Damon Locks - Black Monument Ensemble『Where Future Unfolds』



 ほとんどの音楽ファンにとって、デイモン・ロックスはトレンチマウスのヴォーカルという認識なんだろうか。確かに筆者も、デイモンの名を聞いて思い浮かべるのは、シカゴを拠点としていたこのバンドだ。ポスト・パンク、ポスト・ハードコア、マス・ロックなど、トレンチマウスはさまざまなジャンルで形容されている。ダブを取り入れていたのも印象的で、1996年のアルバム『The Broadcasting System』に収録された“Contrast Beneath The Surface”などは、ダブ/レゲエの匂いが充満するトリッピーな曲だ。
 トレンチマウスの中心人物だったデイモンは、当時からバンド関連のアートワークを手がけたりと、音楽以外の表現でも才覚が顕著だった。サン・ラの未発表音源を使用したアニメーションといった作品も制作し、いまではヴィジュアル・アーティストとしても認識されている

 そのデイモンは、デイモン・ロックス・ブラック・モニュメント・アンサンブル名義でアルバム『Where Future Unfolds』を発表したばかりだ。このグループにはミュージシャンやダンサーなど、総勢15人が集結している。結成のきっかけは、公民権運動時代のスピーチなどを使ったコラージュ作品の制作を目的とした、デイモンのソロ・プロジェクトだった。それが大所帯のバンド・プロジェクトに発展し、こうして本作を作るまでになったというわけだ。
 本作のサウンドは、ジャズ、ゴスペル、アフロ・ビート、ヒップホップなどの要素が目立つ。先述のソロ・プロジェクトを引き継ぐ形で、多くのスピーチ音源もサンプリングされている。このような作風からもわかるように、本作は黒人の視点から世界を見つめた作品だ。いまだ差別の眼差しに晒され、それが一層酷くなったようにも見える現況を嘆く。

 しかし、本作はそれだけじゃない。そうした眼差しを乗り越えようとするポジティヴな感情も渦巻いているからだ。たとえば、パワフルな歌唱が心に響く“Rebuild A Nation”では、〈I can rebuild a nation(私は国を再構築できる)〉と歌われる。これまで多くの先達が築いてきた平等や公正の理念が壊されつつある現在においても、光り輝く瓦礫を拾い集め、それをまた繋ぎ合わせることはできると宣言するのだ。
 そうしたポジティヴィティーはサウンドにも滲んでいる。おおらかに歌いあげるキャッチーなポップ・ソングもあれば、TR-808によるマシーナリーなビートを打ちだした曲もある。“Statement Of Intent / Black Monument Theme”では、フリー・ジャズな音をバックにアジテーションを繰りひろげる。こうしてひとつの型にとらわれず、自由に伸び伸びと音楽を鳴らすその姿は、他者と手を取りあうことでしか得られない連帯の輝きを放つ。
 その輝きは、黒人のみならず、いまを生きる多くの人が必要としているものに見える。



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