Charli XCX『Charli』


画像1


 2017年12月、チャーリーXCXが発表したミックステープ『Pop 2』は傑作だった。キラキラとしたメタリックな電子音に、クセが強い過剰なヴォーカル・エフェクト。そのサウンドはあらゆる時代に属さず、さまざまなジャンルに囚われない奔放さであふれている。特に好きな収録曲は“Lucky”だ。徐々に元の歌声が変調し、ラストに機械仕掛けの絶叫が響きわたるという構成は、エモーションとテクノロジーを結合させる斬新な表現だった。
 “Track 10”も素晴らしい。『R Plus Seven』期のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーに通じる艶やかなサウンドをバックに、トランス風味のシンセ・フレーズとトラップのビートが入れ乱れる。やってることは、そこらのエクスペリメンタル・アーティストよりも先鋭的なのに、キャッチーなポップ・ソングとしても成立しているという奇跡みたいな曲だ

 その『Pop 2』から約2年、チャーリーは最新作『Charli』をリリースした。プロデュースの中軸は、もはや盟友と言っていいA.G.クック。スカイ・フェレイラ、イェジ、カップケイク、リゾ、トロイ・シヴァン、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズなど、多彩な豪華ゲスト陣も目を引く。
 そうした予備知識があったせいで、聴く前は豪華絢爛なド派手サウンドなのだろうか?と勝手に想像していた。しかし、いざ聴いてみると、変に力が入っていない風通しの良さを感じさせる内容で、少し驚いてしまった。先鋭性と電子音の分厚い壁という包装紙でキャッチーさを包んでいたのが『Pop 2』だとしたら、本作はその逆。キャッチーさが表面に出ている。
 奇抜なパンニングや曲展開、電子ヴォイスと生声の境界線が曖昧なヴォーカルなど、スパイスとしての先鋭性は随所でうかがえる。だが、それよりも曲の良さやグッド・メロディーが耳に残る内容で、ゆえにチャーリーの高いソングライティング能力がいつも以上に目立つ。

 たとえば、リゾを迎えた“Blame It On Your Love”は、本作中もっとも親しみやすいポップ・ソングのひとつだ。ダンスホールを思わせるビートは素直に踊れるもので、歌メロも奇を衒う展開が見られない。“White Mercedes”のように、チャーリーにしてはシンプルに歌いあげる曲もある。
 ただ、全曲そうならないのが、ポップ・シーンのど真ん中で攻めることを忘れないチャーリーらしさと言える。それを象徴するのは、キム・ペトラスとトミー・キャッシュが参加した“Click”だ。ヴォーカルは容赦なくチョップされ、曲の終盤では極限にまでねじ曲げられた歪な金属音が響きわたる。途中まではポップ・ソングとしての体裁を保ちながら、突如それをひっくり返す大胆さはチャーリーの得意技だ。

 本作の歌詞に目をやると、これまでよりもパーソナルな言葉を紡いでいるのに気づく。自身の代表曲“Vroom Vroom”をもじったフレーズが登場する“Next Level Charli”など、チャーリーの実体験がモチーフなのでは?と思わせる内容が多い。
 なかでも筆者の興味を引いた歌詞は“White Mercedes”だ。ドラッグを連想させる描写もある内容は、ポップ・スターとして駆け抜けてきたチャーリーの忙しない人生を歌っているように聞こえる。ちなみに、タイトルはエクスタシーというドラッグを指す言葉でもある。

 そんな“White Mercedes”を聴いて、筆者はチャーリーの背景に想いを巡らせた。もともとチャーリーは、2008年にマイスペースで発表した曲をきっかけに、知名度を高めた。その後はレイヴやパーティーでライヴを重ねるなど、クラブ・シーンがルーツのひとつなのも有名な話だ。そうした道のりを経て、イギリスに住むティーンエイジャーだったチャーリーは、瞬く間に有望株となった。
 影響を受けた音楽も、アフィやジャスティスといった、2000年代のクラブ・シーンで活躍したアーティストを挙げている。この嗜好は、『Number 1 Angel』収録の“Babygirl”にアフィが参加するという素晴らしい出来事にも繋がった。

 チャーリーが飛躍する土台を作ったイギリスのクラブ・シーンといえば、エクスタシーが流行った時代もあった。ピーター・フックが自伝『ハシエンダ マンチェスター・ムーヴメントの裏側』でも綴っているように、マンチェスターを震源地としたセカンド・サマー・オブ・ラヴだって、エクスタシーのパワーによる影響を良くも悪くも受けていた。そのようなドラッグがモチーフと思われる“White Mercedes”を聴いて、筆者は笑ってしまった。現在の流行りに合わせるだけなら、ビリー・アイリッシュの“Xanny”みたいにザナックスを登場させればよかっただろう。しかし、そうはならないところに、チャーリーらしさが感じられ笑みを隠せなかったのだ。
 実はこのらしさ、“Shake It”のサウンドにも表れているように思える。この曲で強調されるロボ声のアレンジが、アフィの代表曲“Pop The Glock”のロボ声とそっくりだからだ。興味があれば、ぜひ聴きくらべてほしい。



サポートよろしくお願いいたします。