BewhY(비와이)『The Movie Star』



 韓国のラッパー、ビーワイを知ったのは2016年の“Forever”という曲がきっかけだ。滑舌の良いシャープなラップは、彼の高いスキルを雄弁に示していた。一方で、突如6/8拍子になったりと、矢継ぎ早に変化する曲展開はそこまで珍しいものじゃなかった。2013年に発表された少女時代の“I Got A Boy”など、K-POPをそれなりに追っている者からすれば、耳馴染みのある構成だからだ。とはいえ、そうしたトラックを秀逸なリズム感覚で乗りこなす姿には驚かされた。

 彼の実力は広く認められている。赤頬思春期の“宇宙をあげる”が今年の歌に選ばれた第14回韓国大衆音楽賞では、最優秀ラップ&ヒップホップソングを受賞した。映画『金子文子と朴烈』の監督を務めたイ・ジュンイクに請われ、映画にインスパイアされた音源を制作するということもあった。
 今年1月、三・一運動と大韓民国臨時政府樹立100周年の公式ソング“僕の地”を発表したのも、忘れられないニュースだ。もともと彼は、2017年の韓国大統領選挙の投票キャンペーン『0509薔薇プロジェクト』に参加するなど、政治/社会の事柄にも興味を持っていた。それを知る者からすれば、必然の流れと言えるかもしれない。

 そんな彼の最新アルバム『The Movie Star』が先月リリースされた。ざらついたベースと、SF映画のサントラを思わせる壮大なストリングスが際立つサウンドは、手の込んだ音作りから生まれたのだとすぐにわかる。音色やビートのパターンは多彩で、アレンジもバラエティーに富んでいるからだ。
 ゆえに捨て曲はひとつもない。全曲聴きどころが満載で、繰りかえし聴きたくなる。特に惹かれたのはオープニングの“적응”だ。インダストリアルな音色を用いたビートと秘境チックな雰囲気が耳に残るそれは、アフロ・パーカッションを多用したシャックルトンのベース・ミュージックとも重なる。漆黒のダンスフロアでDJがスピンしたら、多くの客が体を揺らすのではないだろうか。

 “WON”も素晴らしい。ヘヴィーなキックと8ビット風の音色を纏うベース・ラインが強調され、筆者からするとグライムの匂いを感じるトラックだ。ミニマルなプロダクションと強烈な低音は、ノヴェリストの『Novelist Guy』を彷彿させる。
 “거장”はインダストリアル・ブーンバップと形容したくなる。抜き差しが極端で、音が少ないところと多いところの差がけっこう激しい。そうした忙しない展開でも、淡々と言葉を紡ぐ彼のラップは非常にクールだ。

 本作のインダストリアルな側面を聴くと、多くの人はタイラー・ザ・クリエイターを想起するかもしれない。確かに、随所で聞こえるダーティーなベースは『Goblin』期のタイラーをちらつかせる。
 だが、シャックルトンやグライムを引きあいに出す筆者にとって本作は、Modern Loveなどを旗頭とした、2010年代のインダストリアル・ブームを連想させる。たとえば、2012年にModern Loveからリリースされたジャック・ダイスの「Block Motel」は、本作との類似点が多い。このEPもまた、インダストリアルやベース・ミュージックの要素に、サウス・ヒップホップのグルーヴを溶けこませた作品だからだ。本作でいえば、スミンをフィーチャーした“장미는아름답지만가시가있다”がもっとも「Block Motel」に近いだろうか。

 本作はアメリカのヒップホップだけでなく、それ以外の要素や文脈も見いだせる多面的な作品だ。強いて言うなら、ヴィンス・ステイプルズの傑作アルバム『Big Fish Theory』である。このアルバムも、アメリカの現行ヒップホップに寄り添う一方で、UKガラージ、ハウス、デトロイト・テクノといったダンス・ミュージックも多分に取りいれている。そうすることで、既存のヒップホップに収まらない孤高のヒップホップを生みだしていた。『The Movie Star』にも、その孤高さと共振する感性が宿っている。



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