Ode(오드)「To Youth」


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 K-POPといえば、ブラックピンクCLCなど、アイドル・グループのイメージが強いと思う。しかし、韓国のポップ・ミュージックはK-POPだけじゃない。BoAの『WOMAN』にも参加したスミンみたいにさまざまなシーンを跨ぐアーティストもいれば、ダンス・ミュージック・シーンで活躍するシンタサイジォンもいる。これらの動きにも目を向ければ、多様な韓国のポップ・カルチャーが見えてくるだろう。

 そのなかでも最近よく聴いているのは、オード(오드)のファースト・ミニ・アルバム「To Youth」である。3人組バンドの彼らは、幽玄的なサウンドスケープが光るロックを鳴らす。ディストーションよりもクリーン・ギターの割合が多く、ひとつひとつの音は温かみを宿している。
 この持ち味は本作でも楽しめる。特に惹かれたのが“소수의견”だ。ザ・ヴァーブに通じるダウナーなサイケデリアを創出し、メランコリーを隠さない泣きのギターが心に沁みわたる。“Here We Are”も素晴らしい。心地よい歌メロと甘美なコーラス・ワークが彷彿させるのは、10ccの名曲“I'm Not In Love”だ。
 これらの曲からもわかるように、本作はロックを基調にした作品である。しかし、エフェクトなどの細かい部分は、R&Bやヒップホップが隆盛を誇る現在と共振する。R&Bやヒップホップといえば、ミニマルなサウンドの骨組みを支えに、ラップやヴォーカルを前面に出したプロダクションが多い。一方でロックは、バンドによって異なるものの、ラウドなギターやドラムを強調するプロダクションが定番だ。

 こうした点をふまえると、本作のプロダクションはロック的でないところも目立つ。たとえば“손그늘”では、スケールのでかいギター・サウンドが鳴り響く。それ自体はロック的だが、高域を抑えるイコライジングによって角のない音にし、音量もあまり高くないのがおもしろい。そのうえで、リヴァーブ成分が多めのヴォーカルを際立たせ、ディレイなどのエフェクトを駆使して耽美的な音像を生みだしている。そうして現れるのは、ザ・ウィークエンドやフランク・オーシャンといった、アンビエント要素も色濃いR&Bと共鳴できるサウンドだ。
 このような作風は、R&Bやヒップホップがポップ・シーンの中心となった現在におけるロックという意味で、非常に興味深い。音の方向性は異なるが、アプローチはザ・ナショナルの『I Am Easy To Find』や、ヴァンパイア・ウィークエンドの『Father Of The Bride』と共通する。これらの作品も、ロックのクリシェをふまえつつ、モダンな要素も多分に取りいれたものだからだ。

 本作は歌詞も秀逸だ。すべての曲で憂鬱な気持ちを吐きだしたりと、お世辞にも前向きとはいえない。だが、その言葉選びが現在の韓国と重なるからおもしろい。
 パルムドールを獲得したポン・ジュノ監督の映画『パラサイト』も示すように、韓国では貧富の格差や階層対立が社会問題となっている。また、女性蔑視が根強く残るなかで女性たちの意識に変化が起きるなど、差別問題も顕著だ。
 本作の歌詞は、そのような状況を生きることの辛さが滲み出ているように聞こえる。それを象徴するのは“소수의견”だろう。彼ら自身の解説によれば、この曲は社会、文化、性など、さまざまな意味で少数者として生きる人たちに捧げたという。こうした社会的側面も、本作の聴きどころだ。
 「To Youth」は、きらびやかなK-POPを聴いているだけでは見えない韓国の姿を、私たちに見せてくれる。


※ : 現時点ではMVがないみたいなので、Spotifyのリンクを貼っておきます。


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