オアシスの精神を受け継ぐラッパー? 〜 Bugzy Malone「King Of The North」〜



 『ダウンタウン物語』という映画がある。1976年にイギリスで制作されたこの映画は、禁酒法時代のニューヨークを舞台に、ギャングの抗争を描いている。こう書くと物騒な作品に思えるかもしれないが、出演者は全員子供で、血が一滴も流れないミュージカル映画だ。当時ティーンエイジャーのジョディ・フォスターが出演しており、その才能を遺憾なく発揮している。


 そんな『ダウンタウン物語』の主人公、バグジー・マローン(Bugsy Malone)と1字違いのMCネームを掲げる、バグジー・マローン(Bugzy Malone)という男がいる。イギリス北部にあるマンチェスター出身のバグジーは、グライム・シーンの中でも特に注目されているラッパーのひとりだ。2016年のNMEアワード・ツアーではブロック・パーティーと共演するなど、バグジーはグライム・シーンを越えて知名度を高めつつある。また、「Walk With Me」と「Facing Time」という2枚のEPを全英アルバムチャートTOP10に送り込み、商業面でも結果を出している。現在グライム・シーンは、スケプタの『Konnichiwa』がマーキュリー・プライズを獲得するなど、大きな盛りあがりを見せているが、その中でもバグジーの勢いは一際目を引く。


 そのバグジーが、最新EP「King Of The North」を発表した。本作はタイトル通り、自分こそイギリス北部の王だと宣言した力作だ。全曲ヘヴィーなビートを刻み、バグジーは速射砲の如く言葉を紡いでいく。まるで、バグジーの勢いがそのまま音楽に変換されたような内容だ。
 トラップの要素を前面に出すなど、現在のUSヒップホップに近い音を鳴らす一方で、「Bruce Wayne」ではUKガラージの性急なビートを披露したりと、イギリスらしい要素があるのも心憎い。かつて刑務所に入っていたこともあるバグジーは、インタヴューでもアーティストとして成功したいと公言するなど、貪欲な姿勢を隠さない。バグジーにとって音楽は、自分を解放できる場であると同時に、どん底から這い上がるための手段でもある。ゆえに本作は、これまで以上にさまざまなシーンを意識した作品になったのかもしれない。


 イギリスらしい要素といえば、本作中もっともイギリスらしいのは「Memory Lane」だろう。というのもこの曲、オアシスの「Wonderwall」の歌詞を引用しているのだ。しかも、ほぼ一節まるごとラップしている。
 くわえて「Memory Lane」には、面白いエピソードもある。驚いたことに、オアシス側の許可を得ずに引用したのだそうだ。そうした無許可の状態は、「Memory Lane」のMV制作中まで続いていたが、そのMVを完成させた数日後にノエル・ギャラガーから引用OKの連絡が来たという。そこでバグジーは、新たに「Memory Lane」のMVを制作。こうして、「Wonderwall」のMVにオマージュを捧げた、バグジーからノエルへのお礼とも言える「Memory Lane」のMVが発表されたのだ(※1)。


 バグジーとノエルは、それぞれグライムとロックを主戦場にしており、別の世界で生きているように見える。しかし、共にマンチェスター出身で、アーティストになる前はハードな生活をしていたという点は共通する。おまけに、音楽のおかげでハードな生活から抜け出せたところも同じだ。そう考えると、ノエルなりにバグジーの背景を理解できたからこそ、歌詞の引用を許したのではないかとも推察できる。こうしたことをふまえると、少々強引でもこう言いたくなってしまう。バグジーは、オアシスの精神を受け継ぐラッパーなのかもしれないと。



※1 : MVです。「Wonderwall」のMVも貼っておきますので、比較してみてください。



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