頽廃的なオーガズム・サウンド 〜 Tiga『No Fantasy Required』(Counter / Beat)〜


 ティガことティガ・ソンタグは、遊び心あふれる表現を残してきた。たとえば、ファースト・アルバム『Sexor』(2005)のジャケットは、ブライアン・フェリー『In Your Mind』(1977)のジャケットを引用したものだし、「Bugatti」のMVでは、体が燃える男が握手しているという、ピンク・フロイド『Wish You Were Here(邦題 : 『炎』)』の有名なジャケットを想起させるシーンも登場する。他には、90年代のレイヴ・シーンで活躍したオルタネイト(Altern8)がサンプリングしたヴォーカル部分を引用するという荒技を披露した、「You Gonna Want Me」もある。



 そんなティガが、3枚目のアルバム『No Fantasy Required』を完成させた。ジェイク・シアーズ(シザー・シスターズ)、マシュー・ディア、ハドソン・モホーク、パラノイド・ロンドンといったゲストと共に作られた本作は、これまで以上に音数が削ぎ落とされたミニマルなエレ・ポップとなっている。リズムも4つ打ちが基本で、起伏は音の抜き差しで生みだすという徹底ぶり。ひとつひとつの音は最低限の変化に留まりながらも飽きがこないのは、絶妙な抜き差しによるところが大きい。この特徴がもっとも明確に表れているのは、細く刻まれたヴォイス・サンプルがシカゴ・ハウスを連想させる「Planet E」だろう。ハドソン・モホークとのコラボレーションから生まれた曲だそうだが、正直ハドソン・モホークの作品で見られる要素を見いだすのは難しい。ティガの手によってすべて作られたと言われても、不思議に思わない人は少なくないはずだ。こうした傾向は他のコラボ曲でも同様で、ジェイク・シアーズとマシュー・ディアが参加した「Make Me Fall In Love」を除けば、コラボが生みだす特別な化学反応は皆無。この点は、本作の見逃せない欠点だと言える。

 とはいえ、アンニュイでセクシーなティガの歌声が光るポップ・ソング集としては、抗いがたい魅力を持っているのも確かだ。終始110〜120あたりのBPMを漂う頽廃的な雰囲気は妖しい輝きを放ち、徐々にテンションがビルドアップされていく流れは、極上のオーガズムが待つ情事をサウンドに変換したようにも聞こえる。そう思わせるほど、本作はどこまでも艶かしい。


※国内盤は3月19日リリース予定。

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