退廃の美学と漆黒のサイケデリア 〜 Warpaint『Heads Up』〜



 アメリカの4人組バンド、ウォーペイント。彼女たちの立ち位置は、他のバンドたちと比べても非常に独特だ。特定のシーンと強い結びつきがあるわけでもなく、アメリカの音楽史を受け継ぐ伝統的な匂いもしない。地域性や文脈といった要素が薄いのだ。自らの多様な嗜好を頼りに紡ぎあげるサウンドは、いつも所在なさげな孤独感を漂わせており、それはウォーペイントというバンドの独自性を表すものでもあった。いわば彼女たちは、どこにも属していない。
 ゆえに語りづらい存在でもあるが、筆者からするとそんなことはどうでもいい。センスあふれるダークで退廃的なサウンドを鳴らしてくれたら満足だ。それに、そうした地域性や文脈にとらわれていないところが魅力でもあるのだから。この魅力は、ネットが一般化して以降の音楽シーンを象徴する側面であり、ウォーペイントが“今”の感性を持ったバンドだと示すものでもある。だからこそ、音楽業界の気まぐれで残酷な荒波にさらわれず、こうして着実に活動できているのだ。


 そんな彼女たちのサード・アルバム、『Heads Up』がこれまた素晴らしい。デビューEPでも組んだジェイコブ・バーコヴィッチをプロデューサーに迎えて作られた本作は、彼女たちの成熟を記録した内容となっている。従来のダークで退廃的な雰囲気をより鮮明にし、艶かしい歌声も深みを増している。じわじわと迫るドラッギーな高揚感も健在だ。筆者が特に惹かれたのは、「Whiteout」と「The Stall」の2曲。共に粗い質感を持つドラムが印象的で、それがブリアルを連想させるから面白い。
 イギリス出身のブリアルは、ダブステップ以降のベース・ミュージック・シーンを語るうえで欠かせないアーティストのひとりだが、本作はそのベース・ミュージックに通じる要素がいくつも見られる。もともとベースを強調するバンドではあったものの、それをより前面に出してきたのはなんとも興味深い。強いて類例を挙げればジ・エックス・エックスなどだが、筆者は日本のD.A.N.とも共振するように聞こえる。
 思えば、D.A.N.が今年リリースしたアルバム『D.A.N.』(※1)も、ベース・ミュージックを通過したポップ・ソング集と呼べる作品だった。おそらく、本稿を読んでいる人のなかには、D.A.N.も含めた日本の音楽はたくさん聴くが、海外のポップ・ミュージックにはあまり触れないという人も少なくないと思う。そんな人にとって本作は、新しい興奮をもたらしてくれる作品になるかもしれない。


 また、全体的にポスト・パンクの要素が色濃くなった点も特徴だ。チープなドラム・マシンのビートが耳に残る「Don't Wanna」は、さながらヤング・マーブル・ジャイアンツだし、性急なグルーヴが興奮をいざなう「Heads Up」にいたっては、ジョイ・ディヴジョンの幻影がちらついている。そういえば彼女たち、ファースト・アルバム『The Fool』でも、ジョイ・ディヴィジョンを想起させるギター・サウンドを鳴らしていた。そう考えると、本作でポスト・パンクの要素が色濃くなったのも、ひとつの成熟と言えるだろう。



※1 : このアルバムについては以前書きました。ぜひご一読を。https://note.mu/masayakondo/n/n9a71517dffbf

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