Minimal Violence『InDreams』



 カナダのヴァンクーヴァーを拠点に活動するミニマル・ヴァイオレンスは、アシュリー・ラックとリーダ・Pによって結成された。彼女たちの名を広めた作品といえば、2015年にGeneroからリリースされた「Heavy Slave」だろう。L.I.E.S.、Confused House、Bio Rhythmあたりの作品を想起させるロウなサウンドは、多様なリズムが映えるダンス・ミュージックだった。乾いた質感のサウンドスケープはEBMに通じるもので、ポスト・パンクとしても聴ける。このあたりは、アシュリーがポスト・パンク・バンドをやっていた影響もあるだろう。テクノ/ハウスを出自としていないからこそ鳴らせるダンス・ミュージックこそ、彼女たちの真骨頂だ。

 「Heavy Slave」以降も、First Second、Jungle Gym、Lobster Thereminなどからコンスタントに作品を発表し、着実に評価を高めていった。なかでも特筆したいのは、2016年に1080pからリリースしたEP「Night Gym」だ。相変わらずロウなサウンドを志向する一方で、ガバキックを盛りこんだりと、ハードコアの要素も色濃い。いま再注目されている80年代エレクトロをいち早く取りいれたりと、先見性も光る。
 1080pといえば、カナダのダンス・ミュージックを世界に広めたレーベルのひとつとして知られている。D.ティファニーやニュー・バランスなど、1080pからのリリースをきっかけに飛躍したアーティストも多い。そのようなレーベルからのお墨付きをもらったことは、彼女たちの音楽キャリアに良い影響をあたえた。「Night Gym」以降はさらに注目が集まり、Ninja Tune傘下のTechnicolourと契約するまでになったのだから。

 そのTechnicolourからリリースしたデビュー・アルバムが『InDreams』だ。まず驚かされるのは、オープニングの“Untitled Dream Sequence”。ダークな雰囲気を漂わせるシンセのフレーズは、まんまトランスのそれだ。シングルやEPではうかがえたドリーミーな甘美さはなく、現れるのは剥きだしの攻撃性だ。
 続く“L.A.P”ではそれがさらに増す。鉄球のように重いキックはインダストリアル・テクノの硬質さを想起させ、荒々しく鳴るシンセはレイヴ・ミュージックの匂いを醸す。
 思わず笑ってしまったのは“June Anthem”だ。もろにガバを鳴らし、性急なグルーヴを生みだしている。そこにニュー・ビート的な妖しいシンセ・フレーズを注ぎ、殺伐とした雰囲気を創出する。

 『InDreams』は、これまでの作品以上にアグレッシヴでヘヴィーなダンス・ミュージックを鳴り響かせる。ハードウェアのシンセやドラムマシーンを駆使したサウンドはどこまでも生々しく、洗練さとは真逆の獰猛さでリスナーを汗だくにする。しかしそこに、きらめくレーザーに手を伸ばしたくなるドラッギーな陶酔感はない。代わりに存在するのは、怒りや鬱屈をぎゅうぎゅう詰めにしたパンキッシュな情動だ。



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