最果てのミニマル・トランス 〜 Lorenzo Senni「Persona」〜



 イタリアを拠点に活動しているロレンツォ・セニ。彼の名を広く知らしめるキッカケとなったのは、2012年に発表されたアルバム『Quantum Jelly』だ。オーストリアのEditions Megoからリリースされたこの作品で、点描的トランス(Pointillistic Trance)と形容される現在の方向性が初めて示された。ほぼ一発録りで、編集もほとんどおこなわずに作られたというそれは、トランスのきらびやかで高揚感あふれるシンセ・サウンドを、ミニマル・ミュージックのフォーマットで解釈するというぶっとんだ代物。ビートはなく、わかりやすい起伏もないトラック群だが、すべての曲が不気味なハイ・テンションで包まれている。
 こうした方向性に手応えを感じたのか、彼は2014年のアルバム『Superimpositions』でも点描的トランスを追究した。よりクリアになった音像と、ダブステップ以降のベース・ミュージックと共振するグルーヴをまとったこのアルバムは、FACTの2014年度ベスト・アルバム50に選ばれるなど、各所で高い評価を獲得した(※1)。


 そんな彼が名門レーベルWarpと契約を結び、新たなEP「Persona」をリリースした。端的に言って本作は興味深い作品だ。方向性としては『Quantum Jelly』に近く、『Superimpositions』で見られたベース・ミュージックの要素は減退した。微細な変化でグルーヴを生みだす作風はミニマル・ミュージックの手法だと言える。しかし、8ビット風のサウンドが聞ける「Win In The Flat World」など、随所で新しい試みも見られる。そう考えると本作も、点描的トランスの進化を目指した作品なのだろう。


 また、全曲でメロディーの欠片がうかがえるのも見逃せない。Warpと契約したことで、彼なりに間口の広さを意識した?とも考えられるが、もしこの欠片を次のフル・アルバムでも使うとしたら、『Superimpositions』以上の衝撃を味わえるのではないか。そう思えるほど、本作におけるメロディーの欠片はさまざまな可能性を私たちに見せてくれる。彼の作品にこの言葉を使うとは思わなかったが、キャッチーなのだ(もちろん彼にしては、だが)。あなたも、ミニマル・トランスの旅に付き合ってみないか?




※1 : FACTの記事『The 50 best albums of 2014』を参照。http://www.factmag.com/2014/12/09/the-50-best-albums-of-2014/47/

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