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レポート「小規模保育の魅力と可能性」②

4/8に行われた、全国小規模保育協議会・関西連絡会のイベント、汐見稔幸先生(元白梅学園大学学長)の講演を聞いてのレポート後編②です。小規模保育という新しいかたちに、どんな可能性が秘められているのか。前半がかなり熱かったのですが、もう少しだけ記しておきます。

ちなみに前編①はこちら。


<乳児期の育ちの課題>

今回の『保育所保育指針』の改定では、保育の内容が乳児1歳以上3歳未満、そして3歳以上で分けられています。(これまでは3歳未満と3歳以上のみ。)

※ 厚生省から出ている指針の全文はこちら。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf

乳児期の育ちに、幼児期の課題と異なる面があるため分けられたそうですが、乳幼児期の保育が重要視されていることが伺えます。


汐見先生はその中でアタッチメントと、基本的信頼感を育むことの重要性を語られていました。

0歳は自我の土台、非認知能力の土台となる時期。ボウルビィの研究によると、乳幼児は不安な時に身体的な接触を求めるとされます。このアタッチメントによって情動をコントロールした経験が、ネガティブな気持ちをポジティブに変えるための土台になるんです。
またエリクソンによれば、この時期に養育者と築いた「必ず最後は助けてくれる」という強い信頼感(基本的信頼感:Basic Trust)が、共感性を育みます。共感性とは、目の前のことだけでなく、例えば1000年前のことや、地球の裏側のことにも共感できる人間の力のことです。

幼い頃に体罰などでこの共感性が育たないと、人が隠れて持っている攻撃性が出てきてしまうそうです。「攻撃のスイッチではなく、共感のスイッチをいかにたくさん入れていくか」。

しかしそれを実際に集団の中でどう育むか、これは大きな課題。ただ一つの例として、日々の保育の中で、遊びや自発的活動の時間と、ケアの時間を峻別する方法がありました。

事例として挙げられたフランスのロッツィ型保育では、まずは子どもの意思や自主性をとても大事にするそうです。その一方で、ケアが必要となる時間は、保育士が徹底的に個人にはりつくとのこと。

非常にバランス感覚が必要なかかわり方ですが、これこそ保育の専門性でもあるんだろうなと、話を聞いていて感じました。


<環境をつくる>

保育をするための部屋は、冒頭でも繰り返し語られていた “おうちモデル” を取り入れることを勧められていました。

部屋の中に、意味が異なる空間をうまくつくることです。午睡の空間と活動空間も、できたら分けましょう。午睡を挟んで、片付けなくても済む工夫はできるはず。

これは確かに、小規模の園だと取り組みやすい方法かもしれません。保育を持続させる努力も大切とも言葉にされていましたが、数日〜1週間かけて何かをやり続けることも可能です。


また子どもの遊びの環境をつくるためには、まず何よりも子どもが何をやりたがっているのか?を観察することだそうです。

例えば、なぜ本棚の本を倒しているのか?本が無くなるが楽しいのか?落ちたときの反応がおもしろいのか?それをひたすら観察し、乳児バージョンで子どもの遊びを分類してみましょう。

遊びの分類。少し時間はかかりそうですが、確かにこれをすることで、保育の理解は深まります。おもちゃや絵本というのは、この延長線上で、子どもの発達を助けるためのもの、と認識すればいいかもしれません。


<グループを小さくする>

乳幼児保育では、数人以上のグループをつくらないようにしてみよう。

たとえば2歳児18人でトラブルが多かった園では、6人程度のグループ×3に分けたところ、全くトラブルが起こらなくなった事例があるそうです。2歳後半から徐々に、大きな集団に入れていくのが良さそう、とのことでした。


<受容・応答の大事さ、擁護の大切さについて>

新しい『保育所保育指針』では、擁護を次のように定義しています。

保育における養護とは、子どもの生命の保持及び情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりであり、保育所における保育は、養護及び教育を一体的に行うことをその特性とするものである。

これに関して、汐見先生のポイントが3点。

① 発達過程を理解し、応答的な関わりをすること
② 子どもの気持ちを受容し、共感しながら、子どもとの継続的な信頼関係をつくること
③ 子どもの主体的な行動を援助すること

(特に②は子どもが問題行動を起こしたときこそ、これが問われます。例えば子どもが噛みつきをしたとき、どう対応するか。まず共感することが、本当にできるかどうか。)


またこの改定では、乳児(0歳児)の育ちの部分を五領域ではなく、3つの視点でとらえていることも大きなポイントだとのことでした。「健やかに伸び伸びと育つ」「身近な人と気持ちが通じ合う」「身近なものと関わり感性が育つ」の3つ。

1歳児以上になると、これがいわゆる五領域「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」につながっていきます。

・身体が育つ →「健康」「人間関係」「環境」など

・人と関わる →「人間関係」「言葉」「表現」など

・ものと関わる →「環境」「表現」「言葉」など

このあたりは少し駆け足だったので、解説書などを改めて読み直そう、と思いました。

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以上が講演の内容を(長くなりましたが、これでもまとめて)感想とともに整理したものです。後半はスライドに沿って、時間の関係でかなり足早でしたが、印象的な言葉も次々と飛び出し、刺激の多い2時間弱でした。休憩なしで大丈夫かなと少し思いましたが、語る勢いが完全に上回っておられ、会場(軽く150人以上)も最後まで熱を帯びていたように感じました。

おっしゃられていることは、どれもとても納得度の高いもの。一方で、一保育者だけではできない部分もあり(環境など特に)、実現するとしても課題はたくさんあるなとも感じました。

汐見先生は、今回スケジュールが合わなければ秋まで無理、というほど多忙だそうですが、もし今後どこかで講演を聞ける機会があれば、ぜひ生でお聞きされてはと思います。調べたらYoutubeにもいくつか公式動画がUPされていましたので、それらもまたチェックしたいと思います。


<アフター:茶話会>

その後、全国小規模保育協議会・関西連絡会の企画で、茶話会(意見交換会)が行われました。9つの話題の中から、話したい話題を参加者一人ひとりが選び、車座になって40分のトーク。(でもあっという間でした。)

参考までに、議題はこの9つ。

① 現場で語ろう!つながろう!外遊び
② 小規模保育の質 研究の視点から
③ 新卒保育士、どうそだてる?ささえる?
④ 小規模保育でしたい、させたい、実習新卒研究
⑤ 現場を語ろう!つながろう!異年齢縦割り保育
⑥ 小規模保育を開設したい!開設したばかり
⑦ 保育の人材育成 中途採用のチームビルディング
⑧ 給食・調理
⑨ 事業財政・処遇改善

人気の議題は2グループになり、汐見先生も一部参加されていたようです。


僕は保育所のマネジメントや情報発信に関心があり、春から新設園でも働いているので(期間限定の非常勤ですが)を選択。これから開設を目指す人、企業主導型を含めすでに開設されている人などが混ざった9人で、お互いの疑問や悩みをシェアしながら、応えられる人が応えるかたちで進行しました。(成り行き上ファシリテーターを務めましたが、難しいなと実感…)

40分でいろいろな話が飛び交いましたが(地域へのアプローチ、自治体ごとの考え方の違い、保育理念のつくり方など)小規模保育という園が、待機児童対策というだけではなく、乳幼児保育に特化した施設としてもっと意義を発信し、認知される必要があるなということも改めて感じました。

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最後に。

保育業界内だけでなく、乳幼児保育の重要性は今いろんな方面から注目されています。世界からいろんな知見も増えてきている中で、「自分たちがやっていることが、もしかしたら正当なことではないかも」という疑問を持ちなさい、という汐見先生の指摘は、非常に厳しく、また逆に言えばいろんな可能性のあるものだなと感じました。

(この指摘は保育に限らず、生活だったり仕事だったりもぜんぶ一緒。僕自身も日々の反省が本当に尽きないからこそ、大事にしたい言葉です…)


少人数を中心にした保育のかたちは、これからの時代にマッチした仕組みだなと僕自身も思いますし、保育に限らず、小学校以上の教育でも言えることかなと感じています。

しかしその分、コストはかかります。認知能力の教育においては、ICTの技術によってカバーできる部分がかなりありそうですが、非認知能力を育てるためには、やはり人と人との関わり(まさにアタッチメント基本的信頼感を獲得する部分)が求められるので、保育者が本当に重要となります。保育というものをどこまで未来への投資と考えられるか。処遇をはじめとした改善の余地も、まだまだあるように感じます。

またこのnoteはただ一個人のイベントレポートですが、保育にかかわるいろんな発信がもっと世の中に増えていくことを願ってます。



(最近始めたばかりですが、備忘録を兼ねて読書録もつけ始めました)


(汐見先生の責任編集の雑誌。書店では購入できないそうです)



(twitter @masashis06



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