クッキーシーン・トップ・50・アルバムズ・2014 番外編

 先日、僕が編集として関わっているクッキーシーンの2014年ベスト・アルバム50が発表されました。

 http://cookiescene.jp/2014/12/502014.php

 この記事には、編集長の伊藤さんとおこなった対談も載っているんですが、正直、言いたかったことの2割くらいしか載ってません。なので、この場に僕の主観をより濃くした番外編を書かせていただきます。

 今回のクッキーシーンのベスト・アルバムは合議制で決められました。それゆえ、もっとバラバラなリストになると思ったんですが、予想よりもまとまりのあるものになったのは、少なくない驚きでした。ちなみに僕の選考基準は、「今と共振する要素を持ち、なおかつ10年くらい経って2014年の音楽を振りかえるとき、真っ先に想いだすであろう作品」です。「今と共振する要素」といってもさまざまありますが、今回のリストはレヴューに飛べるリンクも貼ってあるので、そこでその「要素」を少しでも読みとってもらえると幸いです。いわばリストは〝根っこ〟で、レヴューが〝枝葉〟。それぞれの〝枝葉〟は一側面に過ぎませんが、いろんな一側面が集まることで何かしらの共通項、つまり〝根っこ〟が見えてくるのではないか? そんな意図を込めました。

 そして〝根っこ〟には、時代が反映されていると思います。たとえば、6位のケイト・テンペスト『Everybody Down』と、7位のKOHH(コウ)『Monochrome』は、前者がイギリスで後者が日本のアルバムです。言葉も違えば描かれた風景も違う。でも僕には、人が持つ共通した普遍性を見いだせる作品に聞こえます。イギリスと日本、違う国だけれど、実は似たような問題や風景があるんじゃないか? だとしたら、そう思えるのはなぜなのか? こうやっていろいろ考えていくと、異なると思っていた点と点が繋がり、その作品に潜む新たな可能性と側面に辿りつけるんです。もちろん、これもひとつの切り口でしかないのですが、こうしてそれぞれが切り口を見つけ記録することで、歴史や文脈と呼ばれるものは築きあげられてきた。そのおかげで作品は時を越え、世代も越えて、語り継がれる。でも、最近はこのようなことを意識する人が少ないと感じていて、それに対するひとつのオルタナティヴが、今回のクッキーシーン・ベスト・アルバム2014です。なので、リストと合わせてレヴューもあらためて読んでいただけると、点と点が繋がる気持ちよさをより深く感じられるのではと思います。

 さて、僕がリストに込めた想いについてはこのへんで。ここからは、伊藤さんとの対談で言えなかった事柄をいくつか。まず、きのこ帝国『フェイクワールドワンダーランド』、シャムキャッツ『After Hours』、坂本慎太郎『ナマで踊ろう』、KOHH『Monochrome』、OGRE YOU ASSHOLE『ペーパークラフト』などは、僕が大プッシュしてリストに入れたアルバムです。大プッシュした理由は、〝言葉〟に惹かれたから。僕からすると、今年の日本のポップ・ミュージックは、〝平易な言葉で紡がれた意味深な歌〟が多かったように見えました。作家・山崎ナオコーラの著者プロフィールでよく見かける、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章」みたいなものです。いま挙げた5枚のアルバムは、曖昧ではない明確な言葉選びが目立ちます。特に『ナマで踊ろう』は寓話的歌詞が耳に残るアルバムでしたが、収録曲の「この世はもっと素敵なはず」で歌われる、《見た目は日本人 同じ日本語 だけどもなぜか 言葉が通じない》という一節などは、憲法の制限下に政府はあるという立憲主義をないがしろにし、多くの国民の意にそぐわない政策を推しすすめる安倍政権への当てつけとも捉えられる。でも、こうした現実と切りはなして聴いてみると、寓話というよりは童話に思えてきます。このような、聴き方によって見える風景が違ってくる多角的な作品が、今年は本当に多かった。

 情報が横溢する現在において、多くの人に読まれる言葉のほとんどは、わかりやすさに重点が置かれている。140字の制限があるツイッターなどでは、そうした言葉を頻繁に見かけます。だけど、そのような言葉は、受け手に思考させないようたくさんの機微を省いている場合もある。いわば、〝考えさせない言葉〟。逡巡や迷いを経ず、さらには熟慮も欠いた、ただ受け手を気持ちよくさせるためだけに存在する言葉。こうした言葉に身を晒していると、考えることを忘れてしまい、いずれ思考停止に陥ってしまうのではないか? 

 というのは、僕が最近世の中に対して抱く違和感のひとつに過ぎませんが、この違和感と似た問題意識を持つ人が少なくないからこそ、先に書いた〝平易な言葉で紡がれた意味深な歌〟が増えてきたのかもしれません。たくさんの人に聴いてもらうため同時代性を取りいれつつ、批判精神も込めるといいますか。一種のカルチャー・ジャミングでしょうかね。

 それから批判精神は、今回のリスト全体に通底すると思います。たとえば、〝◯◯クソ食らえ!〟みたいなハッキリとした主張はないけれど、自身を取りまく風景や心象をサウンドにしたら、自然と現実に対するオルタナティヴな側面が生まれたかのような作品で占められているなと。これはおそらく、クッキーシーン編集部がそういう作品を好むことも関係している? でも、そういう作品がたくさん生まれなければ、今回のリストは作れなかったとも思う。そう考えると、今年も音楽は本当に面白かった。まあ、音楽は常に面白いんですけどね。それに気づくかどうかが問題であって。その問題を少しでも解消する手助けとなれるよう、今後も精進していきたいと思います。この拙文が、あなたにとって少しでも役に立つことを願いながら。では!

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