Kedr Livanskiy『Your Need』



 ケダル・リヴァンスキことヤナ・ケドリーナは、ロシア出身のアーティスト。彼女といえば、デザイナーであるゴーシャ・ラブチンスキー周辺の1人に数えられることもある。彼のランウェイにも音楽を提供した、ブッテクノことパヴェル・ミルヤコフの恋人としても知られるからだ。
 とはいえ、男のおかげで有名になったと思う者がいるとすれば、その考えをあらためるべきだ。2017年のファースト・アルバム『Ariadna』によって、確かな実力を示したのだから。このアルバムは、ローランドのSH-101やJuno 106、さらにはコルグのMiniloguというハードウェア・シンセを駆使して作られた。L.I.E.S.やMister Saturday Nightなどのロウ・ハウスに通じる生々しいサウンドで、リスナーの腰と脳を揺さぶる。

 そんな『Ariadna』に続くセカンド・アルバムは、『Your Need』と名付けられた。リリースは前作と同じく2MR。Italians Do It Betterの創設者であるマイク・シモネッティー、Captured Tracksを運営するマイク・スナイパーとアダム・ジェラードの3人によって設立されたレーベルだ。
 内容は前作の方向性を引き継いだ深化作と言える。たとえば、オープニングの表題曲ではアイシャ・デヴィに通じるスピリチュアルなトランス・サウンドを楽しめるが、これは前作に収録された“ACDC”でもうかがえた要素だ。生々しい質感の音も多く、この点も深化作と思わせる理由のひとつである。

 一方で、進化の側面も顕著だ。“Lugovoy”は深淵の底を這うようなダブ・サウンドが耳に残り、“Kiska”はPríncipeのカタログに並んでもおかしくないクドゥーロ的なビートが映える。これらの曲があることで、本作のビートは多彩さを極めている。
 “Ivan Kupala”も印象的な曲だ。疾走感あふれるグルーヴが前面に出たそれは、レイヴィーな匂いを振りまくブレイクス。スペシャル・リクエストの影響か、最近この手のサウンドが多い。ムーミンの“Concrete”やツェンカー・ブラザーズの“Sorting Peanuts”など、例を挙げていけばきりがない。こうした旬に乗るフットワークの軽さも、ケダル・リヴァンスキの魅力だ。



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