万華鏡のようなハウス・ミュージック 〜 Kornél Kovács『The Bells』〜



 僕の記事を読んでくれる人たちのなかに、アクセル・ボーマンのファースト・アルバム『Family Vacation』(※1)を聞いたことがある人はどれくらいいるのだろう? もし未聴だったら、いますぐ聴いてみてほしい。ハウス・ミュージックを基調にした色彩豊かなサイケデリアは、コアなダンス・ミュージック・ファンだけでなく、幅広い層に届くキャッチーな心地よさを醸しています。

 そのアクセルとレーベルStudio Barnhusを運営し、スウェーデンから良質なトラックをコンスタントに届けてくれるコーネル・コヴァックスが、待望のデビュー・アルバム『The Bells』をリリースしました。コーネルもアクセルと同様ハウス・ミュージックを基調にしてますが、音楽的背景は実に多様です。たとえばシングル「Radio Koko」に収録の「Malon」では、マッドチェスター期のダンス・ミュージックに通じる享楽的なピアノ・リフが登場したりもする。こうした自由な感性に基づいたフットワークの軽さは、コーネルの大きな魅力のひとつでしょう。

 もちろんその魅力は、『The Bells』でも健在です。それはクドゥーロの要素を取りいれたアップテンポな「Josey's Tune」や、ディスコのサンプリングを用いた「BB」などを聴けばわかると思います。80〜90年代にスペインで活動していたイヴァンの曲をネタにした「Pantalon」もそうですが、コーネルはサンプリングのセンスが非常に面白い。とある国では有名だけど、世界的にはあまり知られていないような曲をピックアップすることが多い。だからこそ、必ずしも一般的ではないが、多くの人の耳に残るフレーズを抜きだせるのかもしれない。

 キャッチーなメロディーが多いのもコーネルの特徴でしょう。『The Bells』に収録の曲では、「Dance... While the Record Spins」などにその特徴が表れている。耳馴染みのよいメロディーを放りこみ、それをさまざまなエフェクトで変化させて遊ぶというのがコーネルのスタイルですが、こうした遊び心には音楽に対する寛容な姿勢が見られます。面白いと感じることを躊躇なく実行し、それを作品として残すチャレンジ精神。これこそ、若くしてダンス・ミュージック・シーンで大きな注目を集められた秘訣だと思います。

 そんな『The Bells』、スウェーデンのダンス・ミュージックを追いかけている人はもちろんのこと、Kompakt周辺のどこかメランコリックな音色が好きな人にも届く作品です。Kompaktといえば、ギー・ボラット(※2)やザ・フィールド(※3)といった、普段あまりダンス・ミュージックを聴かない層にも人気が高いアーティストのリリースで知られていますが、こうした幅広さをコーネルの音楽は孕んでいる。ダンスフロアだけでなく、ベッドルームや車の中でも映えるのが、『The Bells』という作品なのです。



※1 : 『Family Vacation』のレヴューは、音楽サイトのクッキーシーンで書きました。ご参考までにぜひ。http://cookiescene.jp/2014/01/axel-bomanfamily-vacationstudi.php

※2 : ギー・ボラットに関する記事は、音楽サイトCOOKIE SCENEで書きました。ご参考までにぜひ。http://cookiescene.jp/2014/10/gui-borattoabaporukompakt-octa.php

※3 : ザ・フィールドに関する記事は、音楽サイトCOOKIE SCENEでいくつか書きました。ご参考までにぜひ。

『Looping State Of Mind』http://cookiescene.jp/2011/10/the-field-looping-state-of-min.php

『Cupid's Head』http://cookiescene.jp/2013/09/the-fieldcupids-headkompakt-oc.php

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