老練なねごと流ダンス・ミュージック 〜 ねごと『ETERNALBEAT』〜



 ねごとのサード・アルバム『VISION』をあらためて聴くと、その多彩さに驚かされる。手の込んだコーラス・ワークが印象的な「透明な魚」をはじめ、トランシーなサウンドがどことなくオービタルを連想させる「シンクロマニカ」など、バラエティー豊かな作品だ。そうした作品を作ったことで、ねごとの自由度は飛躍的に高まり、どんな方向性にも行けるという理想的な状況ができたと言える。


 そんな彼女たちが、4枚目のアルバム『ETERNALBEAT』を完成させた。本作で選んだ道はズバリ、ダンス・ミュージックだ。もともと彼女たちは、「シンクロマニカ」や「真夜中のアンセム」など、ダンス・ミュージックの影響が滲む曲をいくつか生みだしてきたが、本作ではその側面により焦点を当てている。この変化を象徴するのは、先行EP「アシンメトリ e.p.」にも収められた「アシンメトリ」、突如挟まれる和風なメロディーが際立つ「シグナル」といった曲だろう。共に中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)プロデュースというのはなんとも興味深いが、彼が参加した曲はすべて、スケールの大きい展開が際立つ曲に仕上がっている。それこそBOOM BOOM SATELLITESのサウンドを想起させ、「ループ」や「カロン」といった、これまでねごとが生みだしてきたトランシーな曲とは違った恍惚感を醸している。


 「アシンメトリ e.p.」と比べ、バンド・サウンドの比重が大きいのも本作の特徴だ。初めて「アシンメトリ e.p.」を聴いたときは、「ダンス・ミュージック色が濃いエレクトロニックなサウンドになるのか?」と思ったが、まんまダンス・ミュージックをやるというよりは、これまでねごとが築いてきたバンド・サウンドにダンス・ミユージックを上手く溶けこませた印象だ。親しみやすいメロディーや、キュートさとカッコよさを兼ね備えた雰囲気など、従来の持ち味も健在だ。そのうえでダンス・ミュージックの要素を織り込む手腕は、もはや老練と言ってもいい。メンバー全員20代という若いねごとだが、ミニ・アルバム「Hello! “Z”」でメジャー・デビューしてから約7年、バンド自体の活動は10年近くにもなる。それだけの経験を積めば、職人的な技が身につくのも当然だろう。


 ねごとのライヴに行くと、制服を着た10代と思われる集団がいたりと、若いファンが多いことに驚かされる(と同時に、88年生まれの筆者は少々肩身が狭くなる)。しかし、ねごとのサウンドを聴きこむと、長年音楽を聴いてきた玄人リスナーも唸らせる仕掛けがたくさんあることに気づく。こうした、音そのもので勝負できる部分は、アルバムを重ねるごとに強くなっている。本作とも長い付き合いになりそうだ。

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