきていると思うのです。

 しかし、アイドルには「卒業」がある。

「(自分たちがちやほやされる時間は限られている)いつか終わるのだから今を精一杯頑張ろうね、とは言っています」(桜井玲香)

 この乃木坂46キャプテン桜井玲香の言葉には、彼女たちの諦観と決意とが示されているようにも思います。自分たちがアイドルを出来ている時間は短い。だから今、全力で仕事に打ち込んでいる。

 「乃木坂は青春でした」と話した者もいましたが、彼女たちが自分の人生の一部としてアイドルを満喫しているからこそ、そういう言葉が出てくるのかもしれません。


 だから卒業後の進路を芸能界に限定していないのも一つの特徴だと思います。
 今年4月にテレビ朝日にアナウンサーとして入社した斎藤ちはるさんや日テレのアナウンサーの市来玲奈さん、乃木坂卒業後大学に進学・今はカウンセラーとしても活動する中元日芽香さんなど、卒業後に様々な分野で活躍している。

 2017年に卒業した橋本奈々未さんに至っては芸能界からも完全に引退してしまいました。

橋本奈々未卒業コンサートにて

 口さがない人はこういう決断をした人に対して「卒業後も芸能界でやっていく自信がないから」などと言うのですが、彼女たちにとっては寧ろ芸能界で生きていくことに重要な意義を持たないから、というのが妥当なのだと思えるのです。
 彼女たちにとって乃木坂でのアイドル活動は、芸能界で活躍するための踏み台ではない。だから、ピンでもやっていけるメドがついたから卒業する、のではなく純粋に自身の新しい道を歩み出すために卒業する。

君と離れるのは悲しいけど 大事なお別れだ もっともっと広い世界 知らなきゃいけない (中略) 過去がどんな眩しくても未来はもっと眩しいかもしれない(『帰り道は遠回りしたくなる』)

 ……卒業後も、彼女たちには「元乃木坂46」というブランドイメージが残り続ける。AKB48の「神7」はタレント養成所とはなりませんでしたが、乃木坂46は今後、タレント・女優などのリエセンヌになる可能性はある。
(リエセンヌ→フランス語で女学生を意味する。秋元康は初期乃木坂のコンセプトについて「よく乃木坂らしいと言われる『女学生風』とか『清楚』というキーワード…(中略)…パリのおしゃれなリエセンヌをイメージしていた」と話している)

 乃木坂に入ると恐らくマナーや所作から教え込まれる。頭を下げる角度や手の組み方など。少女たちがアイドルというより一人の女性として生きていくための基礎教養から教えていこうという姿勢がそこから窺える。こういう点からも乃木坂としてのブランドイメージが醸成されている。

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