CLC(씨엘씨)「Devil」


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 CLCの“Devil”を聴いて、驚きました。「No.1」のリード曲である“No”や、それに続いたシングル“ME(美)”の路線とは異なる、レトロチックなサウンドだからです。しかも、昨今流行りの80'sではなく、60'sの風合いが目立つレトロ。
 そう感じるのは、VOX Continental(ドアーズのレイ・マンザレクなどが使っていた楽器)を想起させるオルガン・サウンドが終始鳴り響く影響もあるでしょう。それは筆者からすると、マイ・ホワイト・バイスクルやブロッサム・トゥズあたりのサイケ・ポップ・バンドが頭によぎるものです。とはいえ、突如トラップ・ビートに変わる展開など、モダンなプロダクションも忘れていない。いわば“Devil”のサウンドは、過去と現在が行き交うレトロ・モダン・ポップと言えるでしょう。

 60's要素はMVでも顕著です。メンバーの服装に注目すると、イエローやパープルといった鮮やかな色が目立ち、派手な原色使いが多かった60'sファッションを彷彿させる。MVのメンバーたちを見ていると、1968年のフランス映画『アイドルたち』で見かけてもおかしくないなと感じます。
 60'sファッションといえば、ヴェルサーチェが2019春夏プレタポルテコレクションで大々的に取り入れていました。でも、その流れを意識したのかと言われたら、違うと思う。このコレクションは昨年披露されたものですからね。流行りに目配せした結果なら、ちょっとズレているというのが正直なところ。

 しかし、同じ事務所の後輩グループである(G)I-DLEとの差別化を図ったのだとしたら、おもしろいと思います。(G)I-DLEは、今年6月に発表した“Uh-Oh”でブーンバップを打ちだすなど、90年代のヒップホップに接近したばかり。そうしたなかで、先輩グループのCLCが“ME(美)”と同じくヒップホップ要素の濃い曲を出せば、刺激に欠けると制作側が判断してもおかしくない。このような視点で考えれば、“Devil”の音作りは上手いと言えます。

 一方で、歌詞は“No”や“ME(美)”を受け継いでいる。この2曲と同様、自立心の強い人物像を描き、誰かに媚びない姿勢が際立つからです。冒頭に登場する以下の一節などは、それが明確だと思います。

〈真っ黒で濃いサングラス 真っ赤なリップスティックをつけなくても いつでも想像以上に 悪い子になれる(까맣고 짙은 Sunglass 빨간 색깔 Lipstick 장착하지 않아도 언제든 상상 그 이상으로 나쁜 애가 될 수 있어)〉

 これを聴いて、誰かにあたえられた装飾品や化粧品を拒否した“No”が頭に浮かんだ人も少なくないでしょう。

 〈身体にピッタリのブラック・ドレスは私に必要ない(몸에 붙는 Black dress 필요하지 않아 난)〉という一節もおもしろい。この一節には、CLCが去年発表した“Black Dress”との関係性を見いだせます。“Black Dress”では受動的な人物像が描かれ、他者への依存心もうかがえました。〈あなたのために準備したメイクをして(오직 널 위해 준비한 메이크업을 하고)〉といった一節は、それが明確に表れています。
 そんな“Black Dress”をふまえれば、〈身体にピッタリのブラック・ドレスは私に必要ない〉と歌われる意味が見えてくる。意味とはズバリ、以前の受動的な姿とおさらばしたということ。誰かのためでなく、私のために輝く。“Devil”は、そのような気高さを言葉選びの妙も加えて表現したポップ・ミュージックです。



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