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『ロシュフォールの恋人たち』に関する個人的な話

 1961年のデビュー作『ローラ』を皮切りに、ジャック・ドゥミ監督はミシェル・ルグランとコンビを組んできた。1963年の『天使の入江』、1970年の『ロバと女王』、1973年の『モン・パリ』、池田理代子の漫画を実写映画化した1979年の『ベルサイユのばら』、1988年の『想い出のマルセイユ』まで。1982年の『都会の一部屋』で一度は疎遠になるものの、このふたりのタッグは、セルジオ・レオーネとエンニオ・モリコーネ、スティーヴン・スピルバーグとジョン・ウィリアムズ、ティム・バートンとダニー・エルフマン、ロバート・ゼメキスとアラン・シルヴェストリ、日本で言えば宮崎駿と久石譲といった具合に、まさに切っても切れない一組と言える。彼らが1964年に手掛け、第17回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『シェルブールの雨傘』と並ぶ人気作なのが、1967年に製作され、日本ではその年の8月に公開された『ロシュフォールの恋人たち』だ。テレビ朝日の土曜深夜の映画枠『ウィークエンドシアター』で『シェルブール~』の放送を観て、いたく感動した筆者は、今はなき銀座文化でリバイバル上映された『ロシュフォール~』を初めてスクリーンで観て、あまりの素晴らしさに感動したものだった。その後、ビデオやDVDなどでも観ていたが、2009年にデジタルリマスター版の試写を京橋にある京橋テアトル試写室で『シェルブール~』と2本立てで一気見し、2016年の『午前十時の映画祭7』の再上映でも観た。さらに、最近ではU-NEXTの配信で見放題になっていたので、久々に観直して、新たに感服することになる。
 フランス西南部にある海辺の町ロシュフォールが舞台。金曜の朝、祭りに出演するためにやってきたジョージ・チャキリス演じるエティエンヌとクローバー・デール演じるビルのコンビ、町でバレエ教室を開いているカトリーヌ・ドヌーヴ演じるバレリーナを目指す妹デルフィーヌ、フランソワーズ・ドルレアック演じる音楽家を目指す姉ソランジュの双子の姉妹、ダニエル・ダリュー演じる姉妹の母親イヴォンヌ、ジャック・ペラン演じる退役を控えた画家志望の青年マクサンス、ミシェル・ピコリ演じる楽器店の店主ダム氏、ジーン・ケリー演じるダム氏の友人の音楽家アンディが絡む月曜の昼までの約3日間の出来事が描かれる。巻頭、チャキリスとデールをメインにした「キャラバンの到着」(どこかで聞いたことのあるメロディーだと思う人も多いだろう)から始まり、デルフィーヌとソランジュのデュエットほか、数々の楽曲が次から次へと披露されていく。『シェルブール~』はセリフまで全編が音楽で構成されていたが、今回は『ウエストサイド物語』のチャキリス、MGMミュージカルで一時代を築いたケリーを招いたことからしても、王道のミュージカル映画として作られている。チャキリスは『ウエストサイド~』のイメージのそのままだし、ケリーはまさにケリー節といえるダンスを披露するなど、アメリカのミュージカルを意識した演出がされている。さらに面白いのは、一見、関係なさそうな登場人物たちが意外な形で結びついていくという、群像ドラマとしての魅力にもあふれていることだ。衣装から背景まで、鮮やかな色彩は『シェルブール~』から受け継がれ、ルグランの音楽は『シェルブール~』と同様に素晴らしく、さわやかな後味は『シェルブール~』の切なさで終わるのとはまさに対照的だ。明るくさわやかなミュージカル映画を目指したドゥミ監督の目論みはまさに成功したといえるだろう。
 『シェルブール~』や『ロシュフォール~』ほか、数々のミュージカル映画の影響が見て取れるのが、2016年に公開され、オスカー監督賞ほか、6部門を獲得したデイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』。『ラ・ラ~』を観たときに思い出した作品の中にがドゥミ監督のこの2本が確かにあった。『ロシュフォール~』を観直したことで、久しぶりに『ラ・ラ・ランド』も観直してみようという気になった。
 
 

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