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夏の終わりに

僕は一人暮らし。なので、少し前にガジュマルという植物をお家に招いた。

荻窪の、なんとかという書店の近く、洒落た花屋の店先に、値札の付いた観葉植物がいくつかある。そのうちの左から三つ目、値札の数字の斜め上から、赤のペンで取り消し線が引かれている。"訳あって値下げ"の文字。値段は三百円。

「流石にねぇ。可哀想だよね。」

足が片方、カップからはみ出していて、逃げ出しそうである。
同じだ、と思った。

気づいたら、持って帰っていた。

昼過ぎだったので、近くのレストランに寄った。ツバキ亭というお店。

「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ。」

カウンターもあったが、二人席に通してもらった。
無論、僕とガジュマルの席である。
僕は、目の前の席に、丁寧にガジュマルを座らせて、一緒に看板メニューのハンバーグを食べた。

「良いよなぁ、ハンバーグは。中までしっかり詰まっていて。比べて、僕はどうだ。空っぽじゃあないか。
邪魔な肩書きばかりついてしまったし、もううんざりだ。
まあでも、それにしても、このハンバーグは美味しいな。」

僕とガジュマルは店を出て、帰りの電車に乗った。

車窓から見る夕日は、少し荒んだ僕の心に、海容の光を当てて、微かな薫風感じる夏の終わりを告げた。

「そうだ。こいつに名前をつけてやらなくちゃ。」

鉄を入れたような固い顔が少し解れた。

「いいや、その前に、水遣りだ。」


つづく


#小説 #エッセイ #日記 #短編 #ショートショート


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