妖しい電子音に漂うエロティシズム 〜 Uncode『Her』〜



 イタリアのテクノ・シーンで活躍するアンコードは、2013年のシングル「A Light In The Dark」以降さまざまな作品をリリースしてきたが、そのほとんどがダンスフロア向けの作品だった。メロディーよりもビートを重視し、ダンス・ミュージックとしての機能性を追求していた。それゆえ、DJの間では話題になっていたものの、テクノ・シーンを越えて聴かれることはなかった。


 しかし、2014年の『Eternal Destination』以来となるアルバム『Her』で、アンコードは変貌を遂げた。中毒性の高い反復ビートやダークな雰囲気のサウンドスケープという従来の持ち味を保ちつつ、叙情的なメロディーも備えている。音楽性も実に多彩で、アシッド・ハウス、インダストリアル・テクノ、さらにマルセル・フェングラーやアンサー・コード・リクエストなどに通じるベルリン・テクノの要素もある。


 また、すべての曲が明確な起伏を持っているのも見逃せない。これまでのアンコードは、最低限の変化によってグルーヴを生みだすミニマル・ミュージック的なアプローチが多かった。しかし、本作では盛り上げどころとそうじゃないところをハッキリ分けており、ゆえにドラマティックな曲が多くなっている。もちろん、ダンスフロアも似合うだろうが、それ以上に筆者はベッド・ルームやドライヴ中に聴きたいと思ってしまった。


 明確なコンセプトがうかがえるのも興味深い。『Her(彼女へ)』というタイトルやジャケット・デザイン、さらに「Skin」「Body Shapes」といった曲名からもわかるように、本作は “女性” がテーマになっている。その女性が誰なのかは不明だが、優しく撫でるような艶めかしい音粒からは、親密な雰囲気とエロティシズムを感じる。こうした妖しさも本作の魅力だ。

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