挑発的な刺激を求めるあなたに 〜 白波多カミン with Placebo Foxes『空席のサーカス』〜



 白波多カミン with Placebo Foxesのファースト・アルバム『空席のサーカス』は、現在の日本の音楽シーンにおいてもっとも挑発的かつ刺激的な作品だ。メロディアスでキャッチーな側面が際立つのに、どこかギスギスとした孤高の匂いがまとわりついている。

 白波多カミンは、すでにインディーズで多くの作品を発表するなど、早耳リスナーの間では以前から知られる存在だった。そんな彼女が、白波多カミン with Placebo Foxesとしてメジャー・デビューをすると聞いたときは、“なぜバンドなのだろう?”という疑問と同時に、“バンドとしてどんな音を聴かせてくれるのか?”というワクワクが込みあげてきた。

 端的に言うと本作は、バンドだからこそ鳴らせるダイナミックなサウンドが収められた良盤となっている。「サンセットガール」や「普通の女の子」といった、これまでの彼女のイメージに近い弾き語りナンバーもあるが、全体的にはラウドなギター・サウンドが映える内容だ。そのサウンドからは、ニルヴァーナを代表とするグランジ的な激しさも想起できるが、スケールの大きさを感じさせるメロディーはオアシスに通じる。また、シンセのフレーズから始まる「嫉妬」は、ニュー・ウェイヴの要素を醸している。具体的にはDEVOやプラスチックスあたりを連想するのだが、いずれにせよ本作において異色なのは間違いない。

 収録曲のなかで一番スリリングな曲は、オープニングを飾る「妹弟」だろう。〈仏壇の前で君とセックスをした〉など、セクシャルな匂いが漂う言葉だけでもインパクトはある。しかし「妹弟」のすごさは、こうした字面だけにとどまらない。たとえば、〈姉弟のフリで君とピアノを弾いた〉という一節。前後の歌詞をふまえると、男女カップルが姉弟のフリしてピアノを弾いたという文脈で見るのが妥当だ。しかし、男女だとハッキリ描かれていないところに着目すると、解釈はグンと広がりを見せる。つまり、セックスをしているのは男性同士とも女性同士とも取れるのだ。冒頭に〈ブラジャーを褒めた〉という一節があることから、どちらかは女性と思われるが、メンズブラという男性専用のブラジャーもあるから...といった具合に、想像を広げていくとキリがない。もちろん「妹弟」の歌詞に答えはなく、むしろハッキリしているようで肝心なところは曖昧だ。とはいえ、着目点によって風景が変化し、さまざまな境界線が交雑していくような感覚をもたらす歌詞だからこそ、聴き手にスリルと興奮をもたらせる。こうした言葉選びをできる才能には、なかなか巡り逢えるものではない。

 しかしいま、そのような才能が目の前に存在する。このことに多くの人が驚嘆する日はそう遠くない。

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