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音楽レヴュー 2

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音楽作品のレヴューです
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#グライム

Ghetts『Conflict Of Interest』



 ゲッツはイギリスのプレイストーで生まれた。経済的に裕福でない家庭で育ち、さらには刑務所暮らしも経験するなど、紆余曲折な人生を歩んでいる。
 それでも、グライム黎明期から活躍するラッパーとして多くのリスペクトを集め、素晴らしい作品をいくつも残してきた。『Ghetto Gospel』(2007)と『Freedom Of Speech』(2008)という2つのミックステープはグライム・クラシックに

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Chip『Snakes & Ladders』



 イギリスのトッテナムで生まれたチップは、浮き沈みが激しいキャリアを歩んできたラッパーだ。デビュー・スタジオ・アルバム『I Am Chipmunk』(2009)は全英アルバム・チャート2位に入るなど、活動当初は商業面での成功が目立っていた。当時はいまほどメインストリームの中心に食いこんでいなかったグライム・シーンを出自とすることもあり、チップの成功は多大な注目を集めた。

 しかし、『I Am

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Trillary Banks「The Dark Horse」



 トリラリー・バンクスはイギリスのレスターで生まれ育ったラッパー。2007年から音楽活動を始め、ゆっくりと着実に地位を築いてきた。
 活動当初はレディー・スケングと名乗っていたが、しばらくするとピンキー・ゴー・ゲッタ名義で秀逸なフリースタイルを残すようになった。その後トリラリー・バンクスに改名し、現在に至る。

 彼女は3つの名義を使い、これまで多くの作品を作りあげてきた。なかでも、トリラリー

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Footsie『No Favours』



 フットツィー(厳密に言えば、“ト”はほぼ発音しない)は、イースト・ロンドンのグライム・シーンにおける伝説的存在だ。D・ダブル・Eとのニューハム・ジェネラルズなど、グライムの発展に寄与した例は数多い。これまでさまざまなフィーチャリングをこなし、鋭いラップを刻んできた。
 トラックメイカーとしての才能も見逃せない。自ら主宰するBraindead Entertainmentから発表している『Kin

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Novelist「Inferno」&「Rain Fire」



 今年1月、サウス・ロンドン出身のラッパー、ノヴェリストが「Inferno」を発表した。このEPのジャケットを見たとき思わずにやけてしまった。これまでさまざまなヒップホップ・アルバムのジャケットを手がけてきたグラフィックデザイン会社、Pen & Pixelの作風を連想させるからだ。

 Pen & Pixelといえば、アメリカのヒップホップ・アーティストと仕事することが多かった。スリー・6・マ

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労働者階級の家庭で育ったパンセクシュアルの女性は、グライムに救われた〜Debris Stevenson ft. Jammz『Poet In Da Corner』



 2018年、とある劇がイギリスのロイヤル・コート・シアターで上演された。劇のタイトルは、『Poet In Da Corner』。ディジー・ラスカルによるグライム・クラシック『Boy In Da Corner』(2003)がモチーフの作品で、劇作家やダンサーなど多くの表情を持つデブリス・スティーヴンソンという女性が作りあげた。
 強いて形容するなら、『Poet In Da Corner』はグラ

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Mercston『Top Tier』



 イーストロンドンが輩出したラッパー、メルクストンの歩みは少々奇妙だ。2000年代初頭からグライム・シーンで活躍し、盟友のゲッツといったさまざまなラッパーと共演もしている。2006年の『Da End Of Da Beginning』など、音源をまとめた作品も多い。ただ、そうした根強い人気があるにもかかわらず、正式なスタジオ・アルバムは1度もリリースしていない。そのせいか、メルクストンをカルト的

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Cassie Rytz『Starts Here』



 1年ほど前、グライム・シーンのMCを紹介するYouTubeチャンネルCrescoSMGにアクセスした。3分程度の動画を再生しては、次の動画に進むの繰りかえし。正直、そのときは大した収穫を得られなかった。キャシー・ライツというMCを除いて。
 ライツはサウス・ロンドンを拠点に活動するラッパー。男性支配が根強いグライム・シーンに迫ったBBCのプログラム、『Galdem Sugar』に参加するなど

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Novelist「Reload King」



 サウス・ロンドン出身のラッパー、ノヴェリストが2018年にリリースしたファースト・アルバム『Novelist Guy』は、彼にとって特異な作品だったのかもしれない。デビュー当初の無鉄砲な姿は影を潜め、ひとつひとつの言葉を噛みしめるようにラップしていた。もともと定評のあったストーリーテリング能力が際立ち、音よりも言葉が耳に残る内容だった。
 しかし彼は、マムダンスとコラボしたりと、ダンス・ミュ

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Skepta『Ignorance Is Bliss』



 スケプタは、2016年にリリースしたアルバム『Konnichiwa』で、イギリスのポップ・ミュージック史に金字塔を打ち立てた。トラップといったUSヒップホップの要素も取りいれつつ、スクエア・シンセによる攻撃的なサウンドを強調したそれは、紛れもなくグライムだった。こうした作風に、イギリスのラッパーであることを自負するスケプタの姿を見いだすのは容易い。
 そんなアルバムは賞賛の嵐で迎えられた。マ

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Novelist『Novelist Guy』



 サウス・ロンドン出身のノヴェリストは、グライム・シーンの中でも孤高の立ち位置にいるラッパーだ。スケプタ、マムダンス、スポルティング・ライフといった多くのアーティストとコラボして知名度を高めつつ、自主レーベルMMMYEHを設立し、いわゆるメジャーとは距離を置いて活動してきた。
 J・ハスやストームジーが世界的に注目を集めたりと、いまイギリスのラップ・シーンは目まぐるしく変化している。そうした状

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