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音楽レヴュー 2

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音楽作品のレヴューです
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#エッセイ

最高のアイドル・グループによる私はわたし宣言〜(G)I-DLE((여자)아이들)『I NEVER DIE』



 韓国のアイドル・グループ、(G)I-DLE((여자)아이들)が『I NEVER DIE』を今年3月にリリースした。彼女たちにとって初のフル・アルバムとなる本作は、スジン脱退という苦境を物ともしない力強さが際立つ作品だ。過去作でも顕著だった社会的規範に従わない姿勢はますます強くなり、そうした姿勢を表現するパフォーマンス能力もレヴェルアップしている。
 (G)I-DLEといえば、リーダーのソヨン

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Manic Street Preachers『The Ultra Vivid Lament』は、歳を重ねた者だけが醸せる滋味深さで溢れている



 ウェールズが生んだ偉大なロック・バンド、マニック・ストリート・プリーチャーズ。彼らの音楽は私たちに知的興奮をもたらしてくれる。多くの要素で彩られたサウンドに乗る、政治/社会性を隠さない詩的な言葉の数々は、秀逸な批評眼が際立つ。
 この批評眼はバンドの高い知性を感じさせるが、近寄り難い高尚さはまったく見られない。哲学書や政治家のスローガンを引用した一節も多い歌詞は耳馴染みが良く、メロディーは親

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TangBadVoice『Not A Rapper』から見る、アジアのポップ・ミュージックに込められた反骨精神



 日本や韓国以外のアジアで作られたポップ・ミュージックを本格的に聴きはじめたのは、2017年ごろからだ。台湾のMeuko! Meuko!などを入口に、さまざまな作品を片っ端から聴いてきた。
 そのなかで気づいたのは、生活やその背景にある社会を意識した作品が多いということだ。一要素として滲ませるものから、2020年のベスト・アルバムで7位に選んだBawal Clan & Owfuck『Ligta

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Kojaque『Town's Dead』は怒りを怒りのまま表現する



 近年のアイルランドといえば、おもしろいアーティストを多く輩出する国として知られている。アイリッシュ・ドリルのような興味深い音楽シーンが注目を集め、フォンテインズD.C.という素晴らしいロック・バンドを生みだしたのも記憶に新しい。他にもフィア・ムーン、トラヴィス、セラヴィエドマイ、ビーグ・ピーグなど、聴く価値があるアーティストを挙げていけばきりがない。

 だが、そうした音楽シーンの活況とは裏

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BIBI(비비)「Life is a Bi…(인생은 나쁜X)」は優しい悪魔のつま先



 筆者からすると、韓国のアーティストBIBI(ビビ)はアウトサイダー的な視点が強い女性に見える。2019年に公式デビューを果たした彼女は、愛や恋人関係を歌うことが多い。それ自体は珍しいことではなく、むしろポップ・ソングにおいて普遍的と言っていい。

 BIBIがおもしろいのは、そういった題材を歌う際、自己破壊的姿勢が目立つところだ。たとえば“쉬가릿 (cigarette and condom)

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Lava La Rue「Butter-Fly」は世界の新たな声として響きわたる



 NiNE8というロンドンの集団を知ったのは、いまから3年ほど前だ。知るきっかけはサウス・ロンドンを拠点とするプーマ・ブルーだった。NiNE8を設立したラヴァ・ラ・ルーのMVに、彼がコメントをしていたのだ(2人はライヴで共演もしている)。
 お気に入りのアーティストが興味を示すのだから、おもしろい集団に違いない。そう確信し、すぐさまNiNE8について調べた。

 情報を漁ると、多くのことがわか

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IU(아이유)『LILAC』は生きぬいた者だけが辿りつける孤高の境地を見せる



 韓国のアーティストIU(아이유)は、韓国式年齢(数え年)で29歳になった。彼女の20代を振りかえると、少なくない苦難に見舞われてきたのがわかる。初めて自らプロデュースを手掛けた4thミニ・アルバム「CHAT-SHIRE」(2015)では、“Zezé”の歌詞が5歳の子供を性的対象化していると批判された。他にもサンプリング問題を指摘されるなど、このミニ・アルバムは苦い想い出が多い作品になってしま

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Slowthai『Tyron』が鳴らす、過ちとの向きあい方



 イギリスのノーサンプトンから出てきたラッパー、スロウタイが2019年にリリースしたデビュー・アルバム『Nothing Great About Britain』は本当に素晴らしい作品だった。ヒップホップのみならず、インダストリアルやパンクなどさまざまな要素を掛けあわせたサウンドに乗せて、イギリスに対する愛憎を皮肉も交えながら表現している。それはさながら哀しみ色の喜劇と言えるユーモアであり、公営

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Arlo Parks『Collapsed In Sunbeams』が歌う哀しみは、寄り添う優しさで溢れている



 アーロ・パークスは、ロンドン出身のシンガーソングライター。2000年8月9日に生まれ、ナイジェリア、チャド、フランスの血を引く多国籍な背景を持つ女性だ。
 幼いころから小説や詩を制作するなど、現在に至るまでパークスは言葉の世界で生きつづけている。シルヴィア・プラス、オードリー・ロード、ナイラ・ワヒードといった詩人の詩を読んできた感性は、さまざまなスタイルや視点に影響を受けた表現者であるとうか

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FYI Chris『Earth Scum』は戦うためのダンス・ミュージックを鳴らす



 FYIクリスは、クリス・ワトソンとクリス・クープによるダンス・ミュージック・ユニット。2010年代半ば頃からサウス・ロンドンのクラブ・シーンで実力を表し、良質なトラックを数多く残している。
 筆者が彼らの音楽に初めて触れたのは、2014年のデビュー・シングル「No Hurry / Juliette」だった。2曲とも素晴らしいハウス・ミュージックだが、強いて挙げれば“No Hurry”のほうが

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Hayley Williams『Flowers For Vases / Descansos』は私たちの痛みを浄化する



 アメリカのロック・バンド、パラモアでフロントウーマンを務めるヘイリー・ウィリアムスが昨年リリースしたファースト・ソロ・アルバム『Petals For Armor』は、とても素晴らしかった。ファンク、ディスコ、ジャズ、ヒップホップ、ブレイクビーツなど多くの要素を用いて、自らの音楽性を拡張しようとするチャレンジ精神に惹かれた。そのサウンドを聴いているとウォーペイントやハイムといったバンドも脳裏に

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Goat Girl『On All Fours』が私たちにもたらす知的興奮



 サウス・ロンドンで結成された4人組バンド、ゴート・ガール。彼女たちが2018年にリリースしたファースト・アルバム『Goat Girl』は、何度聴いても筆者の心を躍らせ、耳を喜ばせてくれる。ロサンゼルスのガン・クラブといったブルージーな色合いが強いパンク・バンド、あるいは13thフロア・エレベーターズやモビー・グレープなどのサイケデリック・ロックを想起させるサウンドが特徴で、多彩なアレンジの引

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Shame『Drunk Tank Pink』に刻まれた生乾きの感情



 サウス・ロンドンの5人組ロック・バンド、シェイム。彼らが2018年にリリースしたデビュー・アルバム『Songs Of Praise』は、あらゆる情動が渦巻くエネルギッシュな音楽でいっぱいだ。性急なグルーヴを生むバンド・アンサンブルはささくれ立った緊張感が漲り、それでいて紡がれるメロディーは親しみやすいものばかり。“One Rizla”や“Friction”などは、ライヴハウスで観客とシンガロ

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Kylie Minogue『Disco』は本当のLove & DISCO



 シンコペーションが効いたベース・ラインから生まれる肉感的グルーヴに、4つ打ちのキックを執拗に反復する中毒性が高いリズム。2020年はそうしたディスコ色が鮮明な作品と出逢う機会に恵まれた。

 たとえばサウス・ロンドン出身のジェシー・ウェアによる『What's Your Pleasure ?』は、カッソやナンバー・ワン・アンサンブルといったイタロ・ディスコの艶かしくもラフなビートを取りいれたア

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