声を上げよ、あなたは素晴らしい 〜 Muna『About U』〜



 ケイティ、ジョゼット、ナオミの3人が結成したムーナは、実に誠実なバンドだ。インタヴューでは社会問題に関する議論を繰りひろげ(※1)、意見を主張することに躊躇しない。
 こうした姿勢を貫くのは、3人がセクシャル・マイノリティーを自認していることも無関係ではない。議論が深まり、多少なりとも理解が進んでいるとはいえ、セクシャル・マイノリティーに対する差別や偏見は未だ根強い。そうした状況に3人は怒りを感じている。たとえば、「I Know A Place」のMVには、警官のヘルメットに映るデモ隊という描写がある。歌の内容がLGBT賛歌であることを考えると、警官は抑圧の象徴として用いられているのだろう。こうしたことからもわかるように、ムーナはポリティカルなバンドだ。


 その姿勢はデビュー・アルバム『About U』でも顕著だ。DVについて歌った「Crying On The Bathroom Floor」をはじめ、「Loudspeaker」では性暴力をテーマにしている。ヘヴィーな題材の歌詞が多く、初めて聴くときはギョッとするかもしれない。
 一方でサウンドは、高揚感と祝祭感を醸している。『Heaven On Earth』(1987)期のベリンダ・カーライルを思わせるキラキラとしたシンセが映え、おまけに「Around U」はニュー・オーダーを想起させるコード進行も見られたりと、アルバム全体に80'sな雰囲気が漂う。
 同時に、「If U Love Me Now」や「Outro」では、フランク・オーシャンの作品などでおなじみのロボ声が取り入れられている。いわゆるプリズマイザーを使っており、このあたりはモダンなセンスを感じさせる。


 昨年デビュー・アルバムを発表したシューラ(※2)、さらにはPWR BTTMやリーフ(Le1f)をはじめ、2010年代はセクシャル・マイノリティーによる興味深い音楽が目立っている。この状況が日本では広く認知されていないのは残念だが、それでも流れが途絶えていないことは素直に素晴らしいと感じる。本稿がその流れへの入口になるのであれば、筆者としては望外の喜びだ。




※1 : Fusionの記事『Dark pop girl band MUNA is ready to graduate into adulthood』(2016年7月30日)を参照。http://fusion.net/story/331584/muna-interview/

※2 : シューラについて以前書いております。ご参考までにぜひ。https://note.mu/masayakondo/n/n18e8f94b79c0?magazine_key=m4cd353bd9d6c

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