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【日経クロストレンド連載企画/全文公開】第2回/トヨタ「MaaS専用車」のビジネスモデル図解 物流や飲食店が大変革

#自動運転 #電気自動車 #人工知能 #MaaS #IoT #AI #イノベーション #マネジメント #メディア
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第2回ートヨタ「MaaS専用車」のビジネスモデル図解 物流や飲食店が大変革

「100年に1度」の変革期にあるモビリティ業界で、新たに登場した先進的なビジネスモデルを分かりやすく図解する連載の第2回。トヨタ自動車のMaaS戦略を象徴する次世代電気自動車「e-Palette(イーパレット)」は、どんなモビリティサービスモデルを構築し得るのか。物流ラストワンマイル、移動販売、ライドシェア……。新たなビジネスモデルを徹底図解する。

2018年1月9日、トヨタは「CES 2018」において、移動、物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス専用の次世代EV(電気自動車)「e-Palette Concept(イーパレット・コンセプト)」を発表しました。トヨタ自身、「Autonomous Vehicle(自動運転車)」と「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」を組み合わせた造語「Autono-MaaS(オートノマース)」で表現しているように、自動運転とモビリティサービスを掛け合わせ、さまざまな産業にイノベーションを起こそうと、大きくかじを切っています。

サービスパートナーとしては、米ウーバー・テクノロジーズ、米アマゾン・ドット・コム、米ピザハット、中国ディディチューシン(滴滴出行)などが名を連ねており、その本気度がうかがえます。また、18年10月に発表されたソフトバンクとの合弁会社モネ・テクノロジーズは、e-Paletteを使って移動中に料理を作り、出来たてを宅配するサービスや、移動型のオフィスなど、今まで存在しなかった新しいサービスを2020年代に導入しようと計画。3月28日に東京で開催された「モネサミット」でも、オンデマンドの自動販売機やヘルスケアモビリティとしてe-Paletteを活用する案が披露されました。

e-Paletteは、電動化、コネクテッド化、自動運転化の技術を駆使し、MaaS専用に開発されている次世代EV車両です。通常の移動だけではなく、物流や物販など、さまざまなサービスへの適応を目指しており、人々の新しい生活基盤になることが期待されています。また、個人向けの乗用車とは違い、小型バスのようなデザインで、例えば複数のサービス事業者が1台の車両を共同利用し、効率的かつ一貫したサービスが可能になると考えられます。

さて、トヨタは2020年の東京オリンピック・パラリンピックでのe-Palette導入計画を19年2月に行われた3月期決算説明会で発表しましたが、e-Paletteを活用すると、具体的にどのようなビジネスモデルが成立し得るのでしょうか。ビジネスモデルを図解しながら考えていきたいと思います。

いきなり本文総まとめ

FUTUREーe-Paletteは将来ー
・多様なサービスに応用できるよう設計されているため、自動運転による無人化という強みを武器に物流、飲食、移動の概念すら変える可能性がある
・24時間365日走り続ける“眠らない移動空間”へと変貌する

e-Paletteが従来の物流を破壊する日

まずは、物流システムのどの部分にe-Paletteが活用されるのか考えていきましょう。例えば、あなたがAmazonで本を購入したとします。すると、Amazon側ではそのオーダーを受け、物流事業者に本を自宅まで配送するよう依頼します。その際、単純に1台のトラックが倉庫もしくは店舗から自宅まで本を届けるのではなく、「ハブアンドスポーク方式」(【図解①】)という一般的に広く活用されている物流方式を使ってモノを運んでいます。

ハブアンドスポーク方式とは、上図のように中心拠点(ハブ)に貨物を集約させ、拠点(スポーク)ごとに仕分けて運搬する輸送方式です。一般の配達経路を考えると、まず宅配業者の店舗で受け取った配達物は、「小型ハブから大型ハブ」へと長距離移動したのち、「大型ハブから小型ハブ」に移り、配達先の各個人または法人に近い拠点から届けられます。このように物流業者は、長距離輸送と短距離輸送を組み合わせ、それぞれ最適な方法を選択することで効率化を図ってきました。しかし昨今、トラックの運転手不足やEコマース市場の成長による宅配需要の激増など、物流業界は厳しい状況に置かれています。

そんな中、e-Paletteはこの物流システムの「ラストワンマイル」に適用できるのではと考えられます。ラストワンマイルとは、「店舗から小型ハブ」「小型ハブから自宅」へとモノを運ぶうえで、一番末端(出発地点と到着地点)のことを言います。ラストワンマイルの効率化は非常に難しいと言われており、トラックの運転手も過酷な労働を強いられています。

そこがe-Paletteに置き換われば、【図解②】のように物流事業者は、直接ドライバーを雇って配達指示をし、その配達状況を管理するのではなく、e-Paletteに配達指示をするだけとなります。e-Paletteを管理する事業者に対するコストはかかりますが、人件費などがかからないため、慢性的なドライバー不足と需要過多への対応が可能になると考えられます。

今現在、物流事業者の多くは、リース会社や修理・点検などを行うオートサービス会社を子会社に持ち、配達トラックの管理を行っています。e-Paletteを物流事業に組み込むに当たっては、そうした子会社を手放して車両管理を一切やめるか、それともe-Paletteを購入して自社で管理を始めるか、物流事業者によって選択は異なるかと思います。いずれにしても、物流会社に大きな影響を及ぼし、組織形態が一変するのは間違いありません。

また、e-Paletteを利用する場合は無人での物流サービスが前提となるので、すべての情報のやり取りや配達状況がデータとして管理できることになり、2次的な利用が可能になるかもしれません。ドライバーが配達する場合、最終的な受け渡し時間の調整は電話予約で行うケースがあるなど、すべての情報を管理できるわけではありません。その点、e-Paletteを使用すれば、受け渡し情報が収集されて物流システムの効率化に役立ちます。つまり、ラストワンマイルを自動化させることができれば、モノの流れを完全にトラッキングすることが実質可能になるわけです。

e-Paletteが飲食店モデルを破壊する日

次に、移動型販売店としてのe-Palette活用方法を見ていきましょう。このモデル自体は目新しいものではありません。石焼き芋やわらび餅を路上販売しているトラックの他、野菜などの食材を届けてくれる生活協同組合のルート配送は忙しい主婦にとっては非常に助かるサービスで、定期利用している人もいるでしょう。

最近、世界ではこのルート販売トラックを無人化、省人化する動きが多く出ています。例えば、米スーパーマーケットチェーンのStop & Shopは、スタートアップのRobomartと組んで無人運転の移動販売サービスのコンセプト車を19年1月に発表し、注目を集めました。また、CES 2019ではパナソニックが冷蔵設備を持った移動販売車のコンセプト「SPACe_C eMart」を発表。トヨタだけではなく、スタートアップやサプライヤーの間でも、無人モビリティサービスの分野が盛り上がりを見せています。直近ではコンビニエンスストアの24時間営業の是非が議論を巻き起こしていますが、24時間苦もなく”働く”e-Paletteを活用すれば、持続可能な新しいコンビニモデルがつくれるかもしれません。

では、e-Paletteは、この移動販売型ビジネスに対してどのような付加価値を提供できるのでしょうか。コーヒーショップを例に、考えていきましょう【図解③】。

まず、ユーザーはスマートフォンやタブレットを通じてサービスを利用することが前提条件とすると、サービス事業者はユーザーの需要をデータとして把握できます。そのデータを蓄積することで需要分布図を作製でき、最適な時間に最適な場所へ商品を届けることが可能になります。つまり、「需要に応じた販売が可能」になるのが、無人運転の移動販売サービスの強みになります。

例えば、「朝は渋谷オフィス街、昼頃には表参道エリア、夕方から夜にかけては渋谷~原宿の飲食街」のようにターゲット層を絞り、効率的に移動することで売り上げを伸ばすことも可能になるでしょう。これは、一般的なコーヒーショップとお金の流れを比較すると、どのような利点があるのかがさらに明確になります。

【図解④】で示したように、どんな有名なコーヒーショップでも売り上げに対して必ずコストがかかります。コストは大きく分けて、テナント料や設備管理費などの「固定費」と、材料費や人件費(パート・アルバイト)などの「変動費」の2種類が存在します。売り上げからそれらのコストを差し引いたものが、最終的に利益として手元に残ります。

e-Palletteを利用して移動型コーヒーショップを経営する場合、移動販売なのでテナント料は必要ありません。どんな高級な住宅街やオフィス街でも、固定店舗を構えるより費用はぐっと抑えられます。また、無人販売を前提に考えているので人件費も必要なくなり、従来ならコストとして重くのしかかってきた費用がダブルで低減できる可能性があります。ゆえに、ピーク時以外はあまり回転率の良くない路面店舗型のコーヒーショップに比べれば、テークアウトを前提としている無人移動販売サービスは、より効率的に売り上げを稼げる期待があります。

ここで一点、ビジネスモデルが成立するかどうかのポイントとして、「自動運転車の管理コストはいくらになるか」が重要なのは言うまでもありません。実際、e-Paletteは現在市場に出回っている製品ではないので、正しい管理コストを計算することは不可能ですが、仮に自動運転車の減価償却を5年で考え、e-Paletteの購入金額とメンテナンス費を計5000万円だと仮定します。車両としてはかなり高額ですが、5年償却なら年間1000万円、月85万円の計算になります。

これに対して、東京の一等地の賃料は月100万~200万はかかると言われます。つまり、e-Paletteの車両・メンテナンス費用が仮に数千万円かかったとしても、路面店舗型のコーヒーショップと同じレベルの収益が見込めるのであれば、ビジネスが成り立つ可能性は十分あると言えるでしょう。

e-Paletteが従来の「移動」を破壊する日

自動運転が実現したときに最も期待されているのが、無人配車サービスでしょう。鉄道駅から自宅へのラストワンマイルを担う交通手段、あるいはA地点からB地点まで直接移動できるサービス、もしかすると通勤ラッシュを回避できるプレミアム通勤サービスなど、移動をパーソナライズできるサービスになり得ます。また、無人輸送になるので、タクシーやライドシェアで度々発生するドライバーと乗客のトラブルとは無縁になります。

将来e-Paletteの活用を計画しているソフトバンクとトヨタの合弁会社モネ テクノロジーズも、三菱地所と組んで19年2~3月に実証実験を行いました。「ビジネスパーソン」や「ワーキングパパ・ママ」をターゲットにしたオンデマンド通勤シャトルを、東京・丸の内エリアの勤務者を対象にして運行したのです。このように現在地から目的地までシームレスに移動できることは、どんな人にとっても大きなメリットを感じるかと思います。

では、e-Paletteを使った配車サービスモデルを図解してみましょう【図解⑤】。もともとe-Paletteは、モビリティサービスの基盤となる車両として考えられているので、同じタイプの車両とその中に組み込まれているシステムは量産できます。つまり、次の2つのことが可能になります。

1.ドライバー不足でタクシーが行き届かない過疎地へのサービス
2.ドライバーの数に縛られない、大規模なサービス展開

e-Paletteは、ライドシェア(相乗り)での活用も想定されているので、利用場所や利用形態に合わせた「低価格サービス」が実現するかもしれません。

ここまで、無人の自動運転サービスカーであるe-Paletteが普及したとき、どのようなベネフィットが生まれるか考察してきました。ここで1つ、「あれ、充電ってどうするの?」「結局、人間がやるの?」と思った読者もいるかもしれません。今や、さまざまな企業が無人サービスのコンセプト動画や開発マイルストーンなどを発表し、注目を集めています。ですが、その多くは実現したとしても燃料の補給や充電の問題が最後まで残ります。無人であろうとなかろうと、いつかは燃料もしくはバッテリーが切れ、エネルギー補給が必要になるからです。

今後は「非接触充電技術」と、それが利用可能な駐車場や停車場所のデータ化が、その問題を解決し、無人サービスのサービス効率を飛躍的に伸ばすかもしれません。【図解⑥】のように、日中は需要分布を基にサービスをし、移動需要などが少なくなる深夜になると非接触充電が可能な駐車スペースに自動的に移動し、充電する。充電がある程度完了し、再び需要が増えてくる夕方以降の時間帯でまた無人サービスを行うといった運用が考えられます。こうなれば、半永久的にサービスをすることも不可能ではありません。

このように、インフラの情報と協調させることで、e-Paletteは必要なタイミングでサービスの提供および充電ができ、まさに超効率的な「無人サービスの最終形態」に変貌する可能性を秘めています。

まとめは、以下より
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