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第2話 ゴマすり課長:リーダーのつぶやき、フォロワーのつぶやき

 今回もお読みいただきありがとうございます。前回は、あまり意見を言わない新任の係長の事例を取り上げましたが、今回は、ゴマすり課長のG課長について書いていきたいと思います。

 居酒屋のシーンから始まります。「今日の会議どうだった。次年度は目標も高くなり、厳しいよな。」今日は、A支社地域の営業店長80名を集めて次年度の営業方針についての会議がA支社の会議室で行われたのでした。会議終了後、帰りの方向が同じで、気の合う営業店長の数名が居酒屋に集まり、焼酎を傾けています。会議終了後、少しばかりの宴会があったので、いきなり焼酎での乾杯となったようです。会議後の宴会では、なかなか本音が出せなかったS営業店長も、お酒の力を借りてやけに饒舌になっています。「来年度は来年度で何とかなるさ。それよりも、支社のG課長の態度、あそこまでやるかな~って感じだよ。」「そうそう、支社長が話をし終わる都度、毎回上着を持って行って、着せていたよな。支社長の太鼓持ちだよな。」「そのくせG課長の説明は、ありきたりで、決められたことを、決められたとおりにという一般的な説明に終始していたよな。」とT営業店長。「上着を持っていく時間があったら、自分の説明内容をもっとわかりやすく話す工夫をしたらどうなのよ。その点S営業部長の説明は、我々の苦労もよくわかっていて、現場目線で、わかりやすかったよな。」芋のお湯割りもう一杯!お代わりを注文したH営業店長は、「いつものことだよ。去年の会議でも同じことをしていたよ。上役の完全なる太鼓持ちだよ。上司にゴマを擦りすぎて、手のひらの指紋がなくなっているとか聞くぜ。まったく、どこを向いて仕事してるんだか!」今度は、焼酎からハイボールに飲み物を変えたS営業店長は「俺昔、G課長が支社の係長時代に同じ部署で働いたことがあるけど、昔から変わっていないよ。自身の実力はないのに、部下社員を踏み台にして、自分だけいいかっこをする。すべての手柄を自分自身のものとするところなど変わっていないよ。」「それから、上司から施策についての提案を求められたら、さも自身が考えた如く、過去に仕えていた上司の企画と全く同じものを提案していたりしていたよ。」「自分の企画力はゼロだよ」。
「でも、いつかメッキがはがれるんじゃないの」希望を込めて、T営業店長が言った。「それがなかなか、立ち回りがうまいので今までそうなっていないのよ。支社の課長まで昇進したんだから。」「上も見る目がないよな。よく課長まで昇進させたよな。」……と、話は尽きません。

 今回は、本当の実力はないのにゴマすりだけで昇進するG課長について考えてみましょう。組織においては、誰か一人ぐらいこのような太鼓持ち的な、良く言えば、極端に処世術に優れた人はいることと思います。逆にそのような人の方が、昇進スピードが速く、部下社員も同僚社員も理不尽と感じることも多いと思います。そのような思いが、居酒屋での酒の肴になったのでしょう。では、何故そのようなことが起こるのでしょうか。リーダーシップの交換(LMX:Leader-Member Exchange)理論により説明してみたいと思います。この理論では、リーダーはフォロワーに昇進、賞賛、昇給などの報酬を与える、その見返りとしてフォロワーは、リーダーの指示、命令を遂行するという交換関係に注目します。そして、この交換関係は全てのフォロワーとの間で同様に行われるのではなく、両者の関係性の質によって、フォロワー個人と個別に形成されるとしています。そして、この理論では、リーダーのフォロワーとの初期の相互作用が極めて大きな影響を持つことに注視しています。リーダーはフォロワーとの初期の相互作用において、自分にとっての内集団(In group)外集団(Out group)とを作り上げ、リーダーは内集団(In group)とは、交渉範囲を拡大し親密な関係を持つが、外集団(Out group)とは交渉範囲を狭く限定して表面的な関係しか持たないとしています。その結果、リーダーにとっての内集団(In group)におけるフォロワーは、昇給や昇進に結び付きやすくなることが想定されます。このような認知のバイアスを利用して、太鼓持ちは、果敢にリーダーに取り入り、自身を内集団(In group)に位置付けてもらえるよう印象付けていきます。よほど高潔な意識と洞察力を持ち合わせたリーダーでない限り、このような太鼓持ちに対する眼も曇ってしまいがちです。「尻尾を振る犬は叩かれず」という諺のあるように、ついついひいき目にみてしまいがちになります。しかし、取り入りは永遠に続けない限りは、逆効果になる場合もあります。G課長もその辺のところは理解しているので、誰がどう思おうが、何を言われようが、会議等でのあからさまな太鼓持ち行動につながるのだと思います。

 ここで、G課長のつぶやきを聞いてみましょう。会議の前日にまでさかのぼります。
「なんだかんだいっても、上司に嫌われたら組織人としておしまいだ。組織の階層を上がることによって、ポジションパワーを得ることができる。何より、世間体もいい。自分が失敗しないように、部下社員には、決められたことを決められたとおりに指示するだけだ。明日は、会議だ。俺の腕の見せ所だ。支社長の背広持ちで、点数を稼ぐぞ。誰もやらないから俺がやるんだ…。」

 G課長の本音が聞けました。あきれたことに、G課長にとっての仕事とは、組織の階層を上がり、ポジションパワーを得ることや世間体のためだけが目的のようです。そのための手段が太鼓持ちなのでしょう。自身のことしか考えていなく、ベクトルが上しか向いていないのです。このような人が組織の階層を昇り詰めたら、早晩、組織崩壊は免れないでしょう。その理由として挙げられるのが、「マガジン」第9話でも触れた、モデリングです(モデリングの詳細は、拙著「マガジン」第9話を参照願います)。G課長の下には部下社員がいます。その社員が、G課長の行動をモデリングして同じような行動をとっていったとすれば、組織業績の向上どころか、ゴマすりの連鎖が蔓延し、組織は内向きに内向きにへと進み、徐々にむしばまれていくでしょう。
 本当に組織の発展を願うのであれば、トップに立つリーダーは、まず、人間には、内集団(In group)外集団(Out group)に分けるという傾向があるという、認知バイアスがあることに気づくべきです。自然に任せていたら、そのような傾向となることを認識した上で、特に意志の力と洞察力をもって、自身のプライドを満たしてくれる、G課長のような太鼓持ちの存在には目もくれず、本当に組織のためを考えて、時には自身の掲げるビジョンに対しても反対意見も言ってくれる人材との相互影響関係を重視すべきです。リーダーに与えられた組織上のパワーは、権力を得ることや、自己のプライドを満たすことではなく、組織業績の向上のために使用されるべきだからです。

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