過去の“痛み”と向きあうということ 〜マニック・ストリート・プリーチャーズの『The Holy Bible』再現ライヴに寄せて〜

 8月15〜16日、サマーソニック2015が開催されました。きゃりーぱみゅぱみゅ、ねごと、ベイビーメタル、、アリアナ・グランデ、ディアンジェロなど、さまざまな出演者が素晴らしいパフォーマンスを見せてくれましたが、ここではマニック・ストリート・プリーチャーズ(以下マニックス)について書いていきます。

 8月15日の幕張メッセで、マニックスのライヴを観ました。この日のライヴは、彼らのサード・アルバム『The Holy Bible』(1994)を再現するといういつもとは違う趣向の内容。マニックス史上もっともダークで攻撃的な『The Holy Bible』のサウンドが、どのような形で披露されるのか?とても楽しみにしていました。

 結論から言いますと、『The Holy Bible』再現パートは、どうもピリッとしないグダグダな演奏でした。音数が少なく、ギスギスとしたポスト・パンク的サウンドはアルバムと同じだったけど、ジェイムスのヴォーカルはどこかぶっきらぼうで、コール・アンド・レスポンスを求めているわけでもないのに、歌詞を歌わない場面も多く見受けられた。MCもいくつか挟む程度で、1曲演奏したらすぐさま次の曲へ・・・といった具合に、素っ気ない。そんな彼らを見て、「ジェイムス喉の調子悪いのかな?」とか、いろいろ想像してしまいました。

 ところが、『The Holy Bible』を全曲演奏し、ジェイムスがいつもの白いギブソン・レスポールに持ちかえてアンコール・パートに入ると一変。まずは「You Love Us」を披露し、観客をガンガン盛りあげていく。バンド・アンサンブルも熱を帯び、ジェイムスの歌声も、伸びと迫力に満ちたものに戻っていた。このアンコール・パートでは、「You Love Us」「A Design For Life」「Walk Me To The Bridge」「Motorcycle Emptiness」を演奏してくれたんですが、そのどれもが素晴らしい演奏。演奏力が衰えたわけではないのだなと確認でき、この点はとても嬉しかった。

 ただ、終演後、『The Holy Bible』全曲を生演奏で聴けたという感動に浸りつつも、「なぜ『The Holy Bible』再現パートとアンコール・パートではあんなに差があったんだろう?」という想いが、僕の頭から離れませんでした。でも、よくよく考えたら、それも当たりまえなんですよね。『The Holy Bible』は20年以上前にリリースされた作品で、当時と今では、彼らの考えも変化しているでしょう。演奏力も格段にあがっている。やはり、『The Holy Bible』は“あのときのマニックス”だからこそ作れた作品であり、もう2度と再現できるわけではないのだなと。そういう意味で『The Holy Bible』は、唯一無二のアルバムだと言えます。たぶんこのことは、彼らもわかっていると思う。ジェイムスは、『The Holy Bible 10th Anniversary Edition』収録のDVDで、次のように語っている。

「今リッチーが俺達と一緒にいないことで 映像的に以前のようなバンドの調和は取り戻せていない」

 そう語ってから、さらに10年近く経ち、彼らは3人で『The Holy Bible』を全曲演奏した。何かと“区切り”を意識して、そのたびにベスト・アルバムやアニヴァーサリー・エディションを発表する彼らだ。『The Holy Bible』再現ライヴも、過去を振りかえることで、何かを得ようとしたのかもしれない。だとすれば、『The Holy Bible』再現パートのときの彼らが、どこかぎこちなく、居心地が悪そうだったのも納得できる。彼らは、過去の“痛み”と向きあっていたのだから。こうした愚直さがマニックスの魅力であり、僕がマニックスを愛する理由でもある。

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