映画『シー・ユー・イエスタデイ』



 『シー・ユー・イエスタデイ』は、CJ(エデン・ダンカン=スミス)とセバスチャン(ダンテ・クリッチロウ)という黒人の高校生が主役の映画だ。科学の才能に秀でたCJとセバスチャンはタイムトラベルを夢見ていた。そのための装置を作ることに励み、実験を繰りかえす。そうして失敗を積みかさねた末に、CJとセバスチャンはタイムトラベルに成功した。しかし不完全であるため、試行錯誤の日々に戻る。だが、そんな日々に突如暗い影が落ちた。CJの兄・カルヴィン(アストロ)が強盗に間違われ、警官に射殺されてしまったのだ。この悲劇からカルヴィンを救うため、CJとセバスチャンは過去にタイムトラベルするのだった。

 タイムトラベルと聞くと、多くの映画ファンは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズを連想するだろう。実際、劇中にはマイケル・J・フォックスがロックハート先生役でカメオ出演し、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の名台詞まで披露してくれる。他にも音楽史に残る名曲が登場したりと、本作は過去のポップ・カルチャーに対する愛情を隠さない。

 とはいえ、製作でスパイク・リーが関わり、そのリーに映画作りを学んだステフォン・ブリストルが監督の本作である。それだけで終わるはずがない。本作の興味深い点は、タイムトラベルを繰りかえすという物語に、アメリカの黒人史を重ねていることだ。劇中では、無実の罪で黒人が射殺されたことに抗議するデモのニュースがたびたび流れる。カルヴィンが殺されてしまうのも、銃を出すのでは?と警官が勘違いしたせいだ。これらの要素は、2012年のトレイボン・マーティン射殺事件など、いまもアメリカに蔓延る黒人差別を想起させる。

 いわば本作は、その差別を止めるための物語だ。しかし残酷なことに、CJとセバスチャンは防げない。タイムトラベルを繰りかえしてもカルヴィンは助からず、カルヴィンが助かっても今度はセバスチャンの命が奪われてしまう。ならばとセバスチャンを救おうとするが、成功と引きかえにカルヴィンの命がふたたび奪われてしまう。こうした堂々巡りはまるで、多くの先達が社会を変えようと戦ってきたにもかかわらず、いまだ黒人差別がなくならない現状を表像しているかのようだ。そういう意味では、観ていて心が締めつけられる内容である。

 セバスチャンを救ったあと、CJが再びタイムトラベルをしようとするところで、『シー・ユー・イエスタデイ』の幕は落ちる。もちろんこのタイムトラベルは、カルヴィンの悲劇を防ぐためだ。
 この結末にスッキリしない者もいるだろう。明確な区切りがないのだから。しかし、そこに筆者は本作の切実な想いと、生々しさを見いだす。カルヴィンを救おうとするCJの姿に、現実世界で差別や抑圧に抗う者たちを重ねてしまうからだ。戦いはまだ、終わっていない。



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