インダストリアルな重厚感をまとった韓国のヒップホップ 〜 XXX「KYOMI」〜



 最近、韓国のヒップホップを手当たり次第に聴いている。もともと、キティービーといった有名な韓国のラッパーを聴いてはいた。しかし、サウンドクラウドやバンドキャンプ、さらにはフェイスブックで知り合ったブロガーなどを介して作品に触れていくと、その奥深さと層の厚さに文字通りヤラれた。

 まず、基本的にスキルが高い。アマチュアだろうがプロだろうが、言葉を紡ぐためのリズム感覚が非常に優れている。日本だと“ヘタうま”という拙いことを味とするスタイルもあるが、韓国のヒップホップにはその拙さがほとんど見られない。高いスキルを必要最低限の要素とし、そのうえで独自の味を出していくような印象だ。だから、何を聴いても“良い!”となる。違いといえば“好き/嫌い”くらいのものだ。こうしたディグの旅では、同性愛者であることを公言しているヤヴィスや、KOHH「Love」ネタの曲を制作した카와이빔(カワイイ・ビーム)などに出逢った。

 そのなかでも筆者が特に聴いているのは、XXXだ。ラッパーのキム・シミャとプロデューサーのFRNKによるユニットで、本稿の主役であるファーストEP「KYOMI」を6月にリリースしたばかり。

 最初はビートに魅せられた。単純なビートはほとんどなく、どんなトラックでも何かしらの飛び道具や凝ったプロダクションが施されている。本作だと、矢継ぎ早にリズム・パターンが変わる「Dior Homme」などでその魅力を楽しめる。

 全体的に硬質でドライな音色が際立つのも面白い。それはさながら、インダストリアル・テクノとベース・ミュージックの融合。もう少し具体的に言うと、『Luxury Problems』以降のアンディー・ストットやフェイド・トゥー・マインド周辺のサウンドに通じる。こうした折衷性は、幅広い層に聴かれる可能性を切りひらくものだろう。

 キムのラップも魅力的だ。言葉をたくさん詰めこむスタイルは、緊張感とサディスディックな妖艶さを醸している。特に「Too High」では、随所でビートのリズムから逸脱したラップを披露し、聴き手の胸ぐらを掴むかのような迫力で存在感を遺憾なく発揮している。これは素直に“カッコいい!”という他ない。

 また、本作のヒリヒリとした雰囲気も素晴らしい。互いの才気がぶつかりあうことで生じる膨大な熱量を帯びた摩擦は、彼らが妥協なき創作をしていることの証左と言える。韓国のヒップホップ、いや、世界中のポップ・ミュージックを含めても、本作は必聴レベルの作品だ。その衝撃は、多くの人の耳と心を撃ち抜くには十分すぎるパワーで満ちている。

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