忙しない現代社会を描いた電子音 〜 Antwood『Sponsored Content』〜



 カナダを拠点に活動するアントウッドことトリスタン・ドウグラスは、2016年にファースト・アルバム『Virtuous.scr』をリリースした。ベース・ミュージック、IDM、トランスといった音楽を撹拌し、アーティフィシャルな金属音やシンセ・サウンドを響かせる内容は驚きで満ちている。人工知能にインスパイアされたというコンセプトもひとつの物語を感じさせ、筆者の心をわし掴みにした。

 そんなアントウッドが、早くもセカンド・アルバム『Sponsored Content』を完成させた。前作に続きPlanet Muから発表された本作でアントウッドは、インターネットと広告の関係をモチーフにしている。「Disable Ad Blocker」や「The New Industry」など、ネット以降の消費社会を意識したような曲名が多く、「I'm Lovin' I.T.」というまんまマクドナルドな曲もある。
 SNSを開けば何かしらの広告が現れ、私たちは膨大な量の情報を投げつけられる。ひとつひとつの情報はたいして吟味もされず、さながらベルトコンベアに乗った電化製品のように、淡々と目の前を過ぎ去っていく。そんな現代社会を本作は表現する。

 それは当然サウンドにも反映されている。本作に収められたすべての曲が、目まぐるしく表情を変え、リスナーの心を不安定な状態に導く。丁寧に反復するメロディーやビートはほとんどなく、前作以上にさまざまな音楽的要素が細切れにされている。BPMも忙しなく変化し、何とも落ち着きがない。低域が強調されたプロダクションからは、ベース・ミュージックを下敷きにしてるんだなと一応感じとることができる。しかし、四方八方から飛んでくるヴォイス・サンプルや音の欠片は、特定のジャンル名で括られることを徹底的に拒否している。手グセで作ったような電子音をぶち撒ける本作に触れると、そう感じざるをえない。

 だが、そのような手法でも曲になるのだから面白い。たとえば7曲目の「ICU」は、ヴェイパーウェイヴ風のスロウなサウンドで始まるが、その後はカメラのシャッター音、へヴィーなキック、無機質な声、インダストリアルなノイズといったサウンドが次々と飛びだしてくる。こう書くとまとまりのない曲に思えるかもしれないが、不思議とひとつの曲に聞こえるのだ。メロディーやビートには繋がりを見いだせないが、音の響きと無音を駆使することで、絶妙な連続性を紡いでる。だからこそ、ひとつの曲に聞こえるのかもしれない。ただ、これはアルカやワンオートリックス・ポイント・ネヴァーなども得意とする手法で、お世辞にも目新しいと言えない。それでも聴きごたえは十分だが。

 また、「ICU」を聴いて想起した曲がある。それはブラックピンクの「마지막처럼(As If It's Your Last)」だ。この曲は、ダンスホール→マカロニ・ウエスタンの流れから、サビでPWLも顔負けのユーロビートになるという驚きの七変化を披露する。正直いまも、こんな展開でよく曲として成立するなと思っているが、そういう曲のMVが本稿執筆時点で1億4000回以上も再生されている事実はとても興味深いし、とても面白い。
 もっと言うと筆者は、本作と「마지막처럼(As If It's Your Last)」に共通点を見いだしている。音楽性は異なるが、忙しなく音が変化する点は同じだからだ。いまのところ、共通点は漠然とした状態で頭の中にあるが、その状態で筆者は本作を楽しんでいる。

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