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完全自動運転は不可能である3つの理由[3]

完全自動運転車が世の中に普及すれば、移動手段が劇的に変化すると言われています。しかし、実現可能かどうかについては、様々な意見があります。今回の記事では、夢見る移動手段を語るのではなく、現在抱えている3つの問題を紹介したいと思います。
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まずは、簡単に完全自動運転とそうでない自動運転の違いを簡単に紹介します。米国自動車技術会は自動車のレベルを0~5に分けて定義しており、自動運転車と言われるものは、レベル3~レベル5を言います。そして、完全自動運転はレベル5に値します。レベル4は、高度自動運転とよばれ、特定の状況下のみ(例えば、高速道路上のみや、極度の悪天候を除く天候下)、ドライバーを必要とせずA地点からB地点移動できるシステムを言います。つまり、その上のレベル5の完全自動運転は、予測できない「もしもの」状況下でも運用できるシステムという事になります。[図:FUJITSU JOURNAL]

以上の定義をふまえてた上で、レベル5の完全自動運転が抱える問題は大きく分けて3つあります。

1.安全性と製品保証
2.人工知能の過大評価
3.セキュリティとシステム脆弱性

1.安全性と製品保証

自動車メーカーは、自動車を生産販売するだけでなく、売ってからも保証をする会社です。実に当たり前ですが、人を殺す可能性のある自動車においては、大きな意味を持ちます。保証には2種類あり、一般保証と特別保証。一般保証は3年もしくは6万キロ以内、特別保証は5年もしくは10キロ以内、または、メーカーによっては10年まで保証するものもあります。「走る、曲がる、止まる」等の重要部品(電子制御装置、乗員保護装置)に関しては、この特別保証でカバーされます。それだけ長い間、ドライバーの安全を保証する必要があるという事です。リコールがよくあるのは、この為ですね。

では、完全自動運転の場合は、どうでしょうか。もちろん、自動運転システムは、「走る、曲がる、止まる」を制御するものですので、特別保証の枠組み、つまり、5年間、システムの安全性を保証する前提で設計する必要があります。完全自動運転は、予測できない「もしもの」状況下で運用をするシステムですので、どう安全性を定義して、保証するのかは、雲を掴むような議論になります。レベル4の高度自動運転では、もしもの状況をドライバーに任せる事によって、責任と保証枠組みの切り分けができますが、それができないレベル5は、システム開発と同様に安全性の議論は難航を極めることになります。

2.人工知能の過大評価

「もしもの状況は、人工知能が判別し処理できるじゃん」という議論がありますが、人工知能を正しく評価し、どうシステムに組み込むのか、それをどう理解するかは、全く別の話になります。自動運転は簡単に言うと、「認知 (Perception) → 判断 (Planning) → 操作 (Actuation)」というシステム構造になっています。多くの場合は、認知 (Perception)の部分でAI(画像認識)を活用しています。また、判断 (Planning)の部分でも、ドライバーの運転パターンから学習し真似るシステムも最近は多くなってきました。

ただ、現在自動運転用に開発されているAIは、汎用人工知能ではなく、「人間の行動を真似る」か「システムの一部を担う」ものです。精度は人間以上の場合も多いですが、予測できない状況をカバーできるほど汎用性はないのが現状です。シンギュラリティの話は別にありますが。

3.セキュリティとシステム脆弱性

完全自動運転には、路車間、車車間通信が必須です。通信が必要であればセキュリティの問題も発生します。以下の動画は、2015年、Charlie MillerとChris ValasekというハッカーがJeepを遠隔操作でコントロールしている動画です。もちろん悪用するものではなく、車両の脆弱性を報告するものでした。[参照:Remote Exploitation of an Unaltered Passenger Vehicle]

現在の車両を制御する車載ネットワーク(CAN: Controller Area Network)は、インターネットとは違いセキュリティ対策がしにくく、脆弱性を内包しています。詳しくは、以下でも解説されています。

車載ネットワークや通信モジュールなどは、日々、対セキュリティ用に開発が進められておりますが、完全はありません。常にセキュリティ脅威にさらされる事になる完全自動運転システムにとっては、どの程度セキュリティ対策を行えばいいのかは、悩ましい問題になるでしょう。

まとめ

今回は、自動運転を開発する上で、現在抱えている問題を3つ取り上げました。Toyota Research Instituteのギル・プラットは、完全自動運転について以下のように発言しています。

 「人の運転を助けるモードと完全自動運転モードの研究を並行して進めるが、完璧な完全自動運転車はAIでも実現できないという認識が大事だ。人間同士の事故とは異なり、機械のミスを社会は許しがたいから。ゆえに、完全自動運転技術は、人の運転より少し安全だという程度ではいけない。レベル5対応の車両は人の運転より事故発生率を大幅に減らせなければ投入は難しい」

 完全自動運転により期待される未来と現実の差はまだまだ大きく、解決すべき課題は非常に多いのが現状です。しかし、悲観する必要はありません。自動車業界は、今、100年ぶりの大変革期です。投資はとどまるどころか加速し、世界で技術的ブレイクスルーが起きています。今回の記事で上げた問題ももしかしたら、来年にはすっかり解決しているかもしれませんね。

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