見出し画像

韓国滞在記vol.3

我が家は厳格な祖父の影響でそれはそれは厳しい家として知られていました。
そしてその事実を上京して暫く経ってから知りました。
自分達の中の当たり前が外に出ればそうではないと知ったのです。
しかし我が家のルールというものは根強くあり、更に心の奥深くには自分のルールがありました。


あれはこういうものである
これはこうしなければならない
その形は正しい
これは間違っている

取り入れるべきもの
排除すべきもの
尊重しなければならないもの
護らなければならないもの


上京して丸二十三年。
その厳格な祖父の教えは私の中で今でも見事に残っています。
しかし情けないことに自身に都合の良いルール(という名の身勝手さ)ばかりが先に立ってしまうのです。

何度も浮かんでは消える「後でやるはやらない証拠」の祖父の声。
人生最大にして最強の敵は「めんどくさい」。
もはや「めんどくさい」を「面倒くさい」と修正することすら「めんどくさい」。
記憶の上書きが繰り返され、且つひん曲がっていくことにブレーキがかからない。(かけない)
この前もある友人の名前を完全に違う呼び名で発しながら結局修正出来ませんでした。
きっとまたやらかすでしょう。

かと思えば急に細かなことをやる気が溢れてくる気まぐれさ。
突如思い立って車を洗ったり、バイクを整備したり、釣具や楽器のメンテナンスを始めたり・・・
先日なんて夜中に冷蔵庫の掃除を始めました。
でも冷凍庫はしませんでした。
こうして年齢を重ね浮き彫りになる己の我が儘さを痛感しつつも改められない悲しき人生・・・

そんな中、突然やってきた「執筆モード」。

え!?
「赤と黒」で忙しいんじゃないの??※2023年10月末
スウィーニー・トッド開幕でしょ??※2024年3月
次の歌唱指導始まってるんじゃないの??※2024年4月

仰る通り、なかなか多忙な時間を過ごしています。

まず「赤と黒」は海外スタッフの意向により、稽古開始は午前。
終了後は打ち合わせ。
更に日によってはその後レッスン。
家事はほぼできませんでした。
せめて掃除だけでもと思いますが、簡易的にルンバの購入を真剣に検討している始末です。(テーブルや本棚まで登って掃除してくれるなら即購入します)

なんて書いておいて「赤と黒」はあっという間に終演。
とても上質な世界がそこにはありました。
三十代の演出家ジェイミー・アーミテージと二十代の振付家アレクサンドラ・サルミエントという若きクリエイターから発せられるアイデアは時に鋭く我々を刺激し、時に激しく驚かされ、時に深くキャストへの共感を誘いました。
また、アンサンブルを担うキャストの運動量は凄まじく、心身共にハイレベルなものを求められました。
文句一つ言うことなく(私と違い)真摯に向き合う姿は見ているだけで胸が熱くなりました。
彼等の為にサポートさせて頂けたことに深く感謝しております。

歌唱指導としての初仕事が「赤と黒」で本当に良かったと感じています。
稽古場まではなかなかの距離でしたが(ミュージ○ル座さん並み)、車の中で「赤と黒」の音楽を聴きながら通いました。
作品に関わりながらも表に出ないことが自分にどんな影響を与えるか不安に思っていたところもありましたが思っていた様なストレスを抱えることなく(ちょっとはある)充実した時間を過ごしました。
作品の一部となるべく、そしてキャストの皆さんの力となれる様尽力させて頂きました。
ご観劇頂いた皆様がお楽しみ頂けていたら幸いです。

そして「スウィーニー・トッド」。
再演を重ねてきた作品に初参加ということもあって稽古開始当初はついていくのがやっと。
ただ、今回は二期会からオペラのスペシャリスト達が参戦ということもあり、歌を武器としている私としては楽しくて仕方ありません。
しかも彼等と三重唱ができるシーンなんてのもあって戦慄の作品なのに旋律に酔いしれ口角が上がりそうになるのを堪えています。
地方公演も頑張ります!

更には「男たちの挽歌」。
久々に初対面の方々だらけの現場でどんな作品になるか。
初日まであまり時間がないですが楽しみたいと思います。



・・・それなのに今は執筆に熱が入っているのだから自分でも不思議なものです。
ただ、料理中に書き始めた為、途中で手が離れることでしょう。



さて、韓国滞在初日にして(初日なのに記事はもうvol.3)存分に楽しんでいるわけですが、ここで少し浮ついた心に隙間風が吹く出来事がありました。(漸く本題)

理想と現実

デスノートを観劇後、劇場を後に和樹と空腹を満たすべくサムギョプサルの店に入りました。

ここから先は

8,239字 / 15画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?