夢とロマンで満たされたポップ・ミュージック 〜 carpool『Come & Go』〜



 ツイッターやフェイスブックといったソーシャル・メディアは狭いなと、時折感じることがある。ソーシャル(Social)は、“社会的”や“社交的”といった意味を持つ言葉だが、そう考えると、ひとつのサービスにソーシャルを押し込めるのはなんだか閉鎖的だし、息苦しいと思う。ツイッターは鍵をかけることで、そしてフェイスブックは投稿の公開範囲を選ぶことで、コミュニケーションの複雑さや不確実性をある程度避けることができる。それはそれで、炎上のリスクを軽減できるという意味では合理的だが、同時に他者との対話なり交流を制限することにもなる。このソーシャル・メディアの性質は、排斥的な流れが世界中で見られる現状をふまえると、負の側面が強すぎるんじゃないかと考えてしまう今日この頃だ。


 そう考えているときに、carpool(カープール)のファースト・アルバム『Come & Go』を聴いた。carpoolは、東京を拠点に活動する4人組バンド。筆者が彼らの音楽に初めて触れたのは、2013年にリリースされたシングル「7」だった。当時は6人組という大所帯バンドで、かわいらしい鉄琴も鳴るトイ・ポップ的な側面もありながら、疾走感あふれる爽やかなギター・サウンドもあるという多彩さに惹かれた。ロマンや夢を見てるところにもグッときた。こういう音楽をストレートに鳴らせるバンドは、いつの時代も必要とされる。


 そんなイメージが少しあったものだから、『Come & Go』を聴いたときは驚いた。キャッチーなメロディーや、爽やかなギター・サウンドは健在だ。しかし、前のめりなバンド・アンサンブルで突っ走るよりは、メロディーや歌をちゃん聞かせる曲が多いのだ。去年リリースされた「cc」では、「tokyotokyoto」や「my life」など性急さが際立っていただけに、これは面白い変化だと思った。
 持ち前の多彩さも深化している。「ストーリー」ではヒップホップに挑戦しており、アレンジもバラエティー豊か。全体としては、ストロークス、ロス・キャンペシーノス!、ファックト・アップといった、2000年代以降のロックを見いだせるサウンドが印象的。このあたりは、CHAI(チャイ)やDYGL(ディグロー)など、2000年代以降の音楽に影響を受けたバンドが注目されているタイミングで、『Come & Go』がリリースされたのは運命的と思わせるところだ。


 歌詞のほうも面白い。まず耳が惹かれたのは、他者を想ったり、未来志向な言葉が多いところだ。〈君に返さなくちゃいけないな 漫画〉(「漫画」)、〈多分きっと本当はこの先が見たい〉(「予感」)といった、人の呼気や変化に前向きな姿勢が際立つ。〈いつだってずっと一番ヤング〉と歌われる「ヤング」にしても、〈ぼくも行くよ 曲がりくねった路地の向こうへ〉という一節が示すように、やはり前向きな気持ちが出ている。こうした部分は、冒頭で書いたソーシャル・メディアの狭さに対するオルタナティヴになりえると感じた。
 ロマンや夢を歌っているのも嬉しかった。〈好きな人生送りたい〉(「いい風」)なんて、まさに夢見がちな者の言葉だ。とはいえ、筆者が一番ハッとさせられたのは、〈アイスクリーム食べるだけでドラマ〉(「ストーリー」)という一節だ。もともとcarpoolは、日常の風景に潜む楽しさを見つけるのが上手いバンドだが、その特性がもっとも明確に表れた一節だと思う。些細なことだって、見方を変えれば最高の物語になる。昔のトレンディードラマみたいに、狂気的とも言える華やかさは過去かもしれないが、それでも周りには煌めきがたくさん転がっている。そうした“今”に寄り添う眼差しを見いだした。


 『Come & Go』は、他者と触れ合うことで生まれる楽しさを言祝ぐロマンや夢で満ちている。それはあまりにも愚直で青臭いかもしれないが、音楽が理想を見せられなくなったら終わりだと思う。その理想をcarpoolは見せてくれる。

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