心の機微を撃ち抜く甘美な弾丸 〜 The Japanese House「Swim Against The Tide」〜



 早耳のあなたなら、すでにご存知かもしれないザ・ジャパニーズ・ハウス。イギリス出身のアンバー・ベインによるこのプロジェクトは、2015年にデビュー・シングル「Pool To Bathe In」を発表したことで、少なくない注目を集めた。ドリーミーなサウンドと、滋味や憂いが絶妙に混じりあうアンバーの歌声に、筆者の心はズッパシ撃ち抜かれた。また、ヴォーカルを加工してロボティックに響かせるさまは、ボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクの影響を見いだせるものだった。それが特に顕著なのは、2曲目に収められた「Teeth」だろうか。シンプルで不必要な音が一切ないこの曲は、アンバーの優れたソングライティング能力を存分に味わえる名曲だ。


 そんなザ・ジャパニーズ・ハウスが新たなEPを発表した。「Swim Against The Tide」というそれは、これまで以上にエレクトロニック・ミュージックの要素を前面に出し、多彩な音楽性が展開されている。特に表題曲は、ジ・エックス・エックスに通じるミニマルなサウンドスケープと、ベース・ミュージックの側面も見られるビートや低音が印象的で面白い。これまでのザ・ジャパニーズ・ハウスは、どちらかといえばフォーキーな匂いが強かったし、ゆえに内観的な雰囲気が漂っていた。ハウス・ミュージック化する前のエヴリシング・バット・ザ・ガールとでも言おうか、“あなたと私” という距離感が目立っていた。しかし本作は、そうした距離感を保ちつつ、より開かれた内容になっている。それは「Face Like Thunder」のキャッチーなメロディーにも表れており、この曲はザ・ジャパニーズ・ハウス史上もっとも親しみやすい曲だと言っていい。


 一方で、「Leon」では複雑なコーラス・ワークを披露するなど、プロダクションの妙がうかがえる。ザ・ジャパニーズ・ハウスといえば、心の機微を上手くとらえたメランコリックな歌詞がよく語られがちだ。しかし、筆者がまず惹かれたのは音だった。フォーク、ベース・ミュージック、R&B、さらにはベリンダ・カーライルあたりの80'sポップまで、アンバーの作る音にはたくさんの音楽的要素が見られる。こうした側面がようやく花開きはじめたという意味でも、本作は必聴だ。


 そして、アンバーの歌がより多面的になったのも見逃せない。常に孤独感と寂しさを漂わせながらも、それを全否定するわけでもなく、むしろ受け入れているような凛々しさがある。それこそ「Face Like Thunder」というアンバーにしては解放的な歌もあり、より感情豊かな表現にたどり着きつつあると感じる。いまのところ、詳細不明に伴うミステリアスな空気も売りのひとつであるアンバーだが、アンバーの音楽自体は心が剥きだしで、ヒリヒリとしたスリルを醸している。それはとても生々しく、神秘性とは真逆の人間臭さを感じさせるものだ。孤独の面白さを知りたいあなたに、ぜひ。

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