20年以上の時を経て主流になった 〜 Leftfield『Leftism 22』〜



 1990年代のイギリスで、幅広い層から支持されたダンス・ミュージックのアーティストといえば誰だろう?こうした問いを受けてよく挙がるのは、アンダーワールド、ケミカル・ブラザーズ、プロディジー、ファットボーイ・スリム、オービタルといった者たちだ。


 しかしレフトフィールドを忘れてはいけない。レフトフィールドは、ニール・バーンズとポール・デイリーによって結成された2人組。1995年のファースト・アルバム『Leftism』は全英アルバムチャート3位、さらに1999年のセカンド・アルバム『Rhythm And Stealth』は1位に輝くなど高い人気を誇っていたが、2002年に突如解散。だが2010年、ニール・バーンズのソロ・プロジェクトとして復活すると、2015年には3枚目のオリジナル・アルバム『Alternative Light Source』をリリース。それが全英アルバムチャート6位に入り、根強い人気を見せつけた。


 そんなレフトフィールドが、『Leftism 22』を発表した。本作は『Leftism』のリマスターであるCD1と、『Leftism』のリミックスを収録したCD2の計2枚組となっている。まずCD1を聴いてみると、いまでも興味深い音で少々驚いた。8分刻みの裏拍で音が強調されるベースを基調にしたEDM的ノリが多い現在と比較すれば、ハイハットを多用する本作は“やはり90年代の作品”と感じる。ただ、レゲエ、ダブ、ヒップホップ、ハウス、ロック、ブレイクビーツなどの要素が混在する音楽性は、いまのリスナーのほうがしっくりくるかもしれない。特に、レゲエとダブの要素はダブステップ以降のベース・ミュージックとも接続できるものであり、たとえば「Afro Left」なんかは現在のベース・ミュージック系パーティーでも十分に機能する。レフトフィールドといえば、ジョン・ライドンが君主的な歌声を響かせる「Open Up」のイメージが強く、いわゆるビッグ・ビートの括りで語られることも多い。しかしそうした時代性を剥ぎ取り本作に触れてみると、デニス・ボーヴェルやエイドリアン・シャーウッドなど、1970年代後半からイギリスにレゲエ/ダブを広めてきた者たちと共振する部分のほうが大きい。もちろん、そこも含めて多様な解釈を生みだすのが本作の魅力なのは言うまでもない。


 また、その魅力はCD2にも表れている。ホッジ・アンド・ペヴァーリストのような若手から、エイドリアン・シャーウッドといったベテランまでがリミキサー陣に名を連ね、レフトフィールドの影響力が広大であることを示している。ダンスフロアで威力を発揮するトラックが揃っているのはもちろんのこと、『Leftism』に込められた要素の多彩さとその切り取り方を楽しめるという意味では、現在の視点からレフトフィールドを解釈した批評的視座が強い内容と言える。


 復活以降のライヴにはニック・ライス(ハドーケン!)が参加したりと、若いアーティストからもリスペクトを集めるレフトフィールドだが、日本では“1990年代に売れたヤツら”という認識が大半のように思える。とはいえ、『Leftism 22』を聴けばこのような認識は間違いだと気づくだろう。

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