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音楽レヴュー 2

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2019年6月の記事一覧

SL「Everything Good Is Bad」



 サウス・ロンドン出身のSLは、2001年生まれのラッパー。彼が頭角を表したのは2017年発表の“Gentleman”だ。常に暴力と隣りあわせの世界で生きてきた青年の描写力に、多くの者たちが引き寄せられた。ミニマルなビート、ヘヴィーな低音、殺伐とした歌詞の組みあわせは、UKドリル・シーンの注目株となるにふさわしいものだ。
 “Gentleman”後もコンスタントに曲を発表する一方で、ナインズの

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三浦大知「片隅 / Corner」



 三浦大知のニュー・シングル「片隅 / Corner」を初めて聴いたとき、あらためて実感したことがあります。それは、滑舌の良さとブレスの混ぜ方の上手さです。このスキルがあると、『仮面ライダーエグゼイド』の主題歌にもなった“EXCITE”のように、譜割りが細かい曲もしっかり歌いこなすことができる。日本語で歌われる曲の場合、他の言語と比べて発音の区切りが細かいため、メロディーの1音に対して1文字割

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Lil Nas X「7」



 リル・ナズ・Xは、アトランタ出身のアーティストだ(あえてラッパーとは言わない)。彼は最近、“Old Town Road”でちょっとした騒動を巻き起こした。トラップの文脈からカントリー・ミュージックを更新してみせたこの曲は、ビルボードのカントリー・チャートにもランクインするなど、人気を集めた。しかし後日、ビルボードはカントリーらしさが足りないという理由で、“Old Town Road”をカント

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のん「ベビーフェイス」



 のんのファースト・アルバム『スーパーヒーローズ』といえば、多くのゲスト陣が話題を呼んだ。矢野顕子や尾崎亜美など、錚々たる面々が制作で参加し、パンク的な初期衝動が際立つサウンドを支えている。
 しかし、筆者がこのアルバムで特に耳を引いたのは、のんの自作曲だった。なかでも秀逸なのが“へーんなのっ”だ。どこかニュー・ウェイヴの匂いもするラウドなギター・サウンドが印象的なこの曲で、のんは次のように歌

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Ode(오드)「To Youth」



 K-POPといえば、ブラックピンクやCLCなど、アイドル・グループのイメージが強いと思う。しかし、韓国のポップ・ミュージックはK-POPだけじゃない。BoAの『WOMAN』にも参加したスミンみたいにさまざまなシーンを跨ぐアーティストもいれば、ダンス・ミュージック・シーンで活躍するシンタサイジォンもいる。これらの動きにも目を向ければ、多様な韓国のポップ・カルチャーが見えてくるだろう。

 その

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Kate Tempest『The Book Of Traps And Lessons』



 ケイト・テンペストは、ラッパーや詩人など多くの顔を持つイギリスのアーティストだ。彼女の歩みを振りかえると、ミクロからマクロの視点に移行する歴史であることがわかる。
 まずは2014年のファースト・アルバム『Everybody Down』だ。この作品は、高騰する都市部の家賃に苦しみながらも、そこで生きる若者たちの心情を描く。家族にはまっとうな会社で働いていると嘘をつくドラッグ・ディーラーの男な

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Zamilska『Uncovered』



 ポーランドを拠点とするザミルスカのファースト・アルバム、『Untune』を初めて聴いたときの衝撃はいまも覚えている。Downwards周辺のポスト・パンク色が濃い硬質なインダストリアル・テクノで、ダークな雰囲気を醸していた。
 ベース・ミュージックの要素を見いだせるのもおもしろかった。このアルバムがリリースされた2014年といえば、ハビッツ・オブ・ヘイトやアンディー・ストットなど、インダスト

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宇宙少女(우주소녀)「For The Summer」



 韓国のグループ、宇宙少女がスペシャル・アルバム「For The Summer」をリリースした。オリポップやイ・ジヘなど、K-POPファンにはおなじみの作曲家が多く参加している。タイトルからもわかるように、太陽が燦々と輝く夏に向けて作られた作品だ。
 結論から言うと、上質なポップ・ソングばかりで驚いた。特に耳を惹かれたのがベースだ。EDM的なサイドチェインを駆使したシンセ・ベースではなく、ディ

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Minimal Violence『InDreams』



 カナダのヴァンクーヴァーを拠点に活動するミニマル・ヴァイオレンスは、アシュリー・ラックとリーダ・Pによって結成された。彼女たちの名を広めた作品といえば、2015年にGeneroからリリースされた「Heavy Slave」だろう。L.I.E.S.、Confused House、Bio Rhythmあたりの作品を想起させるロウなサウンドは、多様なリズムが映えるダンス・ミュージックだった。乾いた質

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Aura Safari『Aura Safari』



 ここ数年、多くの素晴らしいアーティストを輩出しているサウス・ロンドン。グライム、UKドリル、ジャズ、R&B、ロックなど、ジャンルは実にさまざまだ。

 そのなかでも、ダンス・ミュージック・シーンはもっと注目されてもいいのでは?と常々思っている。Rhythm Section Internationalや22aといったレーベルのみならず、BBZというおもしろいパーティー集団もいるからだ。
 Ch

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Skepta『Ignorance Is Bliss』



 スケプタは、2016年にリリースしたアルバム『Konnichiwa』で、イギリスのポップ・ミュージック史に金字塔を打ち立てた。トラップといったUSヒップホップの要素も取りいれつつ、スクエア・シンセによる攻撃的なサウンドを強調したそれは、紛れもなくグライムだった。こうした作風に、イギリスのラッパーであることを自負するスケプタの姿を見いだすのは容易い。
 そんなアルバムは賞賛の嵐で迎えられた。マ

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Loyle Carner『Not Waving, But Drowning』



 『Yesterday’s Gone』をあらためて聴いてみた。サウス・ロンドン出身のラッパー、ロイル・カーナーが2017年にリリースしたデビュー・アルバムである。ファンク、ソウル、ジャズ、ヒップホップが下地のサウンドは、相変わらず心地よい。S.C.I.ユース・クワイアの“The Lord Will Make A Way”をサンプリングした“The Isle Of Arran”など、玄人を唸らせ

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CLC(씨엘씨)「ME(美)」



 5月29日、CLCの新曲“ME(美)”がリリースされた。タイトルは、〝私〟を意味する〝Me〟と〝美〟の発音が似ていることから、ダブルミーニング的につけられたそう。つまり、私は美しいということを少々回りくどく言っているのだ。もしかすると、アリアナ・グランデの七輪タトゥーなど、日本語が世界のポップ・カルチャーで注目されている流れを意識したのかもしれない。

 さっそく聴いてみると、イントロでレゲ

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