2018年ベスト・ブック10


 研究書、小説、漫画など、書店に並ぶ書物はすべて対象にしております。さらに去年とは違い、今年は洋書も選考対象にしました。理由はさまざまですが、周回遅れな言説が目立つようになってしまった日本の現状に不満を抱く人にこそ、読んでほしい作品を紹介したいというのがもっとも大きな理由です。特にポップ・カルチャー、とりわけ音楽に関しては、壊滅的な状況だと思っています。そうしたなかでも、あきらめず言葉を紡いでいる人たちに、読んでいただけたらなと。英語なので人を選んでしまうことも考えましたが、それ以上に現状への危惧が優った形です。


10
アンジー・トーマス『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』

 ヒップホップ以降のポップ・カルチャーが生みだした、最高のYA小説。クセのあるスラングが多く登場する原書を上手く訳しているのも見逃せない。邦訳という点だけで言えば、本書がダントツのトップだ。



9
Dan Hancox『Inner City Pressure: The Story Of Grime』

 これまで多くのジャーナリストや評論家がグライムを考察してきたが、そのなかでも本書は出色の出来だ。もっとも邦訳化を急ぐべき作品の1つだろう。



8
メスト・エジル『メスト・エジル自伝』

 エジルの立ち居振る舞いには釈然としないところもあるが、移民や多様性について考えるうえでヒントになる言葉が多い本書の価値に疑いはない。フットボールはただのスポーツを越えた、世界的な文化なのだと教えてくれる。



7
Jessica Hopper『Night Moves』

 2000年代以降の音楽シーンに大きな変化をもたらした評論家の最新書。ウイットに富んだ文体は風格すら漂わせる。



6
ファン・ジョンウン『野蛮なアリスさん』

 ここまであざやかに“暴力の本質”を抉りだす小説には、なかなか巡りあえない。おもしろいというより、全身を引き裂かれるような作品。



5
Michael Diamond Adam Horovitz『Beastie Boys Book』

 ビースティー・ボーイズはもちろんのこと、ポップ・カルチャー史の記録としてもおもしろい内容だ。彼らはビッグネームだから、いまごろどこかの出版社が邦訳の企画を進めている...はず。



4
Evelyn McDonnell
『Women Who Rock: Bessie to Beyonce. Girl Groups to Riot Grrrl.』

 著者が重要だと考える女性アーティストをピックアップし、考察した内容。タイトルからもわかるように、さまざまなジャンルを射程に収めている。



3
ファクンド・アルヴァレド ルカ・シャンセル トマ・ピケティ
エマニュエル・サエズ ガブリエル・ズックマン
『世界不平等レポート2018』

 ピケティを筆頭に、行きすぎた不平等を憂う者たちが集結した。日本に触れる箇所は少ないが、いま問題となっている貧困や経済格差に関心を持つ者は、一読して損はないだろう。



2
ケイト・ザンブレノ『ヒロインズ』

 夫や愛人の影に追いやられながらも書きつづけた女性たちの姿が刻まれている。そこには自分の言葉を手放すなという切実なメッセージが。



1
『i-D Japan』フィメール・ゲイズ号

 ダントツの1位。暗澹たる現実だからこそ、眩いばかりの理想を掲げようとする気概が伝わってくる内容。なかでも石橋静河のインタヴューは必読だ。

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