いま、もっともホットな音楽のひとつがUKガラージだ



 最近クラブに行くと、UKガラージで踊り狂う者に出逢うことが多い。ソー・ソリッド・クルーといったクラシックからフラヴァ・Dのような新世代まで、流れる曲は実に幅広い。

 踊り狂う者のほとんどは若者だが、その若者に「昔UKガラージはバカにされていたんだよ」なんて言うと、決まって「マジ?」と返される。無理もない。フラヴァ・DもメンバーのTQDや、DJクルーの24アワー・ガラージ・ガールズなど、いまイギリスではさまざまなおもしろい動きがあるのだから。

 しかし哀しいことに、嘘ではないのだ。たとえば、UKガラージをルーツのひとつとするグライムは、UKガラージを否定することで台頭した音楽と言える。グライムのオリジネーターとして知られるワイリーは、2004年発表の“Wot Do U Call It ?”でこのようにラップした。

〈Listen to this - it don't sound like garage Who told you that I make garage?(これを聴け ガラージには聴こえない 俺がガラージを作ってると誰がお前に言った?)〉

 この一節は、商業的なところが批判されていた当時のUKガラージを否定することで、自らの独自性をアピールしている。実際、ワイリーの登場をきっかけにEski Beat(これもワイリーの“Eskimo”から生まれた言葉だ)というビートが広く認知され、いまではグライムの典型的なビートのひとつとなった。こうした流れはアンダーグラウンドから出てきた音楽が通過するクリシェだが、それをワイリーは忠実にこなしたというわけだ。



 グライム・シーンではUKガラージに否定的な者が少なくない。多くのグライムMCからリスペクトを集めているローガン・サマも、次のような発言を残している。

UKガラージのDJから始めたが、ガラージは次第に商業的な音楽になっていった。そして初めて聴いた時から、ガラージは何も変わらなかった。それが退屈になったんだ。でもその当時、グライムやダブステップは新しい音楽だった。ガラージは全て同じに聴こえたけど、グライムは新鮮だったんだ。だから、ガラージをやめてグライムだけのDJになった

 だが、いまは2019年だ。売れることへの嫌悪感は薄れ、お金がかかっているからという音楽とはまったく関係ない理由で批判されることも少なくなった。お金云々ではなく、おもしろいかおもしろくないかで判断されるのだ。そういう意味では、フェアな状況になりつつあると言えるだろう。
 グライムの影響下にあるアーティストが、UKガラージへの愛を示すことも珍しくなくなった。AJトレーシーはスウィート・フィーメイル・アティチュードをフェイヴァリットに挙げ、ジョルジャ・スミスはプレディターと組んで“On My Mind”というUKガラージ・アンセムを生みだした。いまやUKガラージは、バカにされるどころか一番ホットなサウンドのひとつになっている。

 この盛りあがりは世界中に広がろうとしている。それを感じたのは、SHINeeのキーが今月発表した“I Wanna Be”を聴いたときだ。(G)I-DLEのソヨンが参加したこの曲は、全体の雰囲気こそトロピカル・ハウスの要素が色濃いエレ・ポップだが、3拍目に食い気味でスネアを入れるビートは紛れもなくUKガラージである。

 ニューヨークのOrphan.からリリースされたクライン・ザーガの「Womanhood」も興味深い作品だ。このEPには、“Absolutely”という曲が収録されている。ざらついたヴォーカルやドライな音質はインダストリアルだが、ウォブリーなベースや性急なビートから生まれるグルーヴは、やはりUKガラージだ。

 これらの流れをふまえると、UKガラージはダブステップが歩んだ道を行こうとしているようにも見える。2000代前半にロンドンで生まれたダブステップも、雌伏の時を経て、現在はイギリス以外からも良質なトラックが生まれているからだ。

 UKガラージが誕生したときは、いまほどネットが一般化しておらず、ゆえに一度埋もれてしまうと再注目されづらいところもあった。しかしテクノロジーが進み、誰もがあらゆる時代の音楽にアクセスできるようになったいま、すべてのサウンドが再び注目を浴びる可能性が生じた。かつて人々にどう思われていたかもふまえたうえで、おもしろいところがあればそれを楽しむという健全な好奇心であふれるのが現在なのだ。そのチャンスをUKガラージは掴んだ。竹内まりや“プラスティック・ラブ”のように



おまけ

 筆者が好きなUKガラージを選んだプレイリストです。他に入れたい曲もありましたが、Spotifyにないのがほとんどでした...。とはいえ、オススメなのは確かですから、ぜひとも。


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