Chvrches『Love Is Dead』



 スコットランドで結成されたチャーチズは、ローレン・メイベリー、イアン・クック、マーティン・ドハーティによる3人組バンドだ。2013年のファースト・アルバム『The Bones Of What You Believe』では、デペッシュ・モードやペット・ショップ・ボーイズといったエレ・ポップからの多大な影響と、ザ・フィールドに通じるトランシーなエレクトロニック・ミュージックの要素が滲むサウンドを鳴らし、世界中の音楽ファンに名を知らしめた。
 さらにヴォーカルのメイベリーは、ガーディアン誌にネット上のミソジニー(女性蔑視)について綴ったコラムを寄稿するなど、社会問題に関する発言でも注目を集めてきた。スコットランドのフェミニスト・コレクティヴ、TYCIが発行するZINEでエディターを務めていたことからもわかるように、メイベリーはフェミニズム的観点からの発言が多く、それはいまも変わらない

 一方でチャーチズは、自身のポピュラリティーを活かす形で、アーティストを紹介してきたことでも知られている。たとえば、“Gun”のリミキサーに迎えたKDAは、いまサウス・ロンドンのダンス・ミュージック・シーンで注目を集める存在だが、こうした慧眼はもっと注目されてもいいだろう。アイコニカ、シド・リム、ジェイミー・アイザックなど、チャーチズのリミックスを通して幅広い層に名が知られるようになったアーティストは多い。

 このようにさまざまな形で音楽シーンを盛り上げているチャーチズが、サード・アルバム『Love Is Dead』を完成させた。一言で言えば本作は、これまでのチャーチズ像を拡張する作品だ。初の外部プロデューサーとしてクレッグ・カースティンを招き、サウンドもこれまで以上にポップで洗練されている。なかでも耳を引いたのは“Never Say Die”だ。たおやかなシンセ・アルペジオで幕を開けるこの曲は、サビの〈Never, never, never, ever Never, ever, ever say die〉という一節の歌い方や、ハイハットが細かく刻まれたビートから生まれるグルーヴにEDMトラップとの類似性を見いだせる。これは本作から先行公開された“Miracle”にも見られる要素だが、より多くのリスナーを得るための道として、現行のダンス・ミュージックに接近したのはかなり興味深いものだ。とはいえ、前作『Every Open Eye』でも、オービタルを連想させる煌びやかなシンセ・ワークが前面に出ていたことをふまえると、不自然な選択ではない。もともと、サウンド作りの要であるマーティン・ドハーティはダンス・ミュージックを好むことで知られるが、その側面がいままで以上に表れた結果だろう。

 歌詞もこれまで同様に興味深い。特に際立つのは、“Heaven / Hell”や“God's Plan”などで見られる宗教的要素だ。とりわけ前者は、優しさが失われつつある世界に向けたという本作の内容を象徴するように、沈黙の中で神に問いかける描写が出てくる。これはたとえば、映画『沈黙 -サイレンス-』に登場するイエズス会の宣教師セバスチャン・ロドリゴと似た状況であり、そう考えるとカトリック的な価値観が滲む歌詞と言える。この宗教的側面は、チャーチズがスコットランドを背景にしていることもふまえると、理解しやすいかもしれない。スコットランドの歴史には、主教戦争といった宗教問題が根深く残っている。その歴史は現在に至るまで影響を及ぼし、それが2014年のスコットランド独立住民投票に結びついたことは周知の事実だ。これまでもチャーチズは内省的な言葉を紡いできたが、この側面が本作ではよりダークなものとして表れている。
 見逃せないのは、それが現実世界と共振しているところだ。ブレグジッドを巡る混乱などが象徴するように、いまは多くの人々が憎しみを隠さなくなった。経済格差、貧困、差別といったさまざまな問題が至るところに遍在しているのも、本稿を読んでいる人なら承知しているはずだ。そのような現在に対するリアクションとして、ファッション界ではサステナビリティーという言葉のもと、労働者の権利や廃棄物削減などの問題が議論されている。こうしたポップ・カルチャーの流れに本作も位置付けることができる。『Love Is Dead』という暗喩的なタイトルも含め、随所で私たちに問いかけるような言葉が歌われるからだ。自身の心を吐露した詩情的な歌たちは、あなたの心を揺さぶるシリアスな批評性で満ちている。



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