2017年ベスト・アルバム50
イギリスの音楽シーンを熱心に追いかけていた……というのは毎年のことなのですが、それ以外だとボツワナのメタル・シーンにハマりました。なかでも興味深かったのは、“Queens Of Marok”と呼ばれる女性のメタルファンです。ボツワナは、女性差別が根強い国としても知られています。2013年には、遺産相続の女性差別的な仕組みに怒った4姉妹が裁判で勝訴したというニュースもあったように、社会だけでなく制度にも問題が多い。そうした状況に対し、Queens Of Marokと呼ばれる女性たちは、男性的とされる服を身に纏うことで反抗の意思を示しているそうなのです。
そんなボツワナのメタル・シーンで特に好きなバンドは、Skinflintです。2006年から活動しているこの3人組は、ドスが効いた声こそメタルっぽいですが、ドライな質感が印象的なドラムとベースはポスト・パンクのようにも聞こえる。こうしたギャップに、私はやられました。まだまだ母数は小さく、今回のベスト・アルバム50に入れるほどの作品は生まれていませんが、来年以降の動きが楽しみなシーンのひとつです。
今年はアジアの音楽もよく聴きました。北京の不在话下、台湾のMeuko! Meuko!、韓国のOh Hee Jungなど、グッときたアーティストが本当に多かった。台湾のレーベルLonely God周辺も、面白い音が見られましたね。他にもタンザニア、イタリア、ポーランド、ロシアなどなど、挙げていくと切りがありません。いずれにせよ、今年も素晴らしい音楽が多く生まれたことだけは確かです。
こうして音楽を聴いていて感じたのは、世界の現状に対する問題意識を持った作品が多かったということ。たとえば、エミネムは「The Storm」というフリースタイル・ラップでトランプとその支持者を痛烈に批判し、イギリスではロイル・カーナーやラット・ボーイなどの若者が、怒りと哀しみが漂う作品を発表した。日本では、去年フジロックに対して“音楽に政治を持ちこむな!”という意見も寄せられるなど、音楽に何かしらの主張や意見を込めることに批判的な人も多いですが、海の向こうでは切実な想いを込めた音楽が増えている。たぶんこの流れは、しばらく続くでしょう。
さて、今回のベスト・アルバム50は、フル・アルバム、ミニ・アルバム、EPを選考の対象にしています。そこには新作だけでなく、リイシューやコンピも含まれます。国やジャンルで分けることはせず、今年聴いた音楽の中から50作品選びました。作品の質はもちろんのこと、何かしらの同時代性を見いだせることも重視しております。レヴューを書いた作品にはURLがありますので、よろしければぜひ。最後のほうにSpotifyのプレイリストがあるので、こちらも興味を持ったらぜひ聴いてみてください。Spotifyにない曲は、それぞれリンクを貼っています。
50
あっこゴリラ
「GREEN QUEEN」
正直、ファースト・アルバムは“まあまあ”という印象しかなかった。しかし本作で彼女は、より強固な信念が込められたラップを披露する。永原真夏を迎えた「ウルトラジェンダー」が特に熱い。
49
Muna
『About U』
ムーナの3人は、ニュー・オーダーなどを想起させる80'sサウンドと優しいメロディーに、明確な主張を込めている。多彩なアレンジは、好きなことをやる自由に浸れる歓喜でいっぱいだ。https://note.mu/masayakondo/n/n602f506c648c
48
Maison book girl
『image』
練られた言葉選びが光る歌詞と、時間芸術で遊んでいるかのような作風にやられた。さながら前衛的なアート作品。https://note.mu/masayakondo/n/n918d826330f8
47
Cosmo Pyke
「Just Cosmo」
レゲエ、スカ、2トーン、ヒップホップといった音楽が混ざり合うことで、たおやかなサウンドが生まれた。日常に住む人々の呼気が聞こえてくる生々しい歌詞も絶品。
46
Antwood
『Sponsored Content』
現代社会に対する鋭い観察眼が光る電子音。ベース・ミュージックを基調にしているが、膨大な数のヴォイス・サンプルや音の欠片は、ジャンルで括られることを拒否する。https://note.mu/masayakondo/n/n6f56f40a73b8
45
Vince Staples
『Big Fish Theory』
ゴリラズ『Humanz』に参加したラッパーの会心作。「Prima Donna」で見られたエレクトロニック・ミュージックへの傾倒がより色濃く表れたサウンドは、ヒップホップの主流とは距離を置いた孤高の輝きを放つ。
44
SKY-HI
『OLIVE』
確かなラップ・スキルと反骨心は、多くの人を虜にした。〈常識だなんて概念じゃ縛れやしない 俺をジャンル分けする事がそもそも間違い〉とラップする「Walking on Water」が群を抜いて素晴らしい。https://note.mu/masayakondo/n/nd26d82eb51da
43
FKJ
『French Kiwi Juice』
ファンク、ソウル、ヒップホップ、ディスコ、ジャズなど多くの要素が下地にあるサウンドには、甘美かつ多彩なグルーヴが渦巻いている。フレンチ・ハウスの要素が見いだせるのも面白い。https://note.mu/masayakondo/n/n0443ec80c844
42
Cabbage
『Young, Dumb And Full Of...』
怒りをユーモアたっぷりに表現するマンチェスターのバンドによるシングル集。粗は目立つものの、それ以上に可能性を感じてしまうサウンド。ハッピー・マンデーズの酩酊感も見られるが、性急なグルーヴはエクスタシーとは無縁の殺伐さを漂わせる。https://note.mu/masayakondo/n/n773f25343c11
41
Kelly Lee Owens
『Kelly Lee Owens』
とても端正なエレクトロニック・ミュージック。無駄のない音像は緊張感を醸しつつ、クオリティーの高さでリスナーを虜にする。
40
Wayne Snow
『Freedom TV』
自由とは何か?と問いかけてくるアルバム。ソウル、ロウ・ハウス、デトロイト・ハウス、エレクトロ・ファンク、ディスコといった要素で彩られたサウンドに乗せて、エモーションを炸裂させる歌声は今も耳に残っている。https://note.mu/masayakondo/n/n448ceda5d72c
39
Simon Frank
『Humid Music』
台北をベースとするカナダ人アーティストの作品。不穏な空気を漂わせるサウンドスケープは、スロッビング・グリッスルといったインダストリアル・ミュージックへの憧憬を感じさせる。リリース元のLonely Godも、台北の音楽シーンで注目を集めるレーベルだ。
38
L.A. Witch
『L.A. Witch』
いま盛り上がりを見せるLAロック・シーンのなかでも、この3人組は玄人好みのサウンドを響かせる。パンク、サイコビリー、サイケ・ロックを組み合わせる器用さが光る良盤。http://www.ele-king.net/review/album/006018/
37
Satoshi & Makoto
『CZ-5000 Sounds & Sequences』
夢見心地なサウンドスケープは、聴き手を文字通り飛ばしてくれる。日本の双子ユニットのアーカイヴ音源を集めた本作は今年最大の発見のひとつ。http://www.ele-king.net/review/album/006059/
36
DYGL
『Say Goodbye to Memory Den』
ストロークスに通じるソリッドなロック・サウンドは、多くの人を夢中にさせた。時代に媚びない毅然とした態度も好感度が高い。このまま順調に活動すれば、大輪の花を咲かせること間違いなし。
35
半田健人
『HOMEMADE』
歌謡曲からJ-POPまでの歴史を凝縮した驚異の作品。その精密さは科学的ですらある。
34
LCD Soundsystem
『American Dream』
2000年代を振りかえる流れが来ているなかで、LCDサウンドシステムが再始動したのは果たして偶然か?それはともかく、サウンドを探求する好奇心と実験精神がいささかも衰えていないことに驚かされた。https://note.mu/masayakondo/n/n63cb30360c42
33
(703) 863-4357
『Lyse』
GHE20GOTH1Kによるグルーヴ革命以降のダンス・ミュージックが詰まった良作。音の抜き差しには、アルカやシェイン・オリヴァーのDJに通じる同時代性を見いだせるが、随所で窺えるレイヴ・サウンドは過去へのリスペクトも感じさせる。https://note.mu/masayakondo/n/nbe863c810a25
32
Nidia
『Nidia E Ma, Nidia E Fudida』
クドゥーロやキゾンバを基調としながらも、ジュークも取り入れるなど様々なビートが入り乱れる快作。ひたすら享楽的で、体を揺らすためのダンス・トラックが詰まっている。
31
Rat Boy
『Scum』
ヒップホップ、パンク、ビッグ・ビートなどを折衷させたサウンドに込められたのは、楽しく生きなきゃやってられないという哀しみと怒りだ。徒花に終わる可能性もなくはないが、だからこその刹那に惹かれてしまった。http://www.ele-king.net/review/album/005904/
30
Saagara
『2』
2017年はポーランドのジャズをよく聴いていたが、そのなかでも本作は群を抜く出来だ。ジャズはもちろんのこと、アンビエント、ミニマル・ミュージック、さらにはインドの古典音楽であるカルナティック・ミュージックを混ぜ合わせたサウンドは、聴き手の感性を拡張する。https://note.mu/masayakondo/n/nd44ec599b821
29
柴田聡子
『愛の休日』
醒めた客観性と同時に、柴田聡子の呼吸も感じられる不思議な質感を持った作品。孤高の存在にまたひとつ近づいた。https://note.mu/masayakondo/n/n1f0491a1cf53
28
V.A.
『Club Chai Vol.1』
カリフォルニア州オークランドを拠点とするレーベルのコンピ。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの曲をレゲトンエディットした「Ezra Entrena El Bumbum (Moro Midflight Edit)」に爆笑。
27
Dave
「Game Over」
デイヴというイギリスのラッパーは、現在19歳の若者だ。しかし、巧みな言葉選びから漂うのは、世情を鋭く切り取る熟達した観察眼である。とりあえず「Question Time」だけでも聴いてほしい。
26
あめとかんむり
『nou』
ロウ・ハウス以降のヒップ・ハウスと言える趣。機能的なダンス・ミュージックにキレのいいラップという組み合わせは興味深いものだった。http://www.ele-king.net/review/album/006069/
25
Moses Boyd
「Absolute Zero」
ロンドンのジャズ・ドラマーが生みだした傑作EP。ジャズはもちろんのこと、ダブステップ、グライム、ファンク、ニュー・エイジといった要素も見いだせるスペーシーな内容。
24
V.A.
『Do Hits Year Of The Rooster』
北京を拠点とするレーベルのコンピ。ベース・ミュージックの要素が前面に出ているが、Howie Lee & Meuko Meuko「祝福你」など、キャッチーなエレ・ポップもある。
23
Kyle Dixon & Michael Stein
『Stranger Things 2 (a Netflix Original Series Soundtrack)』
シンセウェイヴが生みだした2人のスターは、ドラマ『ストレンジャー・シングス』の世界に欠かせない存在だとあらためて証明した。ダークなサウンドスケープには、シンセサイザーの可能性を切り開いてきた先達の顔がちらつく。
22
carpool
『Come & Go』
ポップ・ミュージックにロマンを求める者は、このアルバムを聴くべきだ。ストロークス、ロス・キャンペシーノス!、ファックト・アップといった2000年代以降のロックを見いだせるサウンドは、半歩先の未来を見せてくれる。https://note.mu/masayakondo/n/n8ed8afad71a6
21
Meuko! Meuko!
「About Time EP」
台湾のトラックメイカーによる作品。妖しげなインダストリアル・ノイズにはジュークからの影響が窺える。
20
SZA
『Ctrl』
セクシーで甘美なアルバム。ソウルやR&Bを軸としたサウンドに、自分をよりストレートに表現しようとする誠実な姿勢が刻まれている。
19
Sinjin Hawke
『First Opus』
さまざまなBPM、さまざまなリズムを縦横無尽に行き来する。これまでのヒップホップ色だけでなく、ジュークやベース・ミュージックの成分が多めなのも印象的。自由な音楽があるとしたら、本作のような作品を指すのだろう。https://note.mu/masayakondo/n/n86ca73ac3305
18
Moses Sumney
『Aromanticism』
ソウル、R&B、ジャズ、ヒップホップといった要素が色濃く表れたサウンドをバックに、愛することの難しさを歌っている。中性的な響きを持つ歌声も絶品。http://www.ele-king.net/review/album/005978/
17
Charli XCX
『Number 1 Angel』
フレンチ・エレクトロの歌姫アフィを迎えるなど、明らかに2000年代を意識した内容。「Boys」のMVもそうだったが、チャーリーXCXは常に時代を意識し、そのうえで自分にしかできない表現をしてみせる。その姿は非常にクレバーだ。https://note.mu/masayakondo/n/n9eca3e6ffe70
16
Kedr Livanskiy
『Ariadna』
モスクワを拠点に活動する彼女は、ゴーシャ・ラブチンスキー周辺の人脈とも深い関係がある。80年代エレクトロやロウ・ハウスのエッセンスを巧みに操る技量は、この先もっと注目されるだろう。http://www.ele-king.net/review/album/005950/
15
Phoenix
『Ti Amo』
さまざまなところで80年代を再解釈する動きが目立った2017年は、フランスの4人組に“愛してる”と叫ばせた。80年代のTV番組風のMVを作るなど、かなり凝った立ち居振る舞いが目立った。https://note.mu/masayakondo/n/nda8b339377e3
14
Lorde
『Melodrama』
本作でロードは、愛なき世代への励ましを歌った。スターとなった自身の立場をふまえた批評性も秀逸。真摯に内省できるアーティストなのだなとあらためて実感。https://note.mu/masayakondo/n/n3099f904e64b
13
Babe Roots
『Babe Roots』
本作がデビュー・アルバムとなるイタリア出身の2人組は、ベーシックチャンネルを想起させるダブ・テクノに、レゲエのエッセンスをたっぷり注ぎ込んだ。そこから生まれる冷ややかな酩酊感はクセになる。
12
Matt Mitchell
『A Pouting Grimace』
いま、ニューヨークの前衛シーンで最も注目されているピアニストのアルバム。便宜的に言えばジャズなのかもしれないが、さまざまな音楽を細切れにしたうえで撹拌したようなサウンドは、安易な定義を徹底的に拒否している。こちらの予想を裏切るつづける演奏はスリル満点。
11
PUNPEE
『MODERN TIMES』
トレンドに媚びないサウンドは古い/新しいという価値観を軽々と飛び越える。奥底には憤りを持ちつつ、それを豊富な語彙力やユーモアで梱包し、エンターテインメントに昇華してみせる。日本のヒップホップ・シーンに留まらず、日本の音楽シーンにおける最高傑作のひとつ。
10
The XX
『I See You』
こちらが心配になるほどダークで内省的なサウンドを鳴らしていたこれまでとは打って変わり、本作ではアグレッシヴかつ肉感的なグルーヴを前面に出している。「Dangerous」は今年のダンスフロアで何十回と聴いた。https://note.mu/masayakondo/n/n246f63a4a06e
9
Jackie Shane
『Any Other Way』
1960年代に活躍した、トランスジェンダーのソウル歌手ジャッキー・シェインの音源を集めた作品。迫力と妖艶さをまとう歌声は、聴き手の心をわし掴みにする膨大なエネルギーで満ちている。
8
Awich
『8』
沖縄で生まれた彼女は、アトランタで育んだ才能を見せつけてくれた。パーソナルな部分を曝けだし、それを紡ぐ歌声はとても艶かしい。
7
Arca
『Arca』
エレクトロニック・ミュージック・シーンの革新者は、歌を携えて私たちのもとに帰ってきた。いまにも消え入りそうな歌声は心許ないが、それでも心を大きく揺さぶるのは、アルカの感情が横溢しているからだ。https://note.mu/masayakondo/n/n7fc0e86c7009
6
ニトロデイ
「青年ナイフEP」
衝撃という点だけで言えば、今年一番の4人組バンド。USオルタナからの影響を多分に受けた激しいギター・サウンドは、小細工なしの清々しさを感じさせる。初期衝動は長く続かない……と言われているかもしれないが、そんな声など無視してどこまでも突っ走ってほしい。https://note.mu/masayakondo/n/ne1ee07e28755
5
King Krule
『The Ooz』
心に突き刺さるしゃがれ声で私たちを魅了したアンファンテリブルが、大人になって生みだした傑作。ジャズ、ソウル、ブルース、ヒップホップに影響を受けた音楽性は深化し、複層的なサウンドで耳を楽しませてくれるバンド・アンサンブルも秀逸。社会の暗部を見つめたような歌詞も素晴らしい。http://www.ele-king.net/review/album/006004/
4
Yaeji
「EP2」
さまざまな層から支持されるアーティストに成長したと告げる全5曲。恍惚感たっぷりのディープ・ハウスだけでなく、重厚なベース・ミュージックを取り入れる上手さも光る。http://www.ele-king.net/review/album/006043/
3
V.A.
『Sounds Of Sisso』
タンザニアのエレクトロニック・ミュージック・シーンで何が起こっているのか知りたい人は聴くべきだ。味わい深いチープな電子音の奥深くに、妖しげで肉感的なグルーヴが渦巻いている。
2
Loyle Carner
『Yesterday's Gone』
イギリス・サウスロンドン出身のラッパーによるファースト・アルバム。ファンク、ソウル、ジャズの要素が色濃く表れ、ベースがリズミカルなのも特徴。日常の風景を的確にとらえる鋭い観察眼が印象的な歌詞も見逃せない。http://www.ele-king.net/review/album/005933/
1
CHAI
『PINK』
2010年代を代表する傑作。CSSなどを引き合いに語られることも多いが、チックス・オン・スピードやクラクソンズといったバンドも見いだせるサウンド。女性のみならず、何かしらの抑圧を受けている人たち全員に届く歌詞も秀逸。キャッチーでありながら、世界を見つめる視線は鋭い。http://www.ele-king.net/review/album/005998/
Matt Mitchell『A Pouting Grimace』
Kelly Lee Owens『Kelly Lee Owens』
Maison book girl『image』収録曲「faithlessness」のMV
サポートよろしくお願いいたします。