Sophia Saze『Self - Part 1&2』


画像1

画像2


 ソフィア・セーズは、ジョージアのトビリシで生まれたアーティスト。現在はニューヨークを拠点に、クラブ・シーンで活躍している。政治難民の娘である彼女は、ニューヨークにたどり着くまで多くの国を経たという。そうした生い立ちから自然とアイデンティティーについて考えるようになったそうだ。

 この経験は、2部構成という形のデビュー・アルバム『Self – Part 1』と『Self – Part 2』にも反映されている。本作はジョージア、ロシア、アメリカ、フランス、カナダなど、さまざまな国を渡り歩いた自身の人生がコンセプトだ。それをふまえると、ソビエトのテレビ番組や古いVHSからのサンプリングは、彼女の想い出が滲むものと言っていい。

 2作品に分けてのリリースだが、全体のサウンドは統一されている。随所でヒスノイズを使用したりと、興味深い音選びのセンスも光るそれは、インダストリアルの要素を漂わせるアンビエントが軸だ。彼女がDJでプレイするようなフロア向けトラックは収められていない。尺は3分以下がほとんどで、1分に満たないノンビートの小品もある。そうした内容は、彼女が持つ想い出の欠片を繋ぎ合わせたようなものと言えるだろう。

 とはいえ、徹底的にビートを排除しているわけでもない。たとえば、『Part 2』収録の“Wave”は、ブリアルを連想させるダークなUKガラージに仕上がっている。クライン・ザーガなど、最近のニューヨークは良質なUKガラージを生みだすアーティストが目立つ。その流れと共振できるという意味でも、本作は非常に興味深い作品だ。

 2017年に発表した「Solace EP」みたいに、ストレートなダンス・ミュージックを求めていた者は本作にがっかりするかもしれない。しかし筆者は、アルバムというフォーマットだからこそ表現できるサウンドを目指した勇気に拍手したい。もちろん、それにふさわしいクオリティーも備えている。


※ : MVはないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。


サポートよろしくお願いいたします。