NY発のアシッド・ハウス・バンド 〜 Dust『Agony Planet』〜

 ニューヨークを拠点に活動する3人組、ダストを知ったキッカケは、2012年にリリースされたシングル「Onset Of Decimation」だった。オービタルを想起させるトランシーで煌びやかなシンセ・フレーズがダンスフロアに降り立った瞬間、筆者の心は飛ばされてしまった。音数は少なく、キャッチーといえる曲ではないが、原始的なヴォーカルには高い中毒性があった。

 その後、〈Low Life Inc.〉からリリースされたシングル「Past Future」ではイタロ・ディスコを披露するなど、引きだしの多さも際立つようになる。しかし、ダストの基調にあるのは、ラフな質感のビートが印象的なアシッド・ハウスである。2014年のシングル「Feel It」には、「Acid Freak」というまんまな曲も収められている。また、シカゴ・ハウス的なリズムを多用するのもダストの特徴で、こうした側面からは80年代のハウス・ミュージックに対する嗜好がうかがえる。

 ヴィジュアル面にも惹かれる。たとえば、「Onset Of Decimation」のMV。このMVは、眩しいほどのレーザーやフラッシュが飛び交うもので、90年代初頭のレイヴ・カルチャーを連想させる色合いなのだ。強いて例を挙げれば、初期プロディジーの代表曲、「Charly」(1991)のMVになるだろうか。「Onset Of Decimation」のMVを観たとき、まっさきに想起したのは「Charly」のMVだった。おそらくダストは、90年代のダンス・ミュージックやレイヴ・カルチャーにも大きな影響を受けている。

 とはいえ、先日リリースされたファースト・アルバム『Agony Planet』は、80〜90年代のダンス・ミュージックやレイヴ・カルチャー以外の要素も多分に含んでいる。確かに、強烈なキックと激しいシャウトが耳に残る「She Woke Up In Water」などは、アタリ・ティーンエイジ・ライオットに通じるハードコア・テクノである。だが、ゆったりとしたマシーナリーなビートを強調した「Breeding Pit」は、リエゾン・ダンジェルーズやD.A.F.といった、80年代のEBM(エレクトロニック・ボディー・ミュージック)を思わせる。また、アルバム全体を覆う荒涼としたドライなサウンドスケープは、スロッビング・グリッスルなどのインダストリアル・ミュージックに通じるものだ。『Agony Planet』には、70年代後半から80年代前半にかけてのポスト・パンクも根底にある。去年はヘレナ・ハウフ『Discreet Desires』や、ファンキンイーヴンの別名義セント・ジュリアンによるシングル「A16」など、ポスト・パンクの要素を持つ作品が目立ったが、こうした流れは2016年も健在ということなのだろうか? そういえば、アンドリュー・ウェザオールが先日発表した最新アルバム『Convenanza』も、マキシマム・ジョイといったポスト・パンクの要素が色濃い内容だった。

 曲名もなかなか面白い。B級ホラー映画好きならピンとくるであろう「Alien Prey」や、オースン・スコット・カードによるSF小説と同名の「Xenocide」など、音楽以外からの影響も滲みでている。このような雑食性は、イギリスのハドーケン!みたいだなと思ったりもするが、ネットが広大な消費空間になった時代に生まれたという点は共通するかもしれない。情報や記号などあらゆるものが“消費”される現在を反映しているようにも見える。

 さらに面白いのは、『Agony Planet』をリリースしたのが〈2MR〉だということ。〈2MR〉は、〈Italians Do It Better〉の創設者マイク・シモネッティーと、〈Captured Tracks〉のオーナーであるマイク・スナイパーが設立したレーベル。ハウス/テクノを中心にリリースしており、〈Italians Do It Better〉や〈Captured Tracks〉とは毛色が異なる作品を取り扱っている。ひとつの作品を何かしらのジャンルに押し込めることはもはや不可能だ、というのは周知の事実だと思うが、それでもワクワクする交雑なのは間違いない。



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