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【日経クロストレンド連載企画/全文公開】第1回/MaaSのビジネスモデルを徹底図解

こんにちは!阿蘓です。
現在、次世代のモビリティサービスについて日経クロストレンドさんと連載企画を行っていますが、その連載記事をnoteで全文公開します!日経クロストレンドに登録している方は、もう見てくださった方もいるかもしれませんが、より多くの人に見てもらうために、自身のブログとして使っているnoteでも公開していきたいと思っています!
受け入れて下さった編集者の方に感謝します。
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第1回ーMaaSのビジネスモデルを徹底図解ー

「100年に1度」の変革期にあるモビリティ業界で、新たに登場した先進的なビジネスモデルを分かりやすく図解する連載の第1回。2019年、最注目のビジネスキーワードとして浮上している「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」を解説しつつ、MaaSアプリと自動運転が織りなす未来の移動社会もビジュアライズする。

就職活動をしている学生に「今後、自動車運転免許を取る必要はありますか?」と真剣な顔をして聞かれたことがあります。質問の真相は分かりませんが、自動運転開発が加速し、シェアリングサービスが少しずつ充実してきた昨今、少なくとも若者の間で、クルマをはじめとするモビリティに対する価値観が大きく変化してきていることは明らかではないでしょうか。

記念すべき第1回は、モビリティ関連のビジネスキーワードとして脚光を浴びている「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」を取り上げます。

MaaSとは、公共交通機関、タクシー、モビリティのシェアリングサービスなど、色々な種類の交通サービスを1つのサービスとして捉え、シームレスにそれらをつなぎ、需要に応じて利用できる、新しい「移動」の概念のことです。世界中でさまざまなサービスが生まれ、モビリティの在り方に変化が起きてきています。その中で、今回紹介するのがフィンランドの首都ヘルシンキなどを中心に16年から提供を始めている、MaaS グローバルの「Whim(ウィム)」というサービスです。

いきなり本文総まとめ

NOWーMaaSアプリは今ー
目的地までの移動をより快適に効率的にするだけの「便利アプリ」ではなくマイカー保有や新車購入に代わる新たな選択肢となるモビリティサービス
FUTUREーMaaSアプリは将来ー
自動運転サービスなどが加わることで、「移動」だけではなく、「衣・食・住」をも付加価値として提供する生活基盤となる

MaaSアプリのWhimを図解

Whimの存在を知っている人は多いかもしれません。なぜなら、MaaS グローバルはトヨタファイナンシャルサービス、あいおいニッセイ同和損保、デンソーから出資を受けており、一時期話題になりました。すでに英国やベルギーにも進出しており、19年3月までにはシンガポールでサービスを開始する予定。日本にも進出する意向を示しており、注目度の高いサービスです。

Whimとは、電車、バス、タクシーなどを乗り継いで利用する際に、それら個別の事業者に対して予約・支払いをするのではなく、アプリ内で一括で行うことができるサービスです。Whimは、ヘルシンキの交通当局と実証実験を行った後、16年に正式にサービスを開始し、18年7月にはユーザーのサービスの利用回数が合計100万を超え、ヘルシンキでは幅広い世代で活用され始めています。

ここで早速、Whimのビジネスモデルを図解してみましょう。

上のように、Whimは従来のタクシー事業、公共交通機関、また新しいシェアリングサービスをシームレスに連携させ、経路検索、チケットの発行、支払いを一括で行うことができるサービスになります。例えば、自宅から最寄り駅まではシェアバイクを利用し、公共交通機関に乗り換え、最後の目的地まではタクシーを利用する、といったシーンを考えてみます。それぞれバラバラに利用すれば、少なくとも3回支払いを行う必要があるので、ユーザーにとってモビリティを乗り継ぐことはあまりうれしいことではありませんでした。しかし、Whimを利用すれば、ユーザーは乗り換えの際にいちいち財布を取り出したり、経路選択をしたりせずに目的地に向かうことができ、それぞれのサービスをストレスなく使用することができます。

Whimのビジネスモデルは至ってシンプルです。ユーザーは、目的地と使用したいモビリティサービスをWhimで選択し、移動を開始します。その情報を受け取ったWhim側は、各運営事業者と連携し、タクシーなどが必要であれば配車指示を送ります。ユーザーはあらかじめルートを指定しているため、配車の必要な場所、時間が正確に分かり、モビリティの運営事業者は、事業自体の効率化・最適化も可能になるはずです。モビリティサービスの利用が終わると、Whimの運営事業者であるMaaSグローバルが、ユーザーが利用したモビリティ運営事業者に料金を支払います。

ユーザーの利便性を考え、Whimの料金形態は必要に応じて3つから選ぶことができます。1つ目は「Whim to Go」。定額料金はかからず、1回の利用につき、その都度支払いを行う形態です。Whimを頻繁に使わない人や海外旅行客などに向けた料金形態になっています。

2つ目は、「Whim Urban」。月額49ユーロ(約6100円)のサブスクリプションモデルです。公共交通機関は無制限で使用できる他、5km圏内のタクシーの利用であれば、10ユーロ(約1250円)で使用でき、レンタカーも通常より安い49ユーロ(約6100円)で1日利用できる形態になっています。単純に公共交通機関の定期券を買うよりも利便性が良く、タクシーやレンタカーなどの他の交通手段でも割引サービスが受けられるため、通勤など決まったルートで公共交通機関を利用する人にとっては、非常にうれしいサービスになっています。

「定額乗り放題」で移動の新しい選択肢へ!

そして、3つ目の料金形態は「Whim Unlimited」。これは、従来の自動車市場を凌駕(りょうが)する可能性のあるサービスといえます。Whim Unlimitedの料金形態はサブスクリプションモデルで、月額499ユーロ(約6万2000円)。これで、公共交通機関、タクシー(5km以内)、レンタカーなど、Whimが仲介しているすべてのモビリティサービスが乗り放題になります。タクシーやレンタカーなどの利用頻度が多いビジネスパーソンなどにとっては、毎回の支払いを考えることなく利用できるサービスです。

ただ、Whim Unlimitedの真のターゲットは、タクシーなどの利用頻度が多いビジネスパーソンというカテゴリーではなく、「マイカーの所有を考えている人」であり、そこに事業拡大の可能性を見いだしているのではないでしょうか。つまり、生活をするためにマイカーを所有するかどうか検討している人に対して、「マイカーを所有しない」という選択肢を提供していることになります。その構図を下で表現してみましょう。

住む場所やライフスタイルには依存しますが、一般的にクルマの利用回数は週1~2回程度で、通勤に使用する場合でも1日30分程度といわれており、クルマを所有していても使用頻度は決して高くないのが現状です。使用頻度が多くない人にとっては、維持費がかかるマイカーよりもWhim Unlimitedを利用するほうが安くなる可能性は十分考えられます。

新車販売市場は、17年で世界200兆円を超えたといわれる巨大市場。トップ3のフォルクスワーゲングループ、ルノー日産三菱アライアンス、トヨタ自動車は、それぞれ1000万台以上の自動車販売台数を誇り、売り上げは約30兆円にも上ります。この新車販売市場を見て、Whimの収益性や事業の可能性を表現することは一概には難しいですが、Whimを提供するMaaS グローバルが、単なる「便利アプリ」としてではなく、「クルマの所有に取って代わるモビリティサービス」として、Whimの収益化を図ろうとしていることが見て取れる気がします。

「MaaSアプリ×自動運転」の世界

以上、MaaS グローバルのWhimを具体例として取り上げてきましたが、技術革新が起きているモビリティ業界で、自動運転化、ネットワーク化が起きた際、MaaSアプリにはどのような可能性が広がっているのでしょうか。ここからは少し筆者の想像を膨らませていきます。

さまざまなモビリティサービスをシームレスにつなげることは、既存のMaaSアプリがユーザーに提供できる付加価値になります。そのモビリティサービスの中に、トヨタがCES 2018で発表した次世代EV車両「e-Pallete」の活用イメージで示したような自動運転サービスが加わると、サービスの幅がさらに広がる可能性があります。

例えば上のように、自動走行技術によって目的地までの移動の中で個人空間を作れるため、朝食サービスや休憩室のようなプライベートな移動サービスも提供できるかもしれません。また、移動オフィスのような「生産的な時間」やクリーニングのような「定期的に活用できるサービス」を加えることができるようになります。つまり、モビリティサービスが提供してきた「移動」という価値に加え、「衣・食・住」を中心とする新しい価値を提供することができるようになります。そういった意味でMaaSアプリは、既存のモビリティサービスの統合以上の可能性を秘めたものかもしれません。

今回紹介したのはMaaS グローバルのWhimでしたが、世界ではBMWとダイムラーによる「ReachNow(リーチナウ)」やドイツ鉄道の「Qixxit(クイックシート)」、変わったところではロサンゼルス市(アプリ名は「GoLA」)などもMaaSアプリを展開しています。また、米国のウーバー・テクノロジーズや中国の滴滴出行(ディディチューシン)などは、配車サービスを軸にしてフードデリバリーの「Uber Eats」や燃料補給事業など、さまざまなモビリティ関連サービスを展開しています。今後、どのようなモビリティサービスが生まれ、新しい価値を作り出していくのか注目です!

まとめは、以下より
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