努力をしても報われない者たちのために、彼らは歌った 〜 Manic Street Preachers『Everything Must Go』(20周年記念盤)〜



 ウェールズが輩出したイギリスの国民的バンド...って書かれるのを嫌がるであろうマニック・ストリート・プリーチャーズが、4枚目のアルバム『Everything Must Go』の20周年記念盤をリリースした。
 それにしてもマニックス、この手のリリースが本当に多い。まず、本作は10周年記念盤もある。さらに『Generation Terrorists』は20周年記念盤が出ているし、『The Holy Bible』でも10周年記念盤と20周年記念盤を出している。商魂たくましいというか、アニヴァーサリーを律義に祝うというか...。とはいえ、筆者はマニックスのことが大好きだから、もちろん本作の20周年記念盤も購入。じっくり楽しんでおります。


 ご存じの通り、現在の世界は資本主義を中心にして動いている。『資本論』で知られるマルクスいわく、資本主義は「生産手段が少数の資本家に集中し、一方で自分の労働力を売るしか生活手段がない多数の労働者が存在する生産様式」ということになるが、この生産様式が行きすぎた結果、経済的格差や貧困の拡大が生じていることは周知の事実だと思う。経済学者トマ・ピケティによる『21世紀の資本』のベストセラー、さらに“反緊縮”を掲げた欧州左派の躍進なども、こうした背景が深く関係している。これらの流れは、“上の富裕層”に対する“下の人々の叫び”が巻きおこしたものだ。端的に言うとその叫びは、“富を独占するな!”ということを主張している。まさに、「ザ・マッシズ・アゲインスト・ザ・クラッシズ(労働者階級 対 上流階級)」(※1)。

 そんな叫びをマニックスは、20年も前にとある曲で表現していた。それは、本作のハイライトにして、マニックスの代表曲である「A Design For Life」だ。階級闘争をテーマ(※2)にしたというこの歌は、酔っぱらいが管を巻いてるだけに聞こえる。だが、よく聴いてみよう。


〈図書館で得た知識で権力を手に入れ 勤勉な労働によって自由を得た その報酬は一体いくらなんだ? 薄っぺらな威厳を手に入れるための報酬は〉

〈俺たちは愛について議論したりはしない 泥酔できさえすりゃいいのさ 俺たちにはどんな浪費も許されてないし これが最終地だということも言いわたされている〉


 ひとつ目の一節は、上流階級に向けられた皮肉のように聞こえる。「薄っぺらな威厳」と聞いて思い浮かぶのは、政治家や資産家あたりだろうか? いずれにしろ、上流階級に対する言葉であるのは確かだろう。
 ふたつ目の一節は、彼らから見た労働者階級の現実を歌ったものだ。愛について議論する余裕がないほど働きづめで、その引きかえに得られる給料もほんのわずか。だから浪費する金などまったくありゃしない。こうした辛い生活を忘れさせてくれるのは、大量の酒がもたらす酩酊だけ。そんな悲哀が込められている。

 マニックスは、労働者階級の家庭で生まれ育った者たちが結成したバンドだ。ジェイムス、ニッキー、リッチー、ショーンの4人は、世界に巣食う数多くの問題を取りあげ、その都度議論を呼び起こしてきた。特に、マニックスが4人だった頃に残した『Generation Terrorists』『Gold Against The Soul』『The Holy Bible』の3枚は、いま聴いても驚嘆するほどの怒りと鋭い批評眼が込められている。哲学的かつ文学的なリリシズム、くわえてそれを最大の熱量でもって発射するジェイムスのヴォーカルと、焦燥まじりの性急なバンド・アンサンブル。そのすべてがいまもなお刺激に満ちており、聴き手の想像力を促す。

 マニックスは、目の前の問題に対する自分なりの考察を示すことで、“いまある世界とは違う世界”という可能性を私たちに見せてくれる。そうすることで、多くの人たちを苦難や固定観念から解放し、私たちが前進するための希望と勇気をあたえてくれる。
 そしてこれは、“表現”の魅力そのものだと筆者は思う。もちろん、すべての“表現”がそうあるべきだとは言わない。美しさや快楽だけを目的とした表現も大好きだ。ただ、筆者が“表現”に求めているのは先述した可能性であり、この欲求をマニックスは満たしてくれるというだけの話である。

 最後にもうひとつ、マニックスの興味深い点を書いておく。マニックスは、“君もそこから這いあがれる”というような安っぽい応援歌を歌わない。メンバー全員が、貧富の格差を拡大させた悪名高きサッチャリズムに覆われた時期のイギリスで育ったせいか、安易な精神論に傾かないのだ。
 これはおそらく、サッチャリズムの犠牲になった労働者階級である彼らから見て、この世界は“努力や根性だけではどうにもならないことがある”という冷酷な現実を突きつけるものだったからだろう。実際、2013年のアルバム『Rewind The Film』に収められた「30-Year War」では、サッチャー時代のイギリスを痛烈に批判している。しつこいと言えばそうかもしれないが、それほど労働者階級にとってサッチャーは憎き存在なのだ。当時おこなわれた政策の影響は、いまも根強いのだから。

 しかし、そうしたどうにもならない現実を見てきたからこそ、大観衆が集まるスタジアムで〈俺たちにはどんな浪費も許されてないし これが最終地だということも言いわたされている〉と歌える説得力を持ちえた。マニックスは、自らの成功譚をひけらかすことはせず、努力をしても報われない者たちのために歌ったからこそ、多くの人にとって特別なバンドになれたのだ。

 いまもマニックスは、そんな報われない者たちに対するひねくれた愛情を隠さない。それは、2007年のアルバム『Send Away The Tigers』に収録された「Underdogs」を聴いてもわかるはずだ。


〈これはフリークたちのための歌 お前たちはこのうえなく美しい〉

〈お前たちがフリークでありつづけますように お前たちが間違いを起こしつづけますように お前たちが決して屈服しませんように 負け犬の復讐ほど甘美なものはない〉


 私たちには、マニックスの歌がまだまだ必要だ。



※1 : マニックスは「The Masses Against The Classes」という名曲を生みだしている。

※2 : ベスト・アルバム『Forever Delayed』の曲解説におけるニッキーの発言を参考にしています。

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