ハートを射貫く、鋭いつぶやき  〜 ミツメ『A Long Day』〜



 AERAを読めば貧困問題の議論が目に入り、ツイッターには “バイト鬱” “死にたい” といった呟きがあふれている。特に後者はあまりにも多いものだから、「“死にたい” では芸がないから、せめて “上空40000メートルからパラシュートなしで飛びたいわ〜 ”と言いかえるくらいの創造性を持てよ!」と、自分でもバカらしくなるようなツッコミをしてしまう。あたりまえだが、筆者も含めた多くの人たちは、日々を生きるのに必死なのだ。はた目から見ればしょうもないことで悩んでると思われるかもしれないが、人にはそれぞれの人生というものがある。

 なんてことを新幹線で考えながら、ミツメの最新アルバム『A Long Day』に耳を傾ける。前作『ささやき』から2年4ヶ月ぶりとなる本作は、なんというか、とてもサラっとしている。暑苦しい情念は皆無だし、かといって斜に構えたシニシズムも見られない。もともと、彼らの歌は抽象度が高い言葉をたくさん用いており、ゆえに掴み所がなかった。しかし本作はこれまで以上に掴み所がない。散文的とも言えるが、一節と一節の間にある飛躍はすさまじいもので、関連性を見いだすのは難しい。それはさながら、文章をバラバラに刻んでランダムに繋ぎあわせるバロウズ的なカットアップのようだ。あるいは、シュルレアリスム的なオートマティスムといったところか。

 一方でサウンドは、ファンクの匂いが印象だ。全体的にテンポは遅めで、ゆらゆらと横ノリで踊るにはちょうど良い曲が揃っている。
 無駄が削ぎ落とされたミニマルなサウンドスケープも際立つ。本当に隙間だらけで、装飾の欠片もないプロダクション。前作に収録の「停滞夜」みたいな、強烈なダブ・エフェクトが施された曲もない。あえて言えば、“人間味” や “意味” から逃れようとしているとも感じてしまう。こうしたサウンドを聴いて想起したのはオウガ・ユー・アスホールの『ペーパークラフト』だが、音の抜き差しで明確な起伏を作るなど、ライヴでの演奏がある程度想定されているように聞こえる『ペーパークラフト』に対し、本作での彼らはマイペースに自分たちのグルーヴを紡ぐことに腐心しているかのよう。いわば平熱である。

 ところが、そうした散文と平熱のグルーヴにいざなわれ辿り着いた最終曲「幸せな話」で、突如〈幸せな話がしたい 些細なことでいいから〉と歌われる。本作中ほぼ唯一といっていい明確な言葉と感情を発露してみせるのだ。それを聴いて筆者は、予想だにしない方向からナイフを突きつけられたような錯覚に襲われた。

 SNSが一般化した現在、誰もが発信者となり、インスタントに承認欲求を満たすことができる。そんな世情において、ただ言葉を尽くして語るだけでは、受け手を惹きつけるのは難しい。やはりタイミングというのが重要で、そこを見誤れば膨大な情報量に埋もれてしまうだけだからだ。
 語りつづけるのはしんどいから、ここぞという場面でストレートな言葉を投げる。それが筆者には、頑張りすぎないことを肯定する一種の優しさのように思えた。時にはこうしたさりげない言葉のほうが、冒頭で書いた必死に生きる人々にとっては救いになるのかもしれない。

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近藤 真弥

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