2000年代と今を繋ぐディーヴァ 〜 Charli XCX『Number 1 Angel』〜



 チャーリーXCXは、2000年代と今を結びつけることにかなり自覚的だ。とはいえ、それは彼女にとって自然なことなのかもしれない。マイスペースにアップした曲がキッカケで知名度を高めたのは2008年で、さらに2000年代を代表する音楽ムーヴメント、フレンチ・エレクトロからの影響を公言しているのだから(※1)。いわば彼女は、2000年代のカルチャーをステップにし、今を代表するポップ・アイコンになったのだ。


 そうした側面を誇示するかのように、近年の彼女は2000年代との関わりを増やしている。具体例を挙げると、ミスター・オワゾの『All Wet』(2016)に参加したことだ。ミスター・オワゾは、フレンチ・エレクトロの最盛期に注目されたアーティスト。そんなアーティストの作品に、フレンチ・エレクトロからの影響を公言する彼女が参加してるのは必然という他ない。
 一方で彼女は “今”も忘れていない。その代表例が、去年発表したEP「Vroom Vroom」だ。このEPで彼女は、2010年代のポップ・カルチャー・シーンで注目を集めるPCミュージック周辺のアーティストとコラボレーションしている。さらに中田ヤスタカの作品にも参加し、以前から好きだと言っていたきゃりーぱみゅぱみゅとも共演(※2)。時代の垣根だけでなく、国境も越えた活動を見せている。


 そんな彼女の志向は、最新ミックス・テープ『Number 1 Angel』にも表れている。本作の特徴はスバリ、2014年のアルバム『Sucker』とは打って変わり、ファースト・アルバム『True Romance』を想起させるダークなシンセ・サウンドが復活している点だ。「Boom Clap」で彼女を知ったリスナーは、少々戸惑うかもしれない。こうした方向性は「Vroom Vroom」でも見られたが、これまでは作品ごとに作風をがらりと変えてきたことをふまえると、本作の “深化” は驚きだ。引き続きPCミュージック周辺のアーティストを迎えていることも含め、彼女は現在の方向性に手応えを感じているのかもしれない。


 驚きといえば、「Babygirl」にアフィが参加しているのも嬉しいサプライズだ。アフィは、フレンチ・エレクトロのシーンから出てきたディーヴァであり、2010年には『Sex Dreams And Denim Jeans』という良作を残している。この人選からも窺えるように、彼女にとって2000年代(とりわけフレンチ・エレクトロ)の音楽は重要な要素であり続けている。
 曲のほうは、初期のマドンナを連想させるディスコ風味なエレ・ポップだ。きらびやかなシンセが映えるポップ・ソングで、本作中もっともキャッチーと言える。


 もちろん、抜け目なく“今”も取り入れている。その象徴的アーティストは、「Lipgloss」に参加しているカップケーキだ。カップケーキは去年、『Audacious』『Cum Cake』『S.T.D』という3作品を自主リリースしたラッパー。下ネタ満載の歌詞は “ダーティー・ラップ(Dirty Rap)” と形容され、キワモノ扱いされることもあるが、多くの注目を集めている。LGBTコミュニティーからの支持も高く、それに応える形でカップケーキも「LGBT」という曲を捧げている。このあたりの先取りする嗅覚は、さすがチャーリーXCXといったところか。


 日本のカルチャーは、いまだ “90年代” にとらわれている。そうした日本において、彼女が世界的なポップ・アイコンになっている理由は理解されづらいかもしれない。しかし海の向こうでは、マイク・スキナーの影響下にあると公言するザ・1975がワールド・クラスのバンドとなり(※3)、2010年代前半に刹那的な隆盛を誇ったチルウェイヴの文脈から生まれたグライムスがポップ・スターになっている。そんな現在において、2000年代以降のカルチャーを多分に取り入れたチャーリーXCXが注目されるのは当然と言える。筆者としては、日本もこうした状況になってほしいと願っている。もちろん、全面的に海外の真似をする必要はない。しかし、ただ過去に浸るよりも、過去をふまえたうえで現在と未来を見つめるほうが、ポジティヴな可能性に満ちていると筆者は思うのだ。



※1 : ワーナー・ミュージック・マガジンの公式サイトを参照。http://wmg.jp/artist/charlixcx/profile.html

※2 : 共演した曲のMVです。https://www.youtube.com/watch?v=JV3eoboDv2g

※3 : ローリング・ストーンの記事『14 Things We Learned Hanging Out With the 1975』(2016年3月21日)を参照。http://www.rollingstone.com/music/news/14-things-we-learned-hanging-out-with-the-1975-20160321

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